149:みじめなスタート
実力診断テストが、返却された。英数国の合計点は百二十七点と、三百点満点の半分にも満たない成績だった。学内順位は二百三十六人中百九十四番目。箱根駅伝の折り返しスタートのように、ライバルたちはすでに、はるか先を走っていた。予想していたこととはいえ、恭二は完璧に打ちひしがれていた。
とにかく誰にも負けない、努力をすること。ただそれだけを考えた。科目から科目への切り替えのときには、「笑話(しょうわ)の時代」ノートも開いた。高校時代に、ちょっとだけやっていた、笑い話の創作ノートである。コーヒーを飲み終わるまで、恭二は頭に浮かんだ単語に、おかしみが生まれるストーリーを考えた。気分転換には持ってこいのはずなのだが、なかなか笑える話は浮かんでこなかった。
ふと思いついて、ノートを一枚破り取った。ノートの一番下の欄に、四月・百二十七点・百九十四番と書いた。毎月数字を積み上げていくつもりだった。どん底だよな、と恭二は思う。そしてどん底って、これ以上落ちないところだとも思う。
参考書を開く。一月から十二月までを、旧月名で書きなさいとある。睦月、如月、弥生、卯月、五月と空欄を埋める。六月がわからない。覚え方のヒントが、掲載されていた。「むきやうさみふみはながしし」とあった。旧月名の頭を、連ねたものである。
恭二は「み」を考える。水無月という単語が、浮かんだ。あとはスラスラできた。
この暗記方法は、自分に最も適していると思った。それからは難解なものはすべて、この方法で頭に叩きこむことにした。
翌朝は六時に、目覚まし時計をセットした。英単語も難しいものは、ストーリーとして覚えた。床についてからも、頭のなかでは英単語が浮遊していた。全科目が情けない点数だったが、特に英語はひどかった。単語がわからないので、長文問題はまったく手がつけられなかった。
英単語帳と格闘する、毎日が続いた。わからない単語にはラインマーカーを塗り、小さな文字でストーリーを添え続けた。たとえばこんな具合にやるのである。穴をホールhole。
実力診断テストが、返却された。英数国の合計点は百二十七点と、三百点満点の半分にも満たない成績だった。学内順位は二百三十六人中百九十四番目。箱根駅伝の折り返しスタートのように、ライバルたちはすでに、はるか先を走っていた。予想していたこととはいえ、恭二は完璧に打ちひしがれていた。
とにかく誰にも負けない、努力をすること。ただそれだけを考えた。科目から科目への切り替えのときには、「笑話(しょうわ)の時代」ノートも開いた。高校時代に、ちょっとだけやっていた、笑い話の創作ノートである。コーヒーを飲み終わるまで、恭二は頭に浮かんだ単語に、おかしみが生まれるストーリーを考えた。気分転換には持ってこいのはずなのだが、なかなか笑える話は浮かんでこなかった。
ふと思いついて、ノートを一枚破り取った。ノートの一番下の欄に、四月・百二十七点・百九十四番と書いた。毎月数字を積み上げていくつもりだった。どん底だよな、と恭二は思う。そしてどん底って、これ以上落ちないところだとも思う。
参考書を開く。一月から十二月までを、旧月名で書きなさいとある。睦月、如月、弥生、卯月、五月と空欄を埋める。六月がわからない。覚え方のヒントが、掲載されていた。「むきやうさみふみはながしし」とあった。旧月名の頭を、連ねたものである。
恭二は「み」を考える。水無月という単語が、浮かんだ。あとはスラスラできた。
この暗記方法は、自分に最も適していると思った。それからは難解なものはすべて、この方法で頭に叩きこむことにした。
翌朝は六時に、目覚まし時計をセットした。英単語も難しいものは、ストーリーとして覚えた。床についてからも、頭のなかでは英単語が浮遊していた。全科目が情けない点数だったが、特に英語はひどかった。単語がわからないので、長文問題はまったく手がつけられなかった。
英単語帳と格闘する、毎日が続いた。わからない単語にはラインマーカーを塗り、小さな文字でストーリーを添え続けた。たとえばこんな具合にやるのである。穴をホールhole。