日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





(シリーズ:対仏「愛国」戦争【1】へ)


 もういい加減こういうのやめようよ、という感想がまず浮かびました。

 いやー、頭がクラクラします。というより、泣きたい気持ち(@高橋幸宏)。こんなこと言いたくありませんが、愛の対極は無関心なのです。弱小・色物系とはいえ、中国の何事かに人並以上の興味と探究心がなければ、こんなブログを余暇の娯楽としてやってなんかいません。

 ですからあまりに馬鹿げた出来事に遭遇してしまうと、愛想が尽きそうになってしまうのです。

 当ブログにとって不可欠な記事漁りを、私は昨年の6月あたりでやめてしまいました。

 第一の理由は体調不良。でも実はそれだけでなく、むしろ当時の四川大震災&北京五輪(聖火リレー)による当局の見え透いた世論誘導に乗っかって自己肥大&自己陶酔してしまい、ボルテージがバカ高くなっている中国人民を目の当たりして記事漁りを続ける気力を失った、という要因の方が大だったといえるかも知れません。医者どもがうるさかったせいもありますけど、一時期、このブログを書くことさえ嫌になってしまいまして。

 その記事漁りを今年に入ってようやく再開できるまでにこぎ着けたのですが、今回の件でまた放棄しちゃおうかなー、という気分になっています。まあ、続ける方向で調整中ではありますが(笑)。

 ……あ、申し遅れましたが「おフランス」の件です。事態は鎮静化していくだろうけど何か続編を書くことがあるかも、とは思っていましたが、まさかこういう展開が待っていようとは。orz



 ●略奪品「金払わない」と宣言 落札の中国人会見(共同通信 2009/03/02/13:14)

 【北京2日共同】第2次アヘン戦争で英仏連合軍が1860年に中国から略奪、フランスの服飾デザイナー、故イブ・サンローラン氏の遺産としてパリで2月25日に競売にかけられたウサギとネズミのブロンズ像を落札したのは中国人だったことが2日、分かった。

 ロイター通信によると、落札者を名乗る中国人は2日、記者会見し「落札した金を支払うことはできない」とし、支払いを拒否する姿勢を示した。

 新華社電によると、海外に流出した文化財を取り戻すキャンペーンを行っている中国の民間組織「海外流出文化財救出基金」が、中国人がブロンズ像を落札した事実を明らかにした。落札した中国人についての詳細は不明だが、同基金と連携しているとみられる。支払いを拒否した後の対応については不明。

 2つのブロンズ像は競売会社クリスティーズにより競売にかけられ、2点で計3140万ユーロ(約39億円、手数料込み)で落札された。

 中国外務省は「中国に所有権があるのは疑いの余地がない」と競売の中止や返還を求めていたが、それ以前に競売にかけられたサル、ウシなどのブロンズ像は中国系企業が落札で中国に買い戻したことがある。

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 ●支払い拒否の中国人「責任を果たした」 競売出品者「保有し続ける」(MSN産経ニュース 2009/03/02/23:26)

 【北京=野口東秀】第2次アヘン戦争のさなか、中国清朝の離宮「円明園」から英仏連合軍に略奪され、このほどパリで競売にかけられたウサギとネズミのブロンズ像の落札者が中国人だったことが2日、明らかになった。国営新華社通信が伝えた。落札した民間組織顧問は「金を払うつもりはない。中国人としての責任を果たしただけだ」と話しており、像の引き渡しをめぐって新たな問題が起きる可能性が高い。

 新華社によると、落札したのは流出文化財を取り戻す活動をしている民間組織「海外流出文化財救出基金」の顧問を名乗る蔡銘超氏。

 像をめぐっては、中国外務省が「中国に所有権があるのは間違いない」と返還を要求。在仏中国人弁護士らによる競売差し止め請求をパリ大審裁判所(地裁)が棄却したことから、中国国内ではインターネットなどで仏製品不買を呼びかけるなどの過激な主張が飛び交う一方、蔡氏の行為は愛国心と団結心を鼓舞する事例と受け止められている。

