日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





「上」の続き)


 まずは論評抜きの事実だけを報じた速報記事。

 ●福田首相、台湾問題における日本の姿勢は「4つの『しない』」だと表明(新華網 2007/12/28/13:51)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2007-12/28/content_7329267.htm

 この記事によると
「4つの『しない』」とは、

 ●「一つの中国」を捨てて「二つの中国」や「一中一台」を打ち出したりしない。
 ●「台湾独立」を支持しない。
 ●台湾の国連「加盟」を支持しない。
 ●台湾の国連加盟の是非を問う住民投票の実施を支持しない。

 とのこと。

「台湾について、日本の立場は日中共同声明にある通り」

 との決まり文句をまず持ち出した上で、福田首相はこの4項目を付け加えた形です。「福田・温家宝会談」を報じたオフィシャルな記事でも同じで、



 ●温家宝総理、日本の福田康夫首相と会談(新華網 2007/12/28/16:12)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2007-12/28/content_7330490.htm

 福田首相は台湾問題について、日本の立場は日中共同声明にある明確なスタンスを堅持するものであり、「二つの中国」や「一中一台」を打ち出したりせず、「台湾独立」を支持せず、台湾の国連「加盟」を支持せず、また台湾の国連加盟の是非を問う住民投票の実施を支持しないと表明した。




 となっています。


 ――――

 これに対し,中国側は福田首相の
「4つの『しない』」に敏感に反応。外交部報道官(デブの劉建超)がわざわざ声明を発表し、

「福田首相が台湾問題で完璧な意思表示をしたことを賞讃する」

 と表向きは晴れやかなノリで続きました。ただし本音はそうでないことを示すかのように、

「福田首相の様子を見るに、台湾当局が住民投票を行うことに不満で、住民投票が問題を引き起こすことを心配していた」

 とわざわざ付け加えています。……コラ病豚、お前が受けた印象なんて誰も必要としていないんだよボケ。

 ●外交部報道官:福田首相が台湾問題で完璧な意思表示をしたことを賞讃する(新華網 2007/12/28/23:17)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2007-12/28/content_7332903.htm

 しかし「賞讃」というのがムカつきますね。「評価」と訳出しても気分が悪くなります。

 ――――

 ……ところが、です。病豚の劉建超よりさらに醜悪なのが一匹おりました。

 他でもない温家宝です。これはすごいですよ。舞台は「福田・温家宝会談」後の共同記者会見。福田首相が、

 ●「一つの中国」を捨てて「二つの中国」や「一中一台」を打ち出したりしない。
 ●「台湾独立」を支持しない。
 ●台湾の国連「加盟」を支持しない。
 ●台湾の国連加盟の是非を問う住民投票の実施を支持しない。
 

 と「4つの『しない』」を改めて表明したのに対し、それを受けた温家宝は、

「日本側が台湾問題において『一つの中国』を堅持し、また『台湾独立』に反対する立場を表明していることを中国側は重視している」

 と、さりげなく言ってのけました。……ん?
タイワンドクリツニ、ハンタイ???

 ●福田康夫首相が日本側の台湾問題における立場を表明(新華網 2007/12/28/14:37)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2007-12/28/content_7329602.htm

 ――――

 これが首脳会談後の共同記者会見ではなく、例えば町内会のやや緊張した寄り合いであれば、

「何だと?おいちょっと待てよ温家宝、お前いま何て言った?どういうつもりだ?」

 ……と詰め寄って胸倉を掴むところでしょう。多少酒が入っていれば殴り合い突入は必至。

「台湾独立を支持しない」

 と福田首相が言ったそばから温家宝が、

「台湾独立に反対」

 と言い換えて歪曲しておっかぶせているではありませんか。厚顔無恥ここに極まれり、としかいいようがありません。醜悪,正に醜悪であります。

 ●町村官房長官「卑劣な行為は断固非難」…ブット氏暗殺で(読売新聞 2007/12/28/12:36)
 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20071228i404.htm

 マッチー、同じことを温家宝にも言ってやりなよ。

 ――――

 しかし翻って考えてみると、台湾問題に対する日本側の意思表示は、温家宝がそういう挙に出るほど中国側にとって不満な結果だった、ということになります。

 いや、内外報道陣の前で醜態を晒さなければならないほど追い詰められていた、ということかも知れません。台湾をめぐる情勢について、中国上層部内の対外強硬派や軍部の神経質ぶりは私たちの想像をはるかに上回っていることをうかがわせた、あるいは温家宝がかくも馬鹿な真似をしなければならないほど内部での突き上げが激しかった、というべきでしょう。

