日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 忙中閑なし、の日が続いております。仕事の追い込みです。香港側の事情に関係なく、日本の仕事納めまでにやることをやっておかないと後で泣きをみますから。ここ数日が勝負です。打ち合わせとかの掛け持ちになるので、先日までとは逆に外出する機会が増えることになります。

 だからその空き時間を利用して小ネタに逃げる、という訳ではありませんが、一種の季節ネタで当局発表の典型のようなものがありましたので紹介しておきます。私は学生のとき上海から出張講義に来ていた中国人教授から、

「人民日報倒着看」(『人民日報』は逆さにして読む)

 という言葉を教わりました。重箱の隅をつつくようなものではありますが、実はそうしたちまちました作業が中国観察の醍醐味でもあります(笑)。

 今回のテキストはこちら。



 ●農村部の1.28億人が危険な水にサヨナラ(新華網 2007/12/23/07:40)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2007-12/23/content_7296694.htm

 概略は以下の通りです。

 ●2001年以来、中央政府は147億元を投じ、地方当局なども動かして農村部住民1.26億人の飲料水問題を解決した。
 ●第11次五カ年計画期間(2006~2010年)においては、中央政府はさらに320億元の財政支出により、農村部住民の飲料水問題に直面している人口を半減させる。
 ●2007年には中央政府が64億円を投じて3152万人の飲料水の安全問題を解決した。
 ●水道水敷設だけでなく、水源汚染問題の改善にも努めたことで、第10次五カ年計画期間(2001~2005年)には消化器系伝染病などの農民の疾病率も47%減少した。
 ●これからも頑張るぞ。




 という内容です。「飲料水問題」、まあ生活用水の問題といっても、

 ●1.水道が敷かれていないため遠くまで水汲みに行かなければいけない。
 ●2.生活用水が安全基準に達していない。
 ●3.給水量不足。要するに水飢饉。

 などがありますが、この記事では(2)に重点が置かれている模様です。ちなみに大雑把な言い方をすると、中国農村部には安全基準に達していない「水めいたもの」を生活用水に使用している農民が3億人いるといわれています。

 何だいお決まりの自画自賛記事じゃないか、といえば正にその通りなのです。年末にはこの種の記事が増えてくるのでいわば季節ネタといっていいのですが、このニュースも逆さにして読むと色々と想像することができます。……あ、でも「統計がアテにならない」というのはデフォですからここではふれません。

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 ●問題が解決した人数しか明らかにされていない。

 これは失業・就業問題での自画自賛記事でもままあることですが、「今年中国は×千万人の就業を実現した」と報じていても、逆にどのくらいの人数が新規失業者になっているかに記事が言及することはありません。

 それと同じで、「1.26億人の問題を解決した」というのが事実であっても、深刻化する一方の環境汚染問題や水不足問題からして、
一方では生活用水問題の新規被害者が出ていないとは限りません。

 サヨナラした人がいる半面、コンニチハした人もいるかも知れないということです。少なくともこの記事においては「新規被害者はいない」とは書いていませんし、
解決すべき対象があと何億人いるのかにもふれていません。

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 これは当局発表(中国に限らず)につきものの、

「報喜不報憂」(当局にとって都合のいいことしか報道しない)

 の一典型です。もっとも中国のマスコミは「党と政府の代弁者」という定義がなされていますので、一種の機関紙や広報紙のようなものだと考えれば当局発表の裏読みをしない素直な報道スタイルもごく当然のこととなります。

 もちろん『南方都市報』など社会派の新聞もあったりしますし、販売競争でスクープ報道が行われたりもします。ある程度は許容されているということですが、やり過ぎると記者が解雇・逮捕されたり新聞自体が休刊・廃刊になったりします。

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 ●「47%減」の謎。

 農民の消化器系伝染病などの疾病率が47%も低下したと報じられていますが、唐突に出てくる数字なので何を意味するのか不明です。文脈でいえば第10次五カ年計画期間の疾病率がそれ以前の5年間(第9次五カ年計画)より47%減った、ということになりますが、
比較対象が明らかにされていないのでこれは推測にすぎません。

 調査対象も不明です。「農民の疾病率」とあるので都市部人口が含まれていないことはわかりますが、
基数が生活用水問題の被害者なのか、あるいは農村部総人口なのかは記事から確認することができないのです。

 また、わざわざ「消化器系伝染病の疾病率」と銘打たれてあるので、
その他の病気が「飲料水問題」によって深刻化している可能性もあります。
 
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 ●「水質汚染」の実質的進行度は?

 記事ではこのプロジェクトによって水質汚染の問題も改善が進んだ、とされていますが、具体的な数字は示されていません。この取り組みである地域の汚染改善が進む一方で、
別の地域では水質汚染が深刻化している可能性もあります。

 水不足についても同様のことがいえるでしょう。

 ……まあ生活用水問題に限定された記事ですし、実際に水道が敷かれたりして喜んでいる農民たちがいるのは事実でしょう。ただ短信ながら額面通りに受け取って「へーそうなのか」で流してしまう訳にはいかない記事だと私は思います。

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 そもそも「147億元」「64億元」という数字からしてアテにはなりません。これは数字に信が置けないというのではなく、
あくまでも中央政府による支給実績に過ぎないという意味です。この金額に対して、末端レベルでの受給実績が大幅に減少してはいないか、途中で着服している奴がいるのではないか、ということに思いを巡らす必要があります。

 勘繰り過ぎ?といわれそうですが、実はこれは土地収用問題における当局から農民へ支払われる補償金の金額をめぐって官民衝突が発生している主要な原因のひとつでもあります。

 ●悪魔の錬金術(2004/12/19)

 まあ天の邪鬼はこのくらいにしておきましょう。今は知らず、私の学生時代にはこの手の授業がなかったので、授業時間外に恩師をはじめ諸先生方に喰いついたり、図書館で香港の政論誌『争鳴』『九十年代』や台湾の『中共研究』、日本語だと霞山会の『東亞』(の小島朋之氏の連載)などを読むことで飢餓感を癒していたものです。

 それではまた打ち合わせに行ってきます。




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