風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

ガイショッケンショクドウ

2011-02-25 09:22:15 | 思い出
 子供のころは、言葉を文字で覚えず、音で記憶する。
ガイショッケンショクドウ、というのは外食券食堂だと分かったのはずっとあと、大人になってからである。

 戦後すぐ、極度の食糧難だったころのことである。
米を買うにも米穀通帳というものがあった。
自由に外で食事をすることなどかなわない時代だった。
何かの都合で外食をする場合は、配布された食券が必要であった。

 うちの近くに灰色の建物があり、それがガイショッケンショクドウだった。 
今ならさしずめ、そこの駐車場というべき場所の空き地が、子供たちの遊び場だった。

 風子ばあさんは、いつも背中に生まれたばかりの弟を背中にくくりつけて遊んだ。
当時は珍しくなかった。

 その格好で、ケンケン、パッ! などして遊んだのである。
背中の子は、いつもがくがく揺れていた。
一度ならず弟を地面に落としたこともある。
よくあれで無事だったものと、いまごろになって胸なでおろす。

「また、あした~ ガイショッケンショクドウねえ」
 というときは、そこが外食をする場であるということなど思いもせず、ただひたすら、近くの遊び場の名称としてあった。

 食堂に出入りしていたのは男性ばかりだったような気がする。

 レストラン、和食処、バーガーチェーン、カフェ、寿司屋。
着飾った女どもが、グルメに群れ集うような時代がくるとは、あのころ思いもつかなかった。

 


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする