介護保険法の改正が取りざたされる以前から、労働基準法を遵守するための対策を講じてきた事業者は多い。しかし、法に触れかねない不十分な対策で満足する事業者も少なくないという。【多●正芳】(●は木へんに朶)
■「みなし残業」でも必要な労働時間管理
全国訪問介護協議会会長の荒井信雄氏は、介護事業者が労働基準法を遵守する上で最大のネックは、「残業に対する賃金の扱い」と指摘する。
「原則、残業時間中は、労働時間に応じ、基本となる給与の125%分を支給しなければなりません。しかし、法にのっとって支払っているのは、感覚として10事業所あれば半分程度でしょう。逆にいえば、半分程度の事業者が残業代のために法に触れる可能性があるのです」
法に触れる可能性がある事業者の中には、全く残業代を払わない事業者もあれば、払ったとしても、25%分を上乗せしていない事業者もある。さらに、あらかじめ一定時間分の残業代を含めた給料を支給する「みなし残業」を活用する事業者の中にも、労基法違反に相当する事業者があるという。
全く残業代を支払わないなど、意図的に法を無視している事業者について荒井氏は、「論外。指定取り消しを受けて当然」と断ずる。その一方、「みなし残業」を活用する事業者の中には、制度をよく理解していないため、無自覚に違反に至っている事業者も少なくないという。
「中には月に1万円程度のみなし残業代で、連日、午後9時や10時まで従業員を残業させる事業所もあります。1か月1万円で残業ということなら、1か月7-8時間程度しか認められないはずですが…。とにかく、みなし残業を活用するにしても、労働時間の適切な管理が不可欠なのです。『みなし残業だから』と、残業時間管理をしていない事業所もありますが、あらかじめ労使間の協定で定めた時間を超過した分は、別に支払う必要があります。当然、その計算根拠としての勤務時間管理が問われるため、その行為自体が労基法に触れます」
■移動時間の管理は経費にも好影響
もう一つ、荒井氏が「特に訪問系の事業所が注意すべき」と指摘しているのが、登録ヘルパーに対する「移動に関する賃金」だ。
「事務所と利用者宅などを行き来する移動時間は、労働時間として、一定の賃金を払う必要があります。払っていない事業者は論外ですが、問題は、移動時間を計算せず、一回当たりの移動に対し一律の賃金を支払っている事業者です」
移動も残業と同様、かかった時間に応じて賃金を支払わなければならない。時間にかかわりなく一律の賃金を支払っている場合、その金額が移動時間に見合う以上の額になっていれば法には抵触しない。しかし、実際の移動時間に対し、少な過ぎる金額しか支払われていない場合は、労基法違反となる。
「職員の移動時間に関しても、他の労働時間と同様に管理しなければならないのです。なお、従業員の通勤時間は移動時間として換算できません。従業員が利用者の家に直接出向く際に必要な時間も、移動時間ではなく通勤時間とみなされます=図=。こうした規定を把握し、移動時間を管理すれば、移動のための賃金の払い過ぎを防ぐこともできます。労基法対策だけでなく、経費節減のためにも、移動時間はきっちり把握すべきです」
このほか、▽パートなど有期契約の従業員に対しては、契約を更新するたびに書面(労働契約書)の交付によって労働条件を伝える▽1か月に最低4日は休日を確保する▽時間外労働・休日労働に関する労使協定(三六協定)は毎年締結し、事業所を管轄する労働基準監督署長に提出する-などの内容も、「介護事業者が抵触しやすい、注意すべき点」(荒井氏)という。
■労基署にアドバイスを求めるのも有効
いずれにせよ、各介護事業者は、来年4月の改正介護保険法施行までに自身のコンプライアンスの在り方を改めて見直す必要に迫られていると言える。しかし、具体的には、どのようにして自らの事業を見直せばよいのか―。
荒井氏は、「まずやるべきことは、官公庁が作成した冊子やリーフレットを熟読すること。訪問系の事業者であれば、厚生労働省が作成した『訪問介護員のための魅力ある就労環境づくり』などが参考になるはずです」とアドバイスする。また、日本介護経営研究協会専務理事で、介護事業経営研究会(C-MAS)顧問の小濱道博氏は、「自分たちで努力するだけでなく、税理士、社労士といったプロの力を借りることも大切です。ただ、そうしたブレーンを選ぶ際、介護事業に精通しているかどうかを十分に見極めることが重要」と指摘する。
さらに荒井氏は、次のような方法も有効と提言する。
「どうしても迷う場合は、事業者を管轄する労基署へ出向き、自らの業務について問題がないか直接確認すべきです。調査する立場にある労基署に出向くのは気が引けるかもしれませんが、労基署側も、管轄下の事業者の経営が改善されるなら、いくらでも知恵を貸してくれるはずですから」
