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ラ・フォンテーヌ『ラ・フォンテーヌ寓話』(洋洋社、大澤千加訳)

2019-09-15 | 書評「ハ行」の海外著者
ラ・フォンテーヌ『ラ・フォンテーヌ寓話』(洋洋社、大澤千加訳)

ルイ14世王太子も愛した 人生が変わる、ちょっとスパイシーな全26話のフレンチ・フルコース! 風味豊かなフォンテーヌ仕立て。美しくユーモラスな挿画を添えて。 17世紀のフランスの詩人ラ・フォンテーヌは、皇帝ルイ14世の王太子に、 「人生の教訓を学んでもらいたい」との思いで、 動物たちを主人公にしたこの寓話集を著しました。 ユーモラスで可愛らしく、生き生きとした動物たちが、 この寓話の魅力を一層引き立ててくれています。(アマゾン内容紹介)

◎フランス人なら誰でも知っている

『ラ・フォンテーヌ寓話』(洋洋社、大澤千加訳)は書斎の特等席に置いてあります。パソコンの前で疲れたときに、時々引っ張り出してイラストを眺めます。何度も読んでいますので、ストーリーは頭に入っています。ブーテ・ド・モンヴェルの絵は、シンプルで美しいものです。大いに癒やされます。画像のネット検索をすると、様々なイラストを楽しむことができます。

ラ・フォンテーヌは1621年フランス生まれの詩人です。『イソップ寓話集』をベースにして、詩の形式でまとめたのが本書です。本書には26の寓話が所収されています。『イソップ寓話集』のように押しつけがましいところがなく、詩ですのでリズム感があります。したがってフランスでは小学校の教科書に採択されており、朗読用に活用されています。

ほとんどのフランス人は、本書の何編かをそらんじることができます。昔外資系の会社で同僚だったフランス系スイス人が、得意そうに「ウサギとカメ」の一部をフランス語で披露してくれました。これをきっかけに、私は本書の存在を知りました。それほど今の時代でもフランス人にとっては、かけがえのない一冊なのです。

ところが哲学者のルソーは、本書について詩情を認めながらも、次のように語っています。
――教育の面から、こどもにはわからないので無意味である。(『面白いほどよくわかる世界の文学』日本文芸社)

どうやらルソーの見識は、間違っていたようですね。

◎「ウサギとカメ」の比較

「ウサギとカメ」について、『イソップ寓話集』と『ラ・フォンテーヌ寓話』とを比較してみます。ちなみに『イソップ寓話集』のタイトルは、「亀と兎」となっています。

――亀と兎が足の速さのことで言い争い、勝負の日時と場所を決めて別れた。さて、兎は生まれつき足が速いので、真剣に走らず、道から逸(そ)れて眠りこんだが、亀は自分が遅いのを知っているので、弛(たゆ)まず走り続け、兎が横になっている所を通り過ぎて、勝利のゴールに到達した。(『イソップ寓話集』(岩波文庫P174)

――ある時、カメがウサギの若造に言った。/「ねえ、賭けしない?/あそこのゴールまでどっちが早いか、/もちろん私が勝つけどさ/「俺に勝つ? 正気かよ?」

ウサギはヘラヘラ言い返した/「おばちゃんさ、ヘレボルス(山本補:精神錯乱の薬)四錠飲んで、/頭の中洗浄した方がいいんじゃない?/「正気かどうか勝負といこうじゃない」
(『ラ・フォンテーヌ寓話』(洋洋社、P16)

いかがでしょうか。ラ・フォンテーヌは、みごとに『イソップ寓話集』を詩として再構築していることがわかると思います。本書は岩波文庫『寓話』(上下巻)にも入っています。私は所蔵していませんので、イラストがどうなっているかはわかりません。おそらくイラストがあっても白黒だと思います。今回紹介させていただいた単行本は、淡いパステルカラーになっています。

◎ラ・フォンテーヌの名言

本書以外にラ・フォンテーヌは、私たちがよく知っている有名な言葉も数多く残しています。

――すべての道はローマに通ず

――火中の栗を拾う

――ラ・フォンテーヌは別の寓話(『振り分け頭陀(ずだ)袋』で人間というのは「自分にはすべて宥(ゆる)し、他人にはなにひとつ容赦せぬ」存在であると述べている。(鹿島茂『悪の引用句辞典』中公新書)

鹿島茂には『「悪知恵」のすすめ』(清流出版)という著作があります。副題に「ラ・フォンテーヌの寓話に学ぶ処世訓」とあります。

◎創作意欲に火がついて

『ラ・フォンテーヌ寓話』を読んで、猛烈に自分でも書いてみたくなりました。本書はお薦めです。

【ウサギとカメ】(山本藤光の創作寓話)
ウサギとカメが駆けっこをすることになりました。ウサギは「駆けっこの会場はキミが選んでもいいよ」といいました。思案したカメは、小さな池があり、周囲にうっそうと雑草が茂っている場所を選びました。勝ち誇ったようにウサギは「ゴールは向こう岸だ」といいました。号令とともにカメは池に飛び込み泳ぎ始めました。ウサギは草藪に飛び込みましたが、走ることはままなりません。こうしてカメは圧倒的な差をつけて、ゴールインしました。