 ということは福田首相GJ?かといえばそれは違います。中国側のリアクションからして粘ったであろうことは想像できますが、

 ●台湾の国連「加盟」を支持しない。
 ●台湾の国連加盟の是非を問う住民投票の実施を支持しない。

 という無用な「支持しない」を2つも付け加えてしまったのはやはりいただけません。台湾からも早速ブーイングが飛び出しています。



 ●台湾:福田首相の「国連加盟住民投票」不支持発言に反論(毎日新聞 2007/12/28/23:52)
 http://mainichi.jp/select/seiji/news/20071229k0000m030108000c.html

 【台北・庄司哲也】台湾外交部(外務省)は28日、福田康夫首相が台湾名義での国連加盟の住民投票に不支持を表明したことについて、「国連加盟は台湾人の願いであり、住民投票は民主的なプロセス。両岸の現状を変更するものでもない」などと反論する声明を発表した。




 まあ台湾からの抗議なんて放っておけばいいのです。……と釣糸を垂らしてみましょうか(笑)。

 「台湾応援団」のひとりであることを私は自任してはばかりませんが、台湾は日本に文句を言う前に「台湾名義での国連加盟」が反対派を圧倒するような国内状況を一刻も早くつくり出すことに専念すべきだと思うのです。それができない癖に抗議とは片腹痛いではありませんか。

 私は「台湾応援団」の一員である以前に、日本人です。台湾が正常な国家として生まれ変わり、堂々と国際社会で呼吸できる日が来ることを願ってやみません。とはいえ、今回福田首相が2つの「支持しない」を加えてしまったことは、台湾がどうのこうのという以前の問題。日本自身の問題です。

 対中カードをまた自分から捨ててしまったことは、国益に照らして正しい選択だったとはやはり思えないのです。

 ――――

 最後に一言。



 ●環境保護で「日中共同基金」創設、公明代表が首相に要請(読売新聞 2007/12/27/14:45)
 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20071227ia03.htm

 公明党の太田代表は27日午前、首相官邸で福田首相と会い、28日の日中首脳会談で、中国の環境保護を目的とした日中共同出資の基金の創設を提案するよう要請した。

 太田氏によると、首相は「環境問題について色々な角度で話をしてくる。この(基金の)問題も話し合いたい」と応じたという。

 基金をめぐっては、今年度で終了する対中円借款に代わる新たな支援策として、与党から創設を求める声が上がっていた。政府は、財政上の理由から慎重な姿勢を示している。




 あのーホッケ終わっちゃいました。ホッケ終わっちゃったんだって。まーいいじゃないですか。でもお願いだから真面目に相手してやったりしないで下さい。

 対中円借款に代わる新たな支援策? ふ・ざ・け・る・な。




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 だから
余計な話はするなとあれほど……。orz



 ●謝長廷訪日、ローゼン蠢動、MD実験成功…中国が「台湾」でピリピリ?(2007/12/19)

 とりあえずいえることは、福田首相訪中に際して神経質になった軍部が胡錦涛政権にあれこれ口出しをしてくるかも知れない、ということです。毎度毎度のことではありますが、台湾問題について中国の主張に同調するよう求めてくるのはお約束として、その姿勢がより強いものになるかも知れません。なるかどうかは胡錦涛の指導力次第でしょう。

 日本としてはこれまで公式文書で再三表明しているように、台湾に対する立場は「日中共同声明」に依拠している、ということになります。露骨にいえば、

「中国側が『台湾は中国の一部』と主張しているのは承知しているが、日本はそれを正式には承認しない」

 というものです。

 今月(12月)初めの高村外相訪中時にも日本側はこの立場を改めて表明しています。ただ台湾問題に対する中国のピリピリ感は当時に比べてかなり高まっているものと思われます。福田首相にはこれまで通り、

 ●日本側の立場は『日中共同声明』にある通りだ。
 ●台湾海峡をはさむ双方のいずれもが一方的に現状を改変しようとすることに反対する(=中国が動くのもダメ)。
 ●台湾独立を支持しない(=反対もしない)。

 という姿勢を明確に示してもらいたいところです。



 ……と、このあたりを案じていたらフフン♪は期待に違わず本領発揮。



 ●日中首脳会談:首相が胡国家主席と会談 互恵協力を推進(毎日新聞 2007/12/29/01:00)
 http://mainichi.jp/select/today/news/20071229k0000m010124000c.html