 ブロンズ像は、先ごろ亡くなったフランスの服飾デザイナー、イブ・サンローラン氏の遺産として競売にかけられ、3140万ユーロ(約39億円、手数料込み)で落札された。ロイター通信によると、サンローラン氏のパートナーで、競売出品者となったピエール・ベルジェ氏は、代金が支払われなければ、ブロンズ像を自宅で保有し続ける意向を表明した。



 要するに、中国当局が「出品をやめろ」「それは元々中国のものだから返せ」などと騒いでいた円明園の十二支銅像のうち2体(イブ・サンローラン氏の遺産)が、中国による根拠のない要求をフランスの司法が一蹴しパリでクリスティーズによってオークションにかけられ、どちらも落札されたと。

 で、その落札者が実はアパレルで財を成した蔡銘超という中国の資産家。しかも「海外流出文化財救出基金」という民間団体の自称顧問。ところがこの蔡銘超が記者会見を開いて「落札したがカネは払わない」という驚天動地の宣言。クリスティーズは目下のところノーコメントを通していますが、出品者は「払わないなら家に置いておくまでだ」と反応。……というのが当事者たちの現時点での動静。

 ……おっと当事者がひとつ欠けていました。他でもない中国当局です。オークションが行われるまでの再三再四の反発・抗議・恫喝・訴訟から蔡銘超による落札、そして「カネは払わない」宣言まで、実は以前から準備されていたシナリオのひとつだった。……と私はみています。「挙国一致」なのです。

 大事ことなのでもう一度。実はこの騒動、落札者個人とかではなく、最初から中国当局が演出・脚本を担当して仕組んだ茶番なのではないか、と。

 そもそもこの蔡銘超が顧問を務めているという「海外流出文化財救出基金」というのは、中国文化部の管轄下にある民間団体。当局に直結しているという点においては、反日サイトの代表格である「中国民間保釣連合会」よりも毛並みが良いのです。

 その中国文化部の直属機関に名前を列ねているのが「中国国家文物局」。オークション実施以前に中国当局は外交部などから声明を出すなどして騒ぎ立てていましたが、この中国国家文物局も声明を出しています。



 ●<中仏>「盗難文化財」の競売に反論声明、「金儲けの道具ではない」―中国(Record China 2009/02/25/23:41)

 2009年2月24日、中国国家文物局は、清朝末期に北京の円明園から英仏連合軍に略奪された動物像をめぐり、競売中止の申し立てが棄却されたことを受け、「国際社会の協力を仰ぎたい」とする声明を発表した。人民日報が伝えた。

 国家文物局は声明で「中国人民の正当な要求が尊重されることを願う。中国政府は断固として競売の反対を表明する」と改めてその立場を強調。「違法に流出した中国の文物を他人の金儲けの道具にしてはならない」と強く反発した。また、パリの裁判所が棄却の理由を「法的に問題ない」としたことは、95年に採択された盗難文化財の返還に関する国際条約「ユニドロワ条約」に反すると指摘。所有者のピエール・ベルジェ氏が「ダライ・ラマ14世をチベットに戻すこと」と政治的な条件をつけたり、高額での買い取りを要求したりしたことを非難した。(後略)



 「事後」にクリスティーズが文化財の輸出入申請をする際の審査を厳格化するよう全国の関係各部門に通達を出したのも、この国家文物局です。

 さらに。「事後」における実質的な中国当局の意思表示が行われています。きょう3月3日から開幕する全国政協(全国政治協商会議=なんちゃって野党を中心とする形骸化した党外オブザーバー機関)の超啓正・大会報道官が2日の記者会見において今回の件にふれ、

「フランスが略奪してきたものを中国に返還するよう望む」

 と真正面から切り込む一方で、

「政協委員たちは、クリスティーズが円明園銅像のオークションを強行したことを失敗(=競売が行われてしまった)と捉えてはならない、と考えている。なぜなら今回の事件はフランス人自身を含む,世界中の人々を教育したからだ」

 と、フランスの司法によって民事はもちろん、刑事起訴される可能性すらある蔡銘超のトンデモ行為を大肯定してみせたのです。今回のオークション自体が全くの過ちで、絶対にやってはならないことだと全世界の人々に思い知らせた、ということでしょうか。何という気宇壮大ではなく自己肥大。

