風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

ハガキ

2011-09-05 22:25:02 | 俳句、川柳、エッセイ
   バスの中で後ろの座席から聞こえてきた話である。

   「一枚のハガキって映画、よかったわよ」
   この声は、はっきり言って年寄りの声である。

   そうそう、私も見たもんね、と風子ばあさんは一人頷く。

   「えっ、それって何ですか」
   どうやら後ろの連れは、うんとお若いらしく、
   99歳の巨匠の映画には関心がないらしい。

   ま、仕方ないね、若いんだから……と聞いていた。

   後ろの年寄りの声が、太平洋戦争というのがあってねと、
  解説をはじめると、若い方がそれを遮り、
  「ねえ、それより、ハガキってなんですか?」と訊いた。
  「えっ! ハガキ知らないの」
  後ろの連れがびっくりしている。

  風子も仰天して、思わず振り向きかけたが、辛うじて踏みとどまった。

  車窓に流れる街の景色を眺めながら、つらつら考えた。
 なにも仰天することはないのかもしれない。
 物心ついたときから携帯電話とパソコンが当たり前の人たちが、
 何を好きこのんで一筆啓上などするもんか……。

  思えば、この風子ばあさんだって、
 このごろはたいがいのことはメールで済ませているではないか。

  時は移ろうのである。
  しかし、それにしてもなあ。

昔、ハガキはなくてはならない大事な伝達手段であった。
  書くのも、貰うのも楽しみなものだった。
  古い友人たちからの色褪せたハガキの束は、今も大事にとってある。
コメント (2)
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