( 2011年08月18日 12:00 キャリアブレイン )
■「みなし残業」でも必要な労働時間管理
全国訪問介護協議会会長の荒井信雄氏は、介護事業者が労働基準法を遵守する上で最大のネックは、「残業に対する賃金の扱い」と指摘する。
「原則、残業時間中は、労働時間に応じ、基本となる給与の125%分を支給しなければなりません。しかし、法にのっとって支払っているのは、感覚として10事業所あれば半分程度でしょう。逆にいえば、半分程度の事業者が残業代のために法に触れる可能性があるのです」
法に触れる可能性がある事業者の中には、全く残業代を払わない事業者もあれば、払ったとしても、25%分を上乗せしていない事業者もある。さらに、あらかじめ一定時間分の残業代を含めた給料を支給する「みなし残業」を活用する事業者の中にも、労基法違反に相当する事業者があるという。
全く残業代を支払わないなど、意図的に法を無視している事業者について荒井氏は、「論外。指定取り消しを受けて当然」と断ずる。その一方、「みなし残業」を活用する事業者の中には、制度をよく理解していないため、無自覚に違反に至っている事業者も少なくないという。
「中には月に1万円程度のみなし残業代で、連日、午後9時や10時まで従業員を残業させる事業所もあります。1か月1万円で残業ということなら、1か月7-8時間程度しか認められないはずですが…。とにかく、みなし残業を活用するにしても、労働時間の適切な管理が不可欠なのです。『みなし残業だから』と、残業時間管理をしていない事業所もありますが、あらかじめ労使間の協定で定めた時間を超過した分は、別に支払う必要があります。当然、その計算根拠としての勤務時間管理が問われるため、その行為自体が労基法に触れます」
■移動時間の管理は経費にも好影響
もう一つ、荒井氏が「特に訪問系の事業所が注意すべき」と指摘しているのが、登録ヘルパーに対する「移動に関する賃金」だ。
「事務所と利用者宅などを行き来する移動時間は、労働時間として、一定の賃金を払う必要があります。払っていない事業者は論外ですが、問題は、移動時間を計算せず、一回当たりの移動に対し一律の賃金を支払っている事業者です」
移動も残業と同様、かかった時間に応じて賃金を支払わなければならない。時間にかかわりなく一律の賃金を支払っている場合、その金額が移動時間に見合う以上の額になっていれば法には抵触しない。しかし、実際の移動時間に対し、少な過ぎる金額しか支払われていない場合は、労基法違反となる。
「職員の移動時間に関しても、他の労働時間と同様に管理しなければならないのです。なお、従業員の通勤時間は移動時間として換算できません。従業員が利用者の家に直接出向く際に必要な時間も、移動時間ではなく通勤時間とみなされます=図=。こうした規定を把握し、移動時間を管理すれば、移動のための賃金の払い過ぎを防ぐこともできます。労基法対策だけでなく、経費節減のためにも、移動時間はきっちり把握すべきです」
このほか、▽パートなど有期契約の従業員に対しては、契約を更新するたびに書面(労働契約書)の交付によって労働条件を伝える▽1か月に最低4日は休日を確保する▽時間外労働・休日労働に関する労使協定(三六協定)は毎年締結し、事業所を管轄する労働基準監督署長に提出する-などの内容も、「介護事業者が抵触しやすい、注意すべき点」(荒井氏)という。
■労基署にアドバイスを求めるのも有効
いずれにせよ、各介護事業者は、来年4月の改正介護保険法施行までに自身のコンプライアンスの在り方を改めて見直す必要に迫られていると言える。しかし、具体的には、どのようにして自らの事業を見直せばよいのか―。
荒井氏は、「まずやるべきことは、官公庁が作成した冊子やリーフレットを熟読すること。訪問系の事業者であれば、厚生労働省が作成した『訪問介護員のための魅力ある就労環境づくり』などが参考になるはずです」とアドバイスする。また、日本介護経営研究協会専務理事で、介護事業経営研究会(C-MAS)顧問の小濱道博氏は、「自分たちで努力するだけでなく、税理士、社労士といったプロの力を借りることも大切です。ただ、そうしたブレーンを選ぶ際、介護事業に精通しているかどうかを十分に見極めることが重要」と指摘する。
さらに荒井氏は、次のような方法も有効と提言する。
「どうしても迷う場合は、事業者を管轄する労基署へ出向き、自らの業務について問題がないか直接確認すべきです。調査する立場にある労基署に出向くのは気が引けるかもしれませんが、労基署側も、管轄下の事業者の経営が改善されるなら、いくらでも知恵を貸してくれるはずですから」
( 2011年08月18日 12:00 キャリアブレイン )