 ま、当ブログで以前から指摘し続けている通り、世界の中心を自認する中華思想のプライドと19世紀以来列強に散々喰い物にされてきたというトラウマの両方を、いずれも医学で扱うべき深刻なレベルで一人格に抱え込んでいる。……という民族的宿痾ですね。わかります。

「中国よ法治を知れ歴史を知れ恥を知れ」

 と前回、このタイトルはちょっと色物すぎるかなー、と思いつつ使ってしまったのですが、何とまあ、実際に中国には法治(契約)と廉恥の概念がすっぽりと欠落していたんですね。

 今日は火曜日ですから外交部報道官による定例記者会見が開かれるとすれば、そこでより踏み込んだ、よりオフィシャルな声明が出されるのではないかと思います。

 ちなみに前回も指摘した通り、上の声明に出てくる「ユニドロワ条約」にはフランスも日本もイギリスもアメリカも調印していません。このために中国側はオークション中止を求めたフランスの裁判所における訴訟で敗訴しています。

 ちなみにユニドロワ条約なのかどうか、流出文化財返還に関する国際条約には申請手続きにおいて時間的制限などがあり実質的に機能していない、ということを『香港文匯報』かどこかで香港か中国の法律学者がコメントしていた記事もありました。

 ●「新華網」(2009/02/24/20:04)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2009-02/24/content_10887200.htm

 ●『中国青年報』(2009/02/27)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2009-02/27/content_10906955.htm

 ●「新華網」(2009/03/02/16:23)
 http://news.xinhuanet.com/misc/2009-03/02/content_10928870.htm

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 さて、超啓正が上の記者会見でわざわざ「フランス人」と言及しているように、こうなってくると中国の喧嘩相手はクリスティーズというよりフランスそのものとなってきます。昨年春のフリーチベット支援や聖火リレーでの抗議活動以来ギクシャクしている中仏関係ですが、先の温家宝・首相が欧州歴訪でフランスをスルーしたのに加え、このほど渡欧した中国商務部が率いる訪問団が総額130億ドルの契約を各国との間に交わしたものの、このときもフランスは仲間外れにされています。

 そしてこういう記事も。

 ●フランスへの報復?エアバス購入取りやめ=損害額は100億ドルに…中国(RecordChina 2009/03/02/10:50)

 報復措置?このニュース自体はエアバス社の現地法人によって否定されているのですが、肝心のところは企業秘密だとかで煙に巻いています。とりあえず、金融危機で中国当局から国内航空各社に旅客機購入をなるべく先延ばしにするかキャンセルするか努めよ、との通達が出ているとのこと。エアバス社に対しても既発注分についてそれが行われていて、その過程で意地悪されている可能性はあるかも知れません。はてさて。

 ともあれ、「カネは払わない」宣言を発表した対仏「挙国一致」戦争の最前線に立つ蔡銘超はまた、

「中国人誰もが(この問題に)立ち向かい、私は自分の責任を果たしたにすぎない」

 と大見得を切っています。この「愛国的発言」に、かねてよりオークションに猛反発していた中国のネット世論はいうまでもなく大沸騰。大手ポータルの「新浪網」がさっそくネット上でのアンケートを実施しています。現時点で32万人強が投票と、久々の盛り上がりぶりです。ええ、いよいよ「挙国一致」という訳で。



 一、華人が高値を出して銅像を落札したことはよかったか?
 (1)銅像は本来中国へ無償返還すべきもの。悪意で釣り上げられた値段に手を出す必要はない。→84.4%
 (2)銅像が中国に取り戻されるのであれば高値でも構わない。→11.7%
 (3)どちらともいえない。→3.9%

 二、蔡蔡銘超氏が支払いを拒否していることを支持するか?
 (1)支持する。→74.7%
 (2)支持しない。→17.3%
 (3)どちらともいえない。→4.3%
 (4)支持するが、代金は支払うべき。→3.7%

 三、今回の事件でどのような影響が出るか?
 (1)中国人が国家利益を保全するやり方をフランスに思い知らせる。→72.9%
 (2)ビジネスに従事する中国人の海外におけるイメージが悪化する。→13.8%
 (3)フランス人の中国人に対するイメージが悪化して、両国関係の対立が深まる。→9.9%
 (4)わからない。→3.4%

