湯沢市が運営する障害者支援施設「皆瀬更生園」で、2人の職員が知的障害者にノートを投げ付けるなどの虐待をした問題が発覚し、秋田県は近く、市に改善計画書を提出するよう指導する。2人とも20年以上勤務する40代のベテランだが、障害の特性に応じた対処法を十分に学んでいなかった。障害者虐待防止法の理念を施設として共有しようする意識の欠如が、虐待の背景にありそうだ。
<周囲にも恐怖感>
「普通の人は毎日1万歩以上も歩けない。明らかに虐待だ」。女性職員から長時間の歩行運動を強いられていた女性入所者の実態について、秋田県南の障害者施設長はこう憤る。
市などによると、この入所者は他人に迷惑を掛ける行動障害があったため、医師から以前、行動障害を起こす時間の余裕を与えないよう指導されていた。
施設は自由な時間を制限するため、入所者との間で、肥満防止名目の歩行運動と漢字の書き取りを決まり事として口頭で「約束」した。だが、こうした対応は入所者の支援計画書やケース記録に記されず、親族にも知らされていなかった。
秋田県社会福祉士会の和田士郎会長は「医師から指示されたのなら、保護者に説明して同意を得る必要がある」と対応を疑問視する。
一方、男性職員の場合は、入所者を床に伏せ倒し、頬を平手でたたいた。入所者3人に争いがあった後、興奮した1人が向かってきた際の対応だった。
県北の施設長は「平手打ちは、周囲の入所者にも恐怖感を与えたはずだ」と批判する。
<甘い指導認める>
市によると、職員2人とも他の施設で勤務した経験はない。更生園として、2012年に施行された障害者虐待防止法の理念や対処法を共有してこなかった。
立ち入り調査した秋田県障害福祉課の担当者は「更生園として、技能の向上や危機管理の取り組みが不十分だった」と職員の未熟さを指摘する。「障害者が興奮した時の対処法を職員が身に付けていなかった。研修の機会が十分設定されていたのに、職員に周知されていなかった」と話す。
県障害福祉課によると、県内で虐待防止の研修会があっても、出席者が持ち帰って施設内の全職員に周知するとは限らないという。
市福祉課も取材に対し、更生園に対する指導の甘さを認めている。
秋田県知的障害者福祉協会の桜田星宏会長は「全職員や市町村が障害者の権利意識を高める必要がある」と力説する。
[皆瀬更生園の虐待問題]2013年4月、女性職員が女性の入所者にノートをぶつけて頬を切るけがをさせた。この職員は同じ入所者に対し、平日は1万5000歩、休日は2万歩の歩行運動を達成できないと食事を遅らせることが複数回あった。男性職員は14年4月、男性の入所者を床に倒し、平手打ちをした。市が14年12月、検討会議を開き、一連の行為が身体的虐待、心理的虐待に当たると判断した。
2015年01月16日 河北新報