 (前略)
温家宝首相との共同記者会見で、福田首相は台湾の国連加盟に関する住民投票について「(中台間の)一方的な現状変更につながっていくなら支持できない。『二つの中国』または『一つの中国、一つの台湾』という立場はとっていないし、台湾の独立は支持していない」と明言した。

 「台湾の独立を支持しない」という方針自体は、安倍晋三前首相も4月の温首相との会談で表明しているが、
福田首相はこれより踏み込んだ表現で中国の立場に支持を表明した。

 ――――

 ●ガス田「進展確認」、主席来日時を念頭 日中首脳会談(asahi.com 2007/12/29/03:06)
 http://www.asahi.com/politics/update/1228/TKY200712280329.html

 (前略)
福田首相と温首相との会談では、ガス田の共同開発について、「新たな共通認識」として4項目を確認。「国際法にのっとり、早期に解決策について合意を目指す」との文言が盛り込まれた。外務省幹部は「(両国の)法的立場はあるが、それを害さない形で国際法にのっとった解決はどういうものがあるかについて話し合われた」と述べた。

 
(中略)国連加盟の是非を問う住民投票を予定している台湾問題については、温首相が会談で「歴史と台湾問題は日中関係の政治的基礎。住民投票の動きは地域の安定を脅かすものだ」と懸念を表明。福田首相は「投票をめぐって緊張が高まるようなことは望んでいない。一方的な現状変更につながるのであれば支持できない」と語り、住民投票に初めて不支持の立場を示した。



 誰が台湾の住民投票のことまで話せと?東シナ海ガス田問題についての「新たな共通認識」に対する見返り?それとも「新幹線を大量発注」という中国側からの有難迷惑なお土産への返礼?拉致問題では何の進展もなかったようですし。

 あーあ。

 台湾問題は従来通り、

「台湾について、日本の立場は日中共同声明にある通りであり、台湾の独立を支持しない」

 でよかったのではないでしょうか。
中国最大の痛点なんですから、今まで通りのスタンスを維持しておけば今後いいカードになるかも知れないのに。

 頼まれもしないのに
「首相在任中は靖国神社に参拝しません」と言ったのと同じですね。

 台湾問題については、日本も中国も「日中共同声明にある通り」で何の不足もないでしょう。日中双方がひとつの約定をそれぞれの解釈で根拠にしておけばOK。中国側は「台湾は中国の一部」と主張しているのに対し、日本はそれを承知してはいるものの、「一つの中国」と違って正式に承認してはいないのですから。

 ――――

 日本は台湾を「中国の一部」と正式に認めていないので、「台湾独立を支持しない」でいいのです。「中国の一部」でない以上、「中国からの台湾独立」という事態は起こり得ることのない虚構にすぎません。それでも中国が執拗なため「支持しない」としてはいますが、
「支持しない=反対もしない」という理屈が成立します。

 中国にとっては痛点であるために台湾問題のこの点には非常に神経質で、今年(2007年)4月に温家宝・首相が来日した際も、
「台湾独立に反対する」という文言を共同プレス発表に盛り込めと日本側にしつこく迫りました。これに対し安倍晋三・首相(当時)は、

「それなら共同プレス発表は出さなくてもいい」

 と、ピシャリ。結局は中国側が折れて、

「台湾について、日本の立場は日中共同声明にあるとおりであり、台湾の独立を支持しない」

 という、小泉政権時代にも用いられている使い古された文言そのままで決着したのです。

 温家宝はよほど悔しかったのでしょう。その後行われた日本の国会での演説、その予定稿では日本に言及する部分が台湾問題の分量よりも少なかったうえ、本番ではその少ししかない日本に関する部分の半分を読み落としました。あれは絶対に故意。

 ●【温家宝来日】戦略的互恵関係って何それ?(2007/04/12)
 ●【温家宝来日】言いたい放題やりたい放題!それでも日本は拍手喝采。orz(2007/04/13)
 ●【温家宝離日】まず塩をまく。それからちょっとだけ考える。(2007/04/14)

 ――――

 この
「台湾について、日本の立場は日中共同声明にあるとおりであり、台湾の独立を支持しない」という言い回しは上述した通り「支持しない=反対もしない」ですし、日本側の解釈では中国の一部ではないのですから「台湾独立」というのは全くの絵空事となります。

 ところが、
「台湾の国連加盟」「台湾が国連加盟の是非を問う住民投票を行う」というのは「中国からの台湾独立」とはまるで性質が違います。日本とは国交のない台湾という地域での具体的なアクションであり、絵空事ではありません。なぜそれについて支持するしないを言明しなければいけないのでしょう?

