「JIN?仁?」。ご存知大人気ドラマである。
腕のいい外科医が幕末の江戸にタイムスリップするという奇想天外な設定だが、主演の大沢たかおと綾瀬はるかの好演もあって、TBSとしては久々の大ヒットドラマになった。
あえて批評などという野暮なことはするまい。だって面白いのだから。
その人気に乗って、商魂逞しいセブン‐イレブンは「JIN?仁?」キャンペーンを行った。
その関連商品の「橘家の弁当」と「安道名津(あんどうなつ)」ナルモノをカミさんとアシのYが買ってきた。
「安道名津」ナルモノは、江戸に流行った脚気を治療するために、ビタミンB1の含まれた玄米を、白米しか食べない人々に抵抗なく食べさせようと、南方仁先生が考案したものである。
玄米も含まれて、まあコンセプトは合っていると思う。しかし、ショートニングだのバターだの、江戸時代にはなかったはずの食材や添加物がふんだんに入っている(以下の写真参照)。甘さも結構あって、砂糖が貴重品だった時代のものではない。
つまりこの安道名津、仁の時代のものとはまったく非なる、名前だけのものである。当然だが。
しかし、まずくはない。
弁当の方はアシのYの昼飯なので試食しなかったが、本人曰く、この値段(450円)でこの内容は安いという。味もそこそこだそうだ。
そういえば、綾瀬はるか演じる橘咲さんは、揚げ豆腐が得意ということになっていて、仁先生は旅から帰ると真っ先に「咲さんの揚げ豆腐がたべたい」と言っていた。
弁当の中にはちゃんとそれも入っていて、味見しようと思ったら、もうなかった。
実は、かつて江戸料理に挑戦したことがある。池波正太郎の「藤枝梅安」シリーズでは、頻繁にうまそうな料理が出てくる。
その夜……。
梅安は、ひとりで、おそい夕餉の膳に向っていた。
春の足音は、いったん遠退いたらしい。
毎日の底冷えがきつく、ことに今夜は、
(雪になるのではないか……)
と、おもわれた。
梅安は、鍋へ、うす味の出汁を張って焜炉にかけ、これを膳の傍へ運んだ。
大皿へ、大根を千六本に刻んだものが山盛りになってい、浅蜊のむきみもたっぷりと用意してある。
出汁が煮え立った鍋の中へ、梅安は手づかみで大根を入れ、浅蜊を入れた。千切りの大根は、すぐに煮える。煮えるそばから、これを小鉢に取リ、粉山椒をふりかけ、出汁と共にふうふういいながら食べるのである。
このとき、酒は冷のまま、湯のみ茶わんでのむのが梅安の好みだ。
そこへ、彦次郎がやって来て、
「とうとう、落ちて来ましたぜ」
と、告げた。
窓を開けてみると、雪がほたほたと降りはじめていた。
「なんといっても春の雪さ。息がつづきますめえよ」
「さ、ひとつ、どうだ」
「ありがとう。こいつは、うまそうだね、梅安さん」
「浅俐と大根……よく合うものだね」
彦次郎は、台所から箸と小鉢を取って来て、すぐに食べたり飲んだりしはじめながら、……
で、作ってみた。何とも味気なくてちっともうまくない。
『再現 江戸時代料理』というレシピ本を買って、その中から「こいつはいけそうだ!」と思う何品かを作ってみた。レシピどおりに作ると、見栄えはなかなか宜しい。しかしまずい。
江戸時代の味付けは、どれもこれも薄味過ぎるのだ。味付けの基本は出汁と醤油と塩で、砂糖やみりんなどの甘み付はほんの少々だ。だからコクが出ない。
プロの板前なら、そこはそれ、うまい料理にできるのだろうが、現代風の味付けに慣れた当方にはなかなか効果的な工夫はできなかった。
江戸と現代ではそもそも素材の味が違うのだろう、と自分を納得させたものである。
タイムスリップした仁先生、橘家でごちそうになって、ご飯がうまいのに感激していた。
「うまいなあ、釜で炊いているからかなあ」
「釜以外に炊く方法があるのでございますか」
「……」
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