 ……対外問題でネット世論が盛り上がれば当然強硬論が主流となるものですが、早くもこの結果。アンケートの設問がすでに「中国vsフランス」になっていることにも留意しておきましょう。これが中国当局の意図かどうかはともかく、すでにそういう流れになっているということです。

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 さあ、「愛国無罪」に向けたスタートの号砲がいま,鳴り響きました。とりあえず予想されるのは、「カネは払わない」宣言をした落札者・蔡銘超に対するクリスティーズからのペナルティ措置、ひいてはフランスの司法による処罰です。

 ……ええ、この状況になれば「蔡銘超を守れ」とか「銅像を中国へ無償返還しろ」といったお題目によるネット署名がまず考えられます。「愛国無罪」爆発へのプロセスを改めて出しておきましょう。

 (1)『環球時報』や『国際先駆導報』が煽る。
 (2)ネット世論が沸騰する。
 (3)ネット署名が開始される。
 (4)署名運動が現実世界の街角でも展開され始める。
 (5)街頭署名活動に集まった群衆が騒いだり、抗議デモが行われたりする。
 (6)プチ暴動発生。

 現時点は(2)の段階ですが、これが(3)のネット署名に進むかどうかは中国当局の本気度次第。日本相手ならともかく、フランスとの喧嘩なら暴発には至るまい、せいぜいフランス系スーパーであるカルフールの不買運動とか店舗前デモ程度で済むだろう。……と党中央が多寡をくくっているのならネット署名にゴーサインを出すでしょう。そのあたりの機微については今日行われるであろう外交部報道官定例記者会見で見きわめたいところです。

 ●「広州日報→新華網」(2009/03/02/08:16)
 http://news.xinhuanet.com/fortune/2009-03/02/content_10925110.htm

 ●「共同通信」(2009/03/03/01:32)
 http://www.47news.jp/CN/200903/CN2009030201000841.html

 ●「新浪網」
 http://survey.news.sina.com.cn/voteresult.php?pid=31174

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 最後に。

 今回の標題に「大丈夫?」を入れたのは、現在の悪化した社会状況でネット署名なんか始めちゃったらマズいんじゃないの?……という含みに他なりません。フランス相手にゴネ続けるという姿勢を可とする判断の是非は措くとしても、折しも尖閣問題の舞台(土俵?)が出来上がりつつある状況なのです。

 中国当局は日仏相手の二正面作戦を選択するのでしょうか?尖閣問題となれば政争を呼ぶことになりかねないのですが、大衆の勢いにもなかなか抗えるものではありません。悪くすれば,正に「時勢」が醸成されることに。wktk?……そりゃもちろんワクテカ。

 ところで、その一方でチベット情勢がにわかに緊迫してきています。

 ●治安部隊、抗議の焼身自殺図ったチベット僧を銃撃 中国(asahi.com 2009/03/01/01:46)

 この事件が発生した四川省アバ・チベット族チャン族自治州で3月1日、約200名の僧侶が寺院内で始めた法要を治安当局が介入して中止させたため、抗議デモが発生。当局は人民解放軍及び武装警察を急派し、現地は戒厳令状態となった模様です。

 他の場所でも抗議活動が行われ逮捕者が出たりしているようですが、事の次第では再び国際社会でチベット問題がクローズアップされ、この種のことには特に敏感なフランスでフリーチベット気運が高まれば。……これまでの経緯もあり「中国vsフランス」の構図が激化、となれば例によって中国はお得意の人海戦術で「愛国無罪」まで突き抜けてしまう可能性が高まります。

 対仏「愛国無罪」モードが発動されれば、たぶん尖閣問題から考えて日本に対する「愛国無罪」も途中からセットでついてくることになるのではないかと。元々日本相手に単発の線で私は考えていたのですけど、まさか中仏バトルがこういう展開に至るとは思ってもみませんでしたから。

 正念場であります。

 ●「博訊網」(2009/03/02)
 http://news.boxun.com/news/gb/intl/2009/03/200903021915.shtml


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