 今回の福田康夫・首相の訪中に際しても、中国側はこの点で執拗に「台湾独立に反対」とするよう日本側に強く求めたことでしょう。安倍前首相や麻生太郎・元外相と違って外交戦略に独自の明確なビジョンを用意していない福田首相は、安倍前首相ほどこの点に強いこだわりを持っていなかったのかも知れません。

 惜しい、というよりこれは失策。戦略不在は媚中派よりも始末が悪いものです。

 ただし、福田首相もそれなりに粘った形跡はあります。

「一方的な現状変更につながっていくなら支持できない」

 と、「支持できない」の前が仮定形であり、「一方的な現状変更につながるなら」と条件付きだからです。

 そして、福田首相が妥結したこの結果について、中国側は納得できず、不満の残る内容だったようです。国営通信社・新華社の報道をみてみましょう。


「下」に続く)


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「中」の続き)


「走れば走るほど『割拠』」

 という主題は何やら語り尽くして余談にまで走ってしまったようですが、私としてはいま現在の話をしたいがためにこのテーマを持ってきました。まだ終わっていません(笑)。

 「割拠」の中国経済に対する影響、具体的には
「割拠」が中央によるマクロコントロールを機能不全に陥れる、といったことについてです。中央は最近になって経済の引き締め政策の強化を打ち出しました。

「経済過熱にならぬよう注意しつつソフトランディングを」

 と4年前にはいわれていたのが、現在では
「経済過熱」はほぼ認知されていて、それよりもインフレ防止に全力を挙げようという話になっています。中国国内メディアの報道に接していると、

「温和なインフレ」
「明確なインフレ」
「全面的なインフレ」

 などインフレにしても諸段階があるようで、いま現在は中国が「温和なインフレ」状態にあることが半ば認められつつそれをどう手当てするか、また「全面的なインフレ」に悪化する可能性はあるのか、といった議論が交わされている模様です。

 ――――

 ざっくりした言い方をすれば、中国経済は改革開放政策が本格化して以来、5年前後の周期で成長路線を突っ走っては経済過熱が発生してそれを引き締め政策で押さえ込む、といったことが行われてきました。
「放」(経済再加速)と「収」(経済引き締め)の繰り返しです。

 いまの段階は「収」に転じたところでしょう。難しい言葉はわかりませんが、おカネが市中に出回り過ぎて株や不動産への投機などが流行していて、それが過熱して変な展開になると政権基盤すら揺るがしかねないので、中央は今年に入ってから利上げを何度か行ってきました。それでもカネ余り対策としての効果があまりみられないので、今度はさらに銀行融資にも厳しい規制を加えることになっているようです。



 ●不動産投資も加速 1-11月32%増加 中国国家統計局(FujiSankei Business i. 2007/12/15)
 http://www.business-i.jp/news/china-page/news/200712150027a.nwc

 中国国家統計局が14日発表した今年1~11月の都市部固定資産投資統計によると、不動産開発投資は2兆1632億元(約33兆円)となり、前年同期比31.8%増加した。増加率は1~10月の同31.4%を上回った。

 中国政府は、景気過熱とインフレを抑制する「2つの防止」を当面の最優先課題に設定。勢いが止まらない不動産ブームを受けて、融資の総量規制の徹底、金融の一段の引き締めに乗り出す方針だ。

 1~11月の固定資産投資は、全体では10兆605億元(約153兆7200億円)で同26.8%の増加した。このうち中央政府管轄のプロジェクト(金額ベース)は同12.8%の伸びにとどまったが、地方政府分は同28.6%の高い伸びを記録した。(北京/時事)

 ――――

 ●最悪の展開に近づきつつある中国経済(サーチナ 2007/12/27/16:53)
 http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2007&d=1227&f=column_1227_004.shtml

  12月25日付けのフジサンケイビジネスアイは、中国金融当局が、金融引き締め策として厳しい融資規制を実施した結果、資金繰りなどに支障が生じる日系企業が相次いでいると報じています。記事は、日本貿易振興機構(ジェトロ)広州事務所への取材をもとにしているようで、資金調達面で影響を受けた日系メーカーは広州で2~3割に達したとしています。

