山本藤光の文庫で読む500+α

著書「仕事と日常を磨く人間力マネジメント」の読書ナビ

084:営業リーダー降格

2019-09-27 | 新・営業リーダーのための「めんどうかい」
084:営業リーダー降格
――第6章:威力ある同行
 SSTアカデミーで成果が上がらなかった営業リーダーは、専門営業担当者に降格となりました。「同行」で営業担当者を育成できない営業リーダーは、その役割を失ってしまったのです。2ヵ月半の営業リーダー研修は、営業担当者のレベルアップがすべてです。

 その検証は営業担当者の意識・行動の変化と、半年後の業績推移で行います。営業リーダーのいちばん大切な仕事は、同行。そのスキルを確かめるのが、SSTアカデミーだったのです。

SSTアカデミーは、「同行」にフォーカスをあてた営業リーダー研修です。2ヵ月半現場を離れるところが、ポイントです。その間、チームの業績が落ちることはありません。「きみたちがいなくても、数字が下がらないな」。私は参加者に、この一言を突きつけます。つまり、チームリーダーとしてのあり方を、現場で考え直させるのです。

多くの営業リーダーは、同行パワーを実感して戻ってきました。SSTアカデミーも、SSTプロジェクト同様の成果を上げました。

SSTアカデミーは、2度実施して終了しました。理由は日本ロシュと中外製薬の合併が決まり、プログラムが頓挫してしまったからです。私は合併を機に退職し、独立しています。

百田尚樹『錨を上げよ』文庫に

2019-09-27 | 妙に知(明日)の日記
百田尚樹『錨を上げよ』文庫に
■まさかの時にそなえて、ランタンを2個通販で買い求めました。深夜に読書ができるほとの明るさでした。ついでに水もカートン買いしました。千葉県はまだブルーシートの屋根が目立ちます。カセットコンロも先日買いました。■昨日は百田尚樹『錨を上げよ』(幻冬舎文庫)の発売日でした。今回は1、2巻のみの刊行です。3、4巻は来月発売のようです。幻の処女作といわれた本書は、著者を知るうえでは必読の一冊です。
山本藤光2019.09.27

146:ひぐま寮

2019-09-26 | 小説「町おこしの賦」
146:ひぐま寮
 スマホの案内は、正確だった。野幌森林公園でバスを降り、三つほど角を曲がった突き当たりに、ひぐま寮はあった。鉄筋三階建ての白い建物は、周囲の緑によく映えていた。ここは札幌の大学に通う男子のみ六十人を収容する、民間の施設である。
 玄関を入ると、「新入寮生受付」と書かれたテーブルがあった。長髪で無精ひげの男が、退屈そうに座っていた。宮瀬幸史郎(こうしろう)が名前を告げると、男は書類に目を落としていった。
「百五号室。荷物は部屋の前に、積んである。明日の十一時に入寮式。それまではのんびりしていな。夕食は六時から八時の間。遅れるとなくなるよ」
 山羊の糞みたいにつながりのない言葉で、しかも早口だった。全部は聞き取れなかったが、幸史郎は何とかなるだろうと思った。

百五号室に入る。ドアを入ると右にベッドがあり、左は収納棚になっていた。ベッドは押し入れのように二段になっており、幸史郎の部屋は上段に据えられていた。壁になっている下段には、隣室のベッドがあるのだろうと推測できた。
そして正面には、机と書棚が並んでいる。磨りガラス窓を開けると、目の前にうっそうとした木立があった。幸史郎は廊下から、布団袋と段ボール二個を運び入れる。

館内放送が流れた。
――これから寮内を案内するので、新入寮生はロビーに集ってください。
 幸史郎は荷ほどきを途中にして、ロビーへ行った。十人ほどの寮生が集っていた。背の高い寮生が、「ついてきてください」といって玄関に向かった。
「玄関は午後十時に、施錠されます。それ以降は自分で、暗証ボタンを押して入るように。暗証番号は、明日の入寮式で配布されます。下駄箱はここです。名前が入っていないところに、自分の名前を入れてください」
 下駄箱は二段になっていて、ここでスリッパと履き替えなければならない。
「こちらが寮監室です。そしてその横にあるのが、みなさんの名札です。在寮のときは赤字の方、外出のときは黒字の方を向けてください。名札の隣りにあるのは連絡ボードですので、毎日必ず目を通すようにしてください」
 幸史郎は黒字になっている、自分の名札を赤に替えた。

