全身が徐々に動かなくなる神経難病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の京都市左京区の男性に、視線でパソコンを操作し意思を伝える装置「マイトビー」が市内で初めて公費で支給された。男性は顔の一部しか動かせないほど筋力が衰え、家族との意思疎通もままならなかったが、装置を活用して「子や孫とたわいない会話を楽しみたい。続けて来たデザインの仕事もしたい」と意欲を見せている。
支給されたのは田中豊享さん(69)。着物の図案家やデザイナーを経て、51歳の時に帆布バッグを手がける会社を起業した。仕事も軌道に乗っていた56歳の時にALSと診断された。
徐々に体の自由が利かなくなる中、仕事への情熱は衰えなかったが、2011年から使用していた額の動きでパソコン操作ができる装置を扱うのも難しくなった。そんな時、知人からマイトビーの存在を知った。
ただ、マイトビーは100万円以上と高額。障害者の日常生活を支える補装具の公費助成額の上限は45万円で手が届かなかった。そこで、助成額に上限のない特例補装具として、12年9月に左京福祉事務所に支給を申請した。
特例補装具は本人の生活に必要不可欠な装置との認定が必要で、これまで2度却下されたが、あきらめずに申請を続け、今年1月、2年越しに手元に届いた。近畿では、守山市の脊髄性筋萎縮症(SMA)の少女に支給されたのに続いて2例目になる。
妻の京子さん(69)は「これまで意思を伝えることだけでも大変だった。装置を介して深い話がしたい」、次男の晶さん(41)は「もう一度仕事をする父が見たい」と期待している。
田中さんはマイトビーを使って打ち込んだ。「このたびはおおくの人にお世話になり、心から感謝しています」。
<マイトビー>顔の上に取り付けられた画面を見つめると、カメラが眼球の動きを捉え、文章の作成やインターネットなどのパソコン操作ができる装置。ALSや筋ジストロフィーなどの患者が使用している。コミュニケーションに幅が広がることや家族の介護負担の軽減も期待される。
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最終更新:4月21日(月)14時19分 京都新聞