87・2%―。障害者の職業訓練と就職支援を専門に行う「国立職業リハビリテーションセンター(職リハ)」(所沢市)の就職率は極めて高い。1979年の開所から今年5月末現在で、修了者4849人のうち4229人が職に就いた。障害者雇用の重要性が叫ばれる中、1年間にわたるきめの細かい訓練とサポートを通じて、障害がある入所者の就職を後押ししている。
■企業ニーズに対応
職リハは厚生労働省が設置し、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が運営。全国から障害者を受け入れている。出身地別では東京都と埼玉県で7割以上を占めるが、北海道や東北地方から来る入所者もいる。同様の施設として、岡山県に「国立吉備高原職業リハビリテーションセンター」がある。
時代の変化に応じ、企業ニーズに合った職業訓練を実施。現在は「メカトロ系」「建築系」「ビジネス情報系」「職域開発系」の4訓練系で計11訓練科・20コースを設け、年間約200人を受け入れる。
入所希望者は基礎学力検査や適性検査、面接などを経て、入所の可否が判断される。訓練は原則1年間。1時限50分で平日6~7時限、計1400時限に及ぶ。個別のカリキュラムに沿って行い、ビジネスマナーや職場をイメージした実践的な訓練も取り入れている。費用は教材費や作業着などの実費を除き、基本的にかからない。
■高い就職意欲
「事務職系の仕事を希望している。親を安心させて、自立した社会人になりたい」。昨年11月から職域開発科オフィスワークコースに通う佐藤祐太さん(25)は、再就職への意気込みを語る。
昔からコミュニケーションが苦手だったという佐藤さんは、新卒で印刷会社に入社して半年後、広汎性発達障害と診断された。半年経過を見て、主治医から社会生活上制限があると言われ、会社と相談して退職。その後、障害者職業センターの紹介を経て、職リハに入所した。
「同じ障害がある人たちと交流し、悩みを分かち合えたことで、自信を取り戻すことができた。訓練は自分のペースでコツコツと進められ、指導員にも相談しやすい。毎日がとても充実している」と笑顔を見せる。
重度の視覚障害がある泉人(いずみ・ひとし)さん(49)は、40歳を過ぎてから症状が悪化し、勤めていた自動車部品メーカーを退社した。
昨年10月から職リハに入所し、OAシステム科の視覚障害者情報アクセスコースに所属。画面の文字や数字を拡大するソフトや音声化するソフトを活用して、エクセルなどの習得に励んでいる。
「再就職に向けて学べる環境を与えていただき、本当にありがたく思う。訓練を積めば、資料の作成もできるようになる。もう一度、ものづくりの会社で働きたい」。泉さんの表情は明るい。
■進む障害者雇用
障害者の就職件数は、企業の社会的責任(CSR)や法定雇用率の引き上げ、労働力人口の減少などを背景に、増加傾向にある。埼玉労働局によると、県内のハローワークを通じた2014年度の就職件数は前年度比6・1%増の3155件に上り、5年連続で過去最高を更新した。
障害者雇用への関心が高まる中、職リハでは本年度から毎月1回(第3火曜日)、入所希望者を対象に見学説明会を実施。8月2日には、訓練体験会「職リハオープンキャンパス」も初めて開催する。
14年度の就職率は92・9%と9割を超えた。定着率が高いのも特徴で、就職後6カ月で9割以上を維持している。上市貞満所長は「就職率と定着率は、訓練を受けていないケースと比べて倍近く高い。障害のある方も企業の方も、ぜひ利用してほしい」と呼び掛けている。問い合わせは同センター(04・2995・1201)へ。
視覚障害者情報アクセスコースで、画面拡大ソフトを活用して数字を入力する訓練 本年度から毎月1回開催している見学説明会
2015年6月30日(火) 埼玉新聞