 玄関を背にした右側が、食堂になっていた。奥に椅子席が並び、手前は小上がりになった畳敷きの娯楽スペースだった。囲碁をしている寮生と、テレビを観ている寮生がいた。
「朝食は七時から二時間。夕食は六時から二時間です。それが過ぎたら、あまった食事は自由に食べてよいルールになっています」
食堂の奥が、風呂場だった。一度に二十人ほどが入れそうな、広さである。風呂の隣りには、四台の洗濯機が置かれていた。

「では二階を案内します。二階には、卓球室と喫煙室があります。ひぐま寮は、全館禁煙です。もちろん、部屋での喫煙も禁止です。タバコは、喫煙室でお願いします」
 卓球室には人がいなかったが、喫煙室には三人の寮生がいた。幸史郎たちは三階に上がる。
「ここは図書室です。先輩たちが置いていった古い専門書ばかりですが、新聞や週刊誌はここで読むことができます」
 続いて、屋上に案内された。ここは洗濯物を干すところです」

 屋上からは野幌森林公園が一望でき、開拓の塔もよく見えた。幸史郎は大きな伸びをして、いよいよ大学生活がはじまる、とわくわくした気持ちになっている。

083:過激なSSTアカデミー

2019-09-26 | 新・営業リーダーのための「めんどうかい」
083:過激なSSTアカデミー
――第6章:威力ある同行
 SSTプロジェクトが終了し、今度は営業リーダーのレベルアップを求められました。

◎ショートストーリー

社長「何としてでも、営業リーダーのレベルアップを図りたい。確実にレベルアップさせる方法を、考えてもらいたい」
山本「営業リーダーの降格もあり、くらいの厳しいトレーニングでも構いませんか?」
社長「やり方はきみに任せる。条件は確実に部下を育てられ、かつ業績を上げられる営業リーダーにすることだ」
山本「わかりました。しっかりと考えて、企画を提案します」

◎考えてみよう

 あなたなら、どんな対応をしますか。営業リーダーには、適格者と不適格者が存在します。いずれも元優秀な営業担当者だったのですが、営業リーダーとしての手腕が発揮できるか否かは別の話です。まずは営業リーダーの選別を考えてみてください。

 日本ロシュが実施した、過酷な営業リーダー研修を紹介します。営業リーダーに「同行」の真価を実体験させたい。SSTプロジェクトが終了した時点で、今度は「SSTアカデミー」を提案しました。社長から承認が下りました。私が事務局長に就任しました。

 16支店から、営業リーダーを1人ずつ選抜しました。彼らには2ヶ月間、朝から晩まで集中同行をしてもらいます。見知らぬチームへ行って、面識のない営業担当者と同行します。営業担当者のレベルアップに成功したら合格。失敗したら不合格となります。

 現地に派遣する前の2週間、SSTアカデミー参加者には研修を実施しました。「同行」の基本を学んでもらい、ロールプレイで製品話法も磨きました。営業担当者の意識・行動を変えるための、問診表も勉強してもらいました。

 2週間の本社研修を終えると、彼らは2、3人が1組となって派遣先チームへと赴きます。赴任地には担当の営業リーダーがいます。そのリーダーと話し合い、同行する営業担当者を決めます。人選の基本は、平均的レベルの営業担当者の抽出です。

 2ヶ月間の同行は、2人の営業担当者に対して、1週間ずつ交互に実施します。営業担当者の意識と行動を変えれば、自動的に業績は向上する。この理念のもとで、彼らはひたすら現場で汗を流します。

 彼らには、一切の内勤業務がありません。不在時には、支店長または業務課長がチームの面倒を見ています。夜遅くに帰社した営業リーダーは、現地のリーダーに現状の報告を行います。この時期は1つのチームに、3から4人の営業リーダーが存在しています。それぞれが、大きな刺激を受けたと言っていました。

垣谷美雨『夫の墓には入りません』読み始める

2019-09-26 | 妙に知(明日)の日記
垣谷美雨『夫の墓には入りません』読み始める
■肌寒い朝になってきました。現在室温は28度。それでもひやっと感じるのは、30度越えの毎日が肌感覚として残っているからなのでしょう。わずか2,3度の違いを敏感に感じ取ることができます。■垣谷美雨(かきや・みう)は、とことんタイトルにこだわる作家です。「山本藤光の文庫で読む500+α」では『老後の資金がありません』(中公文庫)を紹介しています。本日から『夫の墓には入りません』(中公文庫)を読み始めました。本書もタイトルからは、作品の展開をまったく読めない類いのものです。
山本藤光2019.09.26