  中国政府は、10月16日に開かれた共産党大会の金融代表団会合で、商業銀行に対する融資の窓口指導を拡大する方針を示しています。窓口指導とは、金融当局が市中の金融機関に融資金額を指導するものです。中国の場合、不動産や鉄鋼などで設備投資の過熱感が高まっているため、窓口規制では、不動産などの投資過熱業種を中心に企業への融資規制を強化しています。

  ところがフジサンケイビジネスアイの記事によると、融資規制の対象は、不動産など投資過熱業種への投資目的の融資にとどまらず、一般の資金調達のため融資や日常的な手形割引への融資も引き締めているようです。このため、日系企業の中には、製品の納入先から代金支払いの手形を受け取れないといった事態に直面するところもあるようです。

  各種報道によると、中国の中央銀行である中国人民銀行は、年末の人民元貸出残高が10月末の残高を超過してはならない、という指導を商業銀行にしているようです。おそらく商業銀行としては、不動産など投資過熱業種への融資を抑制するだけでは、年末の貸出残高を10月末の水準に抑えることができないため、業種を問わず様々な融資を抑制していると思われます。

  支払い代金の手形すら受け取れないくらい金融が逼迫しているのであれば、中国の金融引き締め策は、それなりに強い効果を持つもののように思えます。しかし、11月の消費者物価が前年比プラス6.9%と11年ぶりの高い伸びを示し、上海総合株式指数が、依然として5200台を維持するなど、マクロ指標を見る限り、中国政府による金融引き締めが効果的に実施されているとはいえません。
(後略)

 ――――

 ●中国、住宅ローンが急増・1-11月12兆円増、不良債権化の恐れも(NIKKEI NET 2007/12/28/07:02)
 http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20071228AT2M2702027122007.html

 中国の商業銀行による個人向けの住宅ローンが急増している。今年1―11月の増加額は約8000億元(約12兆円)と、すでに昨年1年間の4倍に達したもようだ。中国では昨年から不動産市場が過熱気味で、投機目的を含めた住宅購入がブームになっている。中国政府は金融引き締めを強化しており、住宅価格が急落すれば多額の不良債権が発生する恐れもある。

 中国紙「21世紀経済報道」によると、民間の主要9行による個人向け融資残高は1―11月に2628億元増えた。国有銀行の増加額は明らかになっていないが、市場では「5000億元程度」との見方が大勢。両者を合わせた増加額は8000億元近くに達したとみられる。2006年全体(約2000億元)に比べほぼ4倍の規模だ。




 昔は経済引き締めといえば一刀両断型で政治的引き締めも行われ、全ての空気をガラリと入れ替える乱暴なものでした。経済面では金融引き締めと同時に行政や党のルートで政治的に力づくで経済をねじ伏せる形がとられたものです。その過程で責任者が失脚したり干されたりすることもありました。要するにハードランディング。

 しかし今回は基本的に金融引き締めメインで事態を乗り切ろうとしているようです。果たしてそれは奏功するのか?と問われれば、

「それは無理」
(ジョン・カビラ調)

 と答えるほかありません。現在の経済運営のシステムは以前よりずっと成熟している筈ですが、利率をいじくっても抜け道はいくらでもあるでしょうし、融資規制も各地の「諸侯」が従ってくれるかどうか次第。

 中央の威光の及ぶ範囲、例えば「雇われトップ」を送り込んである直轄市とか経済特区、それに省当局の置かれている省都とかなどでは胡錦涛政権の顔を立てて中央の政策に従ってくれるかも知れません。実際に企業の資金繰りの悪化など引き締め政策の影響が報じられているのも、こうした中央が直接手を突っ込むことのできる行政レベルの地方当局です。いわば「大諸侯」。ところがその下の「市」や、豪華庁舎を平気で建てたりする「県」や「鎮」といった「中諸侯」「小諸侯」はどうでしょう?

 ――――

 私が何よりも懸念しているのは、
北京を頂点とする各銀行のピラミッド型指揮系統が末端まで機能しているのか、ということです。

 地元当局に取り込まれたのか癒着したのか、ともかく銀行の地方支店が北京よりも地元当局の言いなりになるケースは以前から一般的です。上の記事にもあるように、

 ●1~11月の固定資産投資は、全体では前年同期比26.8%の増加した。このうち中央政府管轄のプロジェクトは同12.8%の伸びにとどまったが、地方政府分は同28.6%の高い伸びを記録した。

 という部分でそれを垣間みることができます。……というよりそのものズバリの記事も。

 ●地方政府の固定資産投資熱に要注意(新華網 2007/12/25/15:16)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2007-12/25/content_7310350.htm

