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著書「仕事と日常を磨く人間力マネジメント」の読書ナビ

132:勇太の事情

2019-09-12 | 小説「町おこしの賦」
132:勇太の事情
標茶町ウォーキング・ラリーは、多くの課題を残しながらも、順調な第一歩を刻んだ。二学期がはじまった。授業が再開したのに、猪熊勇太の姿はなかった。休み時間、恭二は南川理佐に、勇太のことを尋ねた。
「昨日メールがあったんだけど、お父さんが入院したんだって。あまり芳しくないようなの。それで家の仕事は、彼がやらなければならないとのことだった」
「お父さん、かなり悪いのかな?」
「そこまではわからないけど、しばらくは学校へはこられないみたい」
「お父さんが長引いたら、進学どころではなくなってしまう」
「私もそれを、心配している」

それから一週間後、勇太は昼休みの教室をのぞいた。だが教室に、入ってこようとしない。廊下から恭二に向かって、手招きしている。理佐たち女性陣は、中庭で弁当を広げているはずだった。
「どうした? お父さんの具合はどうなの」
「末期の胃がんだって。余命一年っていわれた」
「そりゃあ大変だな」
「それでしばらくは学校にこられないんで、休学の手続きにきた。何とか高校だけは卒業したいといったら、定時制への編入を勧められた」
恭二には、返すべき言葉がなかった。恭二が口を開こうとしたとき、勇太は「心配かけたな。おれは大学断念だ」といって背を向けた。寂しげな背中だった。しかし恭二には、勇太にかけられる言葉がなかった。

中庭での昼食から戻ってきた理佐は、詩織に肩を抱かれていた。頭を垂れているので、表情は見えない。
恭二は瞬時に、勇太がメールをしたのだと思った。詩織は理佐を、保健室へ連れて行った。戻ってきてから、恭二に告げた。
「勇太からのメールを読んで、急に泣き出しちゃったの。見せてくれたけど、もうかわいそうで最後まで読めなかった。勇太もかわいそうだけど、理佐もかわいそう」
 詩織はそういって、大きな瞳に涙を溜めた。恭二は、自分の家のことを考えた。親父が倒れたら、継げる人間はおれしかいない。自営業の子どもは、親の後を継ぐ宿命にある。早いか遅いかの違いはあれ、おれにもそんな日はくる。

070:言葉を丸めない(1)

2019-09-12 | 新・営業リーダーのための「めんどうかい」
070:言葉を丸めない(1)
――第6章:威力ある同行
 同行時は自分が評価者であることを、忘れなければなりません。同行は、評価の場ではありません。部下を育てるのが、目的なのですから。スポーツの世界のコーチは、評価者ではありません。選手にいちばんふさわしいプランを作成し、愛情あふれる強化を行います。

 だから信頼関係が生まれ、コラボレーション効果が高くなります。コーチングとは、営業担当者が自ら考え、学び、実践する道筋をつけてあげることです。コーチの役割は、道筋を少しずつレベルアップさせることにあります。

 命令するから、考えさせる世界への変換。私が提唱する「人間系ナレッジマネジメント」の基本理念です。これは、コーチングの世界と共通の考え方です。誰でも自分が考え、納得したことについては責任を持ちます。命令する世界には、本人の納得感がありません。

「CP」では、絶対に理論を押しつけません。納得できたものだけ、実践してもらいます。

 表題の「言葉を丸めない」については、次のショートストーリーで説明したいと思います。言葉を丸めるとどうなってしまうのか、考えてみましょう。

◎ショートストーリー

 2つの会話は、同行を終えた直後に営業リーダーが発したものです。違いを理解していただきたいと思います。

①顧客を出るなり、汗を拭っている部下に上司の叱責がはじまります。
「ダメじゃないか、あんな説明では、納得してもらえるはずがない」
 
こんなふうにいわれても、営業担当者は何のことなのかがわかりません。「あの説明」のどこがまずかったのか、本人は気づいていないからです。営業リーダーは、言葉を丸めてはいけません。まずかったところを、具体的に話して聞かせることが大切なのです。明日はもう一つのショートストーリーを提供します。

久保寺健彦『青少年のための小説入門』再読中

2019-09-12 | 妙に知(明日)の日記
久保寺健彦『青少年のための小説入門』再読中
■安部改造内閣の顔ぶれがきまりました。憲法改正内閣または側近てんこ盛り内閣。そんなイメージがあります。さらに韓国への強烈なメッセージ性があり、石破決別宣言の匂いもあります。小泉進二郎を取り込んだのも、勝手な意見を封じるためかもしれません。■まだ文庫化されていませんが、早く紹介したい作品があります。原尞『それまでの明日』(早川書房)、久保寺健彦『青少年のための小説入門』(集英社)は、文庫化されるのを待たずに、近く書評を発信したいと思っています。現在当該の2冊は、メモを取りながらの再読中です。
山本藤光2019.09.12