山本藤光の文庫で読む500+α

著書「仕事と日常を磨く人間力マネジメント」の読書ナビ

鹿島茂『悪知恵のすすめ』入手

2019-09-24 | 妙に知(明日)の日記
鹿島茂『悪知恵のすすめ』入手
■御嶽海が決定戦で、貴景勝を破って優勝を決めました。横綱不在の寂しい場所を、この二人の力士が盛り上げてくれました。相撲界はこの二人の時代になるのでしょう。ただし二人とも押し力士なので、四つ相撲力士が割って入ることを祈ります。■注文してあった鹿島茂『悪知恵のすすめ』(清流出版)が届きました。副題には「ラ・フォンテーヌの寓話に学ぶ処世術」とあります。副題の書籍は「山本藤光の文庫で読む500+α」で紹介してあります。届いた本をさっそく読んでみましたが、押しつけがましくない筆運びに安心しました。
山本藤光2019.09.24

143:札幌へ

2019-09-23 | 小説「町おこしの賦」
143:札幌へ
 瀬口恭二は失ったものの大きさに、茫然自失している。藤野詩織が吐き出した「結婚するかも」という一言が、微熱のように体内に居座り続けている。微熱は体中にみなぎっていた力を抜き取り、何かをしょうという気力をも奪ってしまった。
札幌の予備校へ行くために、明日標茶(しべちゃ)町を離れなければならない。詩織はそんなおれの背中を、残酷な刀で切りつけたのだ。
 
札幌予備学院から紹介してもらったアパートには、机や椅子やベッドは備えつけられているとの連絡があった。標茶から送ったのは、布団と衣類と簡単な調理器具と電気ストーブだけだった。
 恭二は机のなかの、整理をはじめた。詩織の写真は全部破り捨て、本の紹介をつづった詩織ノートも引き裂いた。何一つ痕跡は、残したくなかった。壁に貼ってある、中学時代の野球の賞状も破いた。書棚の本は、そのままにしておくことにした。

ふと見ると書棚に、一冊のノートがはさまっていた。標高新聞部へ入部したときに、何でもいいから自主研究をしなさいといわれて、思いつくまま書き留めていたノートだった。表紙には「笑話の時代」とあり、「笑話」には、「しょうわ」とルビが振ってあった。めくってみた。十枚ほど使用されていたが、あとは空白だった。

 記憶が戻った。詩織と笑い話を集めようという話になって、思いつくまま書き連ねたものだ。笑い話の収集作業は、とっくに止めていた。自ら創作する習慣も、なくなっていた。ノートの存在すら、忘れていたほどである。
 ノートに書いた笑話を、通学路で詩織に披露していた。受けたものもあった。しかしほとんどは不発に終わった、小さな物語ばかりだった。

◎怖い夢
――笑話(しょうわ)の時代
精神科での医師と患者のやりとり。
患者「毎日変な夢ばかりみます。最初の日は十五階から落ちて、次の日は十四階から落ちて……」
医師「それで相談とは?」
患者「私怖いんです。明日は二階から落ちる日なんです」
医師「今まで相談にこなかったのに、なぜ二階の日は怖いんだい?」
患者「今までは落ちる途中で目が覚めたんですけど、二階からだと目が覚める暇がないんです。先生、怖い!」
(これは誰かに、教えてもらったものです。誰かは覚えていません)

◎おもしろさの点数
――笑話(しょうわ)の時代
A「おもしろさの度合いを示す、十段階を考えた博士がいる」
B「それはユニークな発想だな。それならどのくらいおもしろいかが、相手に理解される」
A「ちょっぴり、おもしろいのは一点として、こんな具合だ。くすっと笑う。にやっと笑う。大口をあけて笑う。体をくねらせて笑う。げらげら笑う。肩を揺すって笑う。腹を抱えて笑う。笑い転げる。涙を流して笑う。これが博士の示した九点目までだ」
B「それで十点は何だい?」
A「笑いの実験をしていて、博士は十点を考えている間に、笑い死んだらしい」
(これは、恭二の創作です)

 新聞記事を書く腕を磨くために、おれはこんなばかばかしいことをしていたんだ。読んだ話は、ちっともおもしろくなかった。しかし恭二は、浪人中にこのノートを続けようと思った。猛勉強の合間の、気分転換くらいにはなるだろう。
 胸のなかに溜まった詩織の澱(おり)は、時間が解決してくれるはずだ。明るく、笑って、おれは新たな一歩を踏み出さなければならない。ノートを、旅行カバンに入れた。そして、恭二は眠った。

080:勝手にやればいい

2019-09-23 | 新・営業リーダーのための「めんどうかい」
080:勝手にやればいい
――第6章:威力ある同行
 難しいことや特殊なスキルやノウハウを、移植するのではありません。営業活動の基本を、叩きこんだのです。営業リーダーは、学校の先生であってはいけません。塾の先生に徹するべきなのです。

◎ショートストーリー

 SSTメンバーが派遣先に赴く。最初の場面を再現してみたいと思います。あなたは何を感じるでしょうか。

SST「本日から3ヶ月、私たち3人がお世話になります」
現地リーダー「話は聞いているが、おまえたちに何ができる? まあ命令だからしょうがないが、おれは知らん。勝手にやればいい」
SST「営業リーダーの協力がなければ、絶対にうまくゆきません。趣旨を理解いただき、ぜひ一緒に、このチームを伸ばしましょう」
現地リーダー「おれは目いっぱいやっている。おれは自分流にやるから、おまえたちはおまえたちで、自由にやればいい。邪魔はしない」

SSTメンバーは、3人が1組になってチームに派遣されます。平均的に1つのチームには、8人ほどの営業担当者がいました。SSTメンバーが同行指導するのは、1人につき2人の営業担当者です。その意味は、あとで説明させていただきます。

現地の営業リーダーは、SSTメンバーの成功を望んでいません。SSTメンバーが成功したら、自分たちの指導力が問われるからです。そんな関係ではじめのうちは、メンバーに対