 正にピンポイント(笑)、
「いまだに成長率信仰を捨てていない地方幹部がいる」のだそうです。中央の苛立ちが感じられます。

 第11次五カ年計画の初年度だった昨年(2006年)などは、1年の3分の1が経過した4月末時点で早くも銀行の融資年間枠の6割以上を消化してしまっています。むろんこれは中央の望んだものではありません。

 固定資産投資であれ銀行融資であれ、いずれも今年(2007年)の大幅な伸びは急膨張を遂げた昨年を基数としたものです。銀行をも取り込んだ「割拠」は今回も中央のマクロコントロールを十分に機能させないことでしょう。かといって胡錦涛に力づくで「諸侯」をねじ伏せる力量はありません。

 ――――

 ちなみに、「諸侯」が「割拠」する上で取り込んでいるのは銀行だけではありません。今年の人民解放軍の人事異動では大軍区はもとより、省軍区のトップレベルの入れ替えが目立ちました。胡錦涛色を強める一方で、定期的な異動によって地元当局との癒着を防ぐ狙いが中央にはあったようです。

 省軍区といっても旗下の全戦力をどこか一カ所にまとめて駐屯させている訳ではないでしょう。海軍、陸軍、空軍それぞれが、省内の何カ所かに基地を持って部隊を配置させている筈です。となると、日常の公的往来を通じて「中諸侯」「小諸侯」と持ちつ持たれつの関係が実際に生じていたとしても不思議ではありません。

 ●『香港文匯報』(2007/10/10)
 http://paper.wenweipo.com/2007/10/10/CH0710100005.htm

 12月に入ってからは各地の司法高官の入れ替え人事が全国規模で行われました。これもまた「諸侯」に取り込まれるのを防ぐ措置とのこと。

 ●『明報』(2007/12/20)
 http://hk.news.yahoo.com/071219/12/2lnb7.html

 もとより司法の独立が果たされていない国です。取り込まれた実例はいくらでもあるでしょう。例えば上海市の汚職官僚の裁判が遼寧省で行われたりする、といった
「異地審理」も「癒着」による地元当局の干渉が深刻であり、それを防ぐためだそうです。

 ●「中国網」(2007/12/24/08:35)
 http://www.china.com.cn/review/txt/2007-12/24/content_9422031.htm

 経済が走れば走るほど様々な「格差」が拡大し、また地域間格差も広がることにはなりますが、各「諸侯」にとっては以前より大きな利権を手にすることができます。

 また資源争奪戦などを有利に運ぶ必要性からも、地方当局が利権を媒介にしてデベロッパーのような民間企業のみならず、人民解放軍の地元駐屯部隊や内乱鎮圧用の武装警察(武警)、それに地元裁判所(地方法院)のトップレベルなどとも運命共同体としての縁を結び、「割拠」色を強めようとしている、ということです。

 冗談のような話ですが、武警や司法の取り込まれっぷりは相次ぐ官民衝突のケースからうかがえますし、武警については実際に「党中央離れ」(=地元当局の私兵化)に危機感を示す武警トップ・中国人民武装警察部隊司令官の論文が昨年初めに発表されています。

 ●武警はバラけて乱れつつある模様。・上(2006/01/06)
 ●武警はバラけて乱れつつある模様。・下(2006/01/07)

 ――――

 という訳で、経済が走れば走るほど様々な「格差」が強まる一方で、地方当局による「割拠」化も進む、ということになります。

 もっとも経済が走っていなくても、分権化を進める改革開放政策が維持されてさえいれば「割拠」です。進行度が遅くなるだけで、ベクトルの向きは変わりません。

 景気が悪くなればなったで守りに入る必要からやはり「割拠」色は強まり、そのために銀行や司法、ひいては治安力が奉仕させられることでしょう。

 ……うーん長々と書き散らすうちに話が変な方向に展開してしまいました。

「改革開放が進めば進むほど『割拠』」

 というタイトルにすべきだったかも知れません。むしろ、

「中国、『諸侯』の割拠色は強まる一方」

 の方がよかったでしょうか。中央はそれを何とかしようと色々苦心しているようですが、中国が本来
「多種族の集合体」である以上、この流れは最後まで止まらないだろうと思います。

 崩壊とか分裂というより、末端から立ち腐れていって自然にバラけていく、といったイメージです。……あ、夢の話はお正月を待ってするべきでしたね(笑)。




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