風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

ヤノマミ

2011-09-11 10:57:52 | 読書
   NHK出版の、国分拓著「ヤノマミ」は、
  大宅賞受賞ほか「本の雑誌」のベストテン入りもしているルポルタージュである。


   かつて、南米には数千万人いたとされる先住民族が
  近年はたったの1パーセント以下にまで減ってしまったそうである。

   NHKの取材グループが、
  絶滅からの保護居住区にあるヤノマミ族と同居した際の
  ディレクターである著者が書きあげたのがこの本である。

   二年ほど前だろうか、たまたまこのルポの番組は見ていた。
  映像は衝撃的だったが、文字にされることでより内面に肉薄した感動を得た。
  とかくドキュメンタリーな作品は、事実の重みに寄りかかりすぎるものだが、
  この著者の鍛え抜かれた文章と、一語ずつへの思いは、
  文字が映像をはるかに超えることをも伝えてくれた。

   人間とは何か。文明とは何か。
  心身の壊れるまでに考え抜いたという作者の渾身の著書が、
  一人でも多くの読者の手にとられますように。

親友宅

2011-09-07 23:45:09 | 友情
   一人暮らしの友だちがいる。
  訪ねればいつでも歓待してくれる。
  しかし、行けば長居になるので、訪問には覚悟がいる。

   ついついご無沙汰をしてしまうが、
  今日は近くまで行ったので、寄り道をしてみた。

   案の定、よく来たよく来たと大歓迎をしてくれた。
  挨拶もそこそこに、
  「どうしてた?」と風子。
  「それがねえ、この家を売ろうかと思ってんのよ」
 
  のっけから、話題には事欠かない。

  「売ってどうすんのよ」
  「娘のとこ、行こうかと思って」
  「やめとき、やめとき」
 
   ところでね……、話はコロコロかわる。
  「足が痛まない靴を買ったのよ」
  「どらどら見せて」
 
   靴の品評のあとは一転、読書の秋。
  「本を整理してたらね、田山花袋や藤村が出てきたの、
  だけど、読み直したら、あのころなんで感動したんだろうって……ちょっと古いね」
 
   二転三転、話はあっちへこっちへ行き、
  気がついたら電気を点けるのも忘れて、辺りは薄暗くなっていた。

   神戸の娘のとこなんか、行くなよ。
   寂しくなるじゃないか。

ハガキ

2011-09-05 22:25:02 | 俳句、川柳、エッセイ
   バスの中で後ろの座席から聞こえてきた話である。

   「一枚のハガキって映画、よかったわよ」
   この声は、はっきり言って年寄りの声である。

   そうそう、私も見たもんね、と風子ばあさんは一人頷く。

   「えっ、それって何ですか」
   どうやら後ろの連れは、うんとお若いらしく、
   99歳の巨匠の映画には関心がないらしい。

   ま、仕方ないね、若いんだから……と聞いていた。

   後ろの年寄りの声が、太平洋戦争というのがあってねと、
  解説をはじめると、若い方がそれを遮り、
  「ねえ、それより、ハガキってなんですか?」と訊いた。
  「えっ! ハガキ知らないの」
  後ろの連れがびっくりしている。

  風子も仰天して、思わず振り向きかけたが、辛うじて踏みとどまった。

  車窓に流れる街の景色を眺めながら、つらつら考えた。
 なにも仰天することはないのかもしれない。
 物心ついたときから携帯電話とパソコンが当たり前の人たちが、
 何を好きこのんで一筆啓上などするもんか……。

  思えば、この風子ばあさんだって、
 このごろはたいがいのことはメールで済ませているではないか。

  時は移ろうのである。
  しかし、それにしてもなあ。

昔、ハガキはなくてはならない大事な伝達手段であった。
  書くのも、貰うのも楽しみなものだった。
  古い友人たちからの色褪せたハガキの束は、今も大事にとってある。

兄弟

2011-09-03 10:07:40 | ほのぼの
   親の代からの自転車屋の兄弟を、
  風子ばあさんは学生のころから知っている。
  卒業してすぐに、二人とも親と一緒に店で働いた。

   あれから40年、
  すでに親父さんは亡くなっているが、
  跡を継いだ二人は今も仲良く店にいる。

   穏やかな兄弟で、ほんとに仲が良い。
  しかし、ずうっと一緒にいて揉め事ってないのかしらんと
  下衆な風子ばあさんは勘ぐる。

  「ねえ、あなた達、正直に教えて。喧嘩することってないの?」
お客さんのいないときは結構やりあいますよ、とでも言うかと思ったら、
  「ないですねえ」
  ふたりとも即座に笑顔を見せる。

  「ほんとかなあ」
  風子ばあさんは疑り深い。
 
  「いや、ほんとですよ。なあ?」
  兄貴が弟を見る。

  「ええ、小さいころから、一度も喧嘩ってしたことがないんですよ。
   齢が離れているからでしょうかねえ」と弟。

  「いやあ、争うほどの財産がないからですよ」と兄貴。

   ほんとに爽やかだなあ。
  それに、二人ともすご~くハンサム、今風にいえばイケメンなのだ。
  売った自転車には、とにかく誠心誠意責任を持ってくれるし、おすすめ!