145:札幌のアパート

2019-09-25 | 小説「町おこしの賦」
145:札幌のアパート
 瀬口恭二は札幌市桑園にある、木造二階建てのアパートの一室に入った。ドアを開けると、湿った黴っぽい空気が待ちかまえていた。六畳一間に古びたベッドと机と椅子が、ぽつんと置かれていた。小さな台所とトイレ兼シャワー室があり、ほかには何もなかった。
恭二は急いで、窓を開ける。目の前に、向かいのアパートの窓があった。驚いて、窓を半開きにした。よその窓が手の届くところにあるのは、見慣れぬ光景だった。送った荷物は、ベッドの上に積んであった。ベッドから段ボールを取り除き、布団袋を開けた。

ドアが叩かれた。大家だった。。
「瀬口さん、これゴミ出し日とかの、入居規定が書かれたものです。後で読んでおいてください。二百三号室はね、縁起がいいんですよ。何しろ五年連続で、みんな志望校に合格しているんです」
 大家は、そういって帰った。恭二は受け取った紙片を机に置き、布団をベッドに運んだ。そして仰向けに、横たわってみた。天井は、シミだらけだった。

いよいよ戦闘開始だ。恭二は目を閉じ、浪人中のタブーを考えることにした。スマホは封印してある。手紙は書かない。読書はしない。帰省はしない。合格の日まで、これらの戒めを貫徹しなければならない。
 恭二は起き上がり、机に向かった。ノートを破り、今決めたことを大きく書いた。そして壁に残ったままの、さびた画鋲で留めた。何だか小学生みたいだと思う。しかし持続力のない自分には、これがふさわしいと開き直った。

空腹を覚えたので、外へ出た。周りは、アパートばかりだった。角を曲がると、たくさんの飲食店が並んでいた。恭二は、中華料理店に入った。カウンター席に座り、ラーメンと半チャーハンセットを注文した。
厨房から、主らしい男が話しかけてきた。
「見慣れない顔だね」
「今日、そこのアパートに、引っ越してきました」
「札幌学院生かね?」
「はい、予備校生です」
「では景気づけに、今日は半額でいいよ」
「ありがとうございます」
「その代わり、今後ごひいきにね」
店内は、若い男女の客でいっぱいだった。片手に本を持ち、ひたすら口に箸やスプーンを運んでいる。会話は聞こえない。風貌から見て、全員が予備校生だとわかった。

カウンター席には、恭二のほかに八人ほどの客がいた。みんな活字に目を落としながら、食事をしていた。よく見ると彼らが手にしているのは、参考書ばかりだった。
恭二は競走馬のスタートゲージにいるような、錯覚を覚えた。負けられない、との思いが突き上げてきた。

082:SST終了後にもなお威力

2019-09-25 | 新・営業リーダーのための「めんどうかい」
082:SST終了後にもなお威力
――第6章:威力ある同行
 SSTプロジェクト導入以前は、営業担当者の80%が苦手な顧客を抱えていました。しかし、SSTプロジェクト終了後は、60%の営業担当者がそこを単独訪問するようになっています。誰にでも苦手な顧客はあります。同行時に、ちょっと背中を押してあげる。何度も繰り返し、訪問してあげることが大切です。

 それだけのことで、高かった敷居が低くなります。苦手だった顧客が、身近になります。

SSTプロジェクトは、1年間半で240人の営業担当者と徹底同行をしました。同行されたのは、全営業担当者の3分の1に過ぎません。それでも全社で、対前年比23%もアップしました。SSTプロジェクトに刺激されて、営業リーダーたちも本格的な「同行」を開始したのも要因だったようです。この現実を、真摯に受け止めていただきたい。やればできます。

SSTが入ったチームと、入っていないチームのアップ率の比較でも、前掲のグラフのような格差になっています。このケースも、SSTがいなくなってから、顕著な差がうまれています。