【蟻と梨の木】(山本藤光の創作寓話)
 木枯らしの吹く季節になりました。蟻はせっせと、巣穴に食料を運んでいます。蟻の巣穴は、梨の木の根元にあります。

忙しく働く蟻を見下ろし、梨の木はじっと冬将軍の到来を待つしかすべがありません。

 勢いの弱まった太陽は、そんな蟻と梨の木に尋ねました。
「ごめん。夏のような豪華な日射しを届けられなくなった。こんな貧弱な日射しだけど、雪の降る時期にもわしの恵みは必要かな?」

 蟻は雪に巣穴がふさがれる情景を思い浮かべ、すばやく「なし」と答えました。梨の木は太陽の恵みがなくなったら枯れてしまうので、「あり」と天に向かって、枝を揺すりました。
山本藤光2018.09.15



135:別れの予感

2019-09-15 | 小説「町おこしの賦」
135:別れの予感
「恭二、毎日お手紙ありがとう。でももうお手紙はいらない。恭二は受験勉強に集中しなければダメ。ここへもきてはダメ。今度きたら恭二のこと、嫌いになっちゃうから」 
 初めての面会の日に、詩織はそう告げた。町中からジングルベルが、聞こえるようになったころである。
そしてそれから数週間後、詩織は退院した。帽子をかぶった詩織を、両親と一緒に迎えた。
朝方からの吹雪は、詩織の退院に合わせたかのように止んでいた。

 父親の運転する車に乗った詩織を見送り、恭二はオランダ坂を下る。毎朝、詩織が待っていてくれた坂である。たくさんの夢を、語り合ってきた。力のない足取りで坂を下ったとき、目の前に猪熊勇太の姿があった。花束を抱えている。
「詩織ちゃんのお見舞いに、行こうと思って」
 勇太は顎で花束を示して、唇の端で笑った。
「今、退院したばかりだ」
 恭二がそう告げると、勇太の顔が曇った。
「ごめん、遅過ぎたんだな」
 勇太はそういうと、いきなり背中を向けた。
「待てよ、勇太。久しぶりに会ったんだから、少し話でもしよう」
 恭二の言葉を無視して、勇太は足早に遠ざかって行った。恭二のなかの、もう一つの何かが崩れた。今まで身近にあったものが、次々と消えてゆく。嫌な予感が、背筋を走る。

 大学受験の模擬テストの結果は、さんたんたるものだった。北海道薬科大の合格確率はゼロ。
 退院した詩織からは、一切の連絡はない。大学受験は来月に迫った。恭二はこれが自分にとって、初めての受験だったことに気がつく。高校へは、無試験で合格している。
 詩織も勇太もいなくなった教室を出て、恭二は残された時間を、悔いのないものにしょうと思う。二人の分までがんばらなければならない、とも思う。そして何よりも、孤独だと思う。

073:米国の営業リーダー(2)

2019-09-15 | 新・営業リーダーのための「めんどうかい」
073:米国の営業リーダー(2)
――第6章:威力ある同行
 営業担当者を採用した営業リーダーは、最初の4週間を製品Aだけに特化して教育します。合格すると、本社にあるロールプレイセンターに送り出します。合格の目安は、製品テストで90点が取れるようになった時点です。

 ロールプレイセンターで2週間の特訓を受け、合格したら営業担当者は再び営業リーダーのところへ戻ってきます。今度は製品Aに関する現場での「OJT」を4週間実施します。合格点が出たら、営業担当者は単独で製品Aの宣伝ができるわけです。

 営業担当者は製品Aの指導同行を受けながら、夜は製品Bの勉強をします。あとのサイクルは、製品Aのときと同じです。

 営業担当者はこの繰り返しで、主力6品目をマスターします。最低でも10ヶ月かかるとのことでした。米国ロシュの営業リーダーは、身体を張っていました。「同行でもしてやるか」などという人はいません。営業担当者の成長が、自分の評価として跳ね返ってくるからです。

 私は帰国するなり、この制度を当社へも導入したいと提案しました。営業リーダーに、採用、研修、育成の使命を持たせたかったのです。だが提案は、一蹴されました。時期尚早。諦めざるを得なかったわけです。ところが思わぬきっかけで、米国ロシュ流を運用することになりました。

小泉喜美子『ミステリー作家の休日』文庫に

2019-09-15 | 妙に知(明日)の日記
小泉喜美子『ミステリー作家の休日』文庫に
■最近のネット番組で、アメリカは北と同盟関係になる、との論調が増えてきました。そして韓国は、中国に吸収されると結ばれています。極論かもしれませんが、ポンペオ解任で、にわかに極端な見立てが増えたのだと思います。■小泉喜美子『ミステリー作家の休日』(光文社文庫)が出ました。翻訳家として名声が高い著者は、自らもミステリー小説を手がけています。著者の作品はどれも切れ味が鋭く、素晴らしいものです。本書は文庫未収録の短篇集です。どれでもまずは、一作読んでみてください。きっと「コイキミ」のとりこになることでしょう。
山本藤光2019.09.15