芦沢央『バック・ステージ』読むぞ

2019-09-25 | 妙に知(明日)の日記
芦沢央『バック・ステージ』読むぞ
■日本で開催されているラクビーは、観客のモラルにもスポットが当たっているようです。公平な応援と試合終了後のスタジアムの清掃。この二つを報じる海外のメディアが増えています。日本人の民度の高さが、注目されているのです。■芦沢央『バック・ステージ』(角川文庫)購入。注目しているミステリー作家の最新文庫です。評価が高い作品なので、読んでみたいと思います。
山本藤光2019.09.25


144:恭二の回想

2019-09-24 | 小説「町おこしの賦」
144:恭二の回想
 翌日、恭二は早朝の標茶駅で、釧路行きの電車を待っていた。リュックサックを背負い、大きなスーツケースを足下に置いている。待合室には誰もいない。暖房のない駅舎には、戸外と変わらぬ寒さがあった。
 所在なく壁面を眺めていると、南川理佐が描いたポスターが目に留まった。中学時代の壮行試合の応援席には理佐がいて、そして隣りには詩織がいた。
札幌の理佐の祖父母の家へ、卒業旅行に行った。そのときも、詩織が一緒だった。恭二はポスターを眺めながら、深いため息をつく。
――結婚するかもしれない。
 冷酷な一言が、恭二の回想に蓋をしてしまう。畜生と思う。ばかやろう、と叫びたくなる。恭二は宙を見上げ、心のなかに居座る澱(おり)と闘う。
 改札が始まった。さよなら標茶。心のなかでつぶやく。そして、さよなら詩織と小さな声でいってみる。

 釧路発札幌行きの特急電車は、空席が目立った。恭二は太平洋をのぞめる、進行方向左側の席を選んだ。荷物から「笑話の時代」ノートを出し、二つの荷物は網棚に乗せた。そしてポケットのスマホを取り出し、電源をオフにした。
車内販売がきた。恭二は、コーラを注文した。コーラを飲みながら、恭二は詩織に思いをはせている。長い入院生活をしてから、詩織はおれと距離をおくようになっていた。おれの受験を案じてのことだ、と思っていた。それが違っていたのだ。
――プロポーズされているの。
 またもや、詩織の声が聞こえてくる。また悔しさが、突き上げてきた。心のなかにぽっかりと空いた空洞。洞窟には、詩織の放った毒がある。

窓外に太平洋が、広がっている。大きな波頭が盛り上がり、白い塊になって浜辺に叩きつけられている。どんよりとした空に隠れて、水平線は見えない。まるで今のおれと同じだ、と恭二は思う。そして、固く目を閉じる。

すべてを遮断するのだ。おれは流浪の身なのだ。失ったものはあまりにも大きかったが、これから手に入れようとしているものは、もっと大きい。すべての未練を断ち切るのだ。
恭二は目を開けた。太平洋と別れを告げて、電車はひた走る。一浪生活の幕開けである。


081:驚くべき同行の威力

2019-09-24 | 新・営業リーダーのための「めんどうかい」
081:驚くべき同行の威力
――第6章:威力ある同行
 徹底的に同行されたグループとそうではないグループとでは、どのくらい格差が生まれるものでしょうか。ずっと以前から、興味のあるテーマでした。営業管理部に、比較データの作成を要求しました。
SSTプロジェクトの指導を受けた営業担当者のリストを渡し、このなかの30名とそれ以外の30名を比較してもらいたいと伝えました。翌日、データが届きました。思わず跳び上がってしまいました。とんでもない格差が生まれていたのです。

 SSTプロジェクトの威力を紹介しましょう。次のグラフを私が支店長会議で示したとき、「ウソだろう」と声が上がりました。折れ線グラフは、ある製品のアップ率を見たものです。4つのグラフは、上から次のようになっています。


1番上:SSTメンバーの指導を受けた30名のアップ率
2番目:全社平均のアップ率
3番目:SSTメンバーの指導を受けていない30名のアップ率
1番下:当該製品の市場のアップ率

 SSTの指導を受けていない群は、当該製品の市場トレンドと似ています。ところが、SSTの指導を受けた群は、右肩上がりに業績が向上しています。SSTが導入されている間は、ほとんど格差がありませんでした。
 
 SSTメンバーがいなくなってから、格差が広がるのです。その理由は、SSTメンバーが塾の先生に徹したからです。市場性の高い難渋先の攻略。SSTメンバーがいなくなってから、それらの顧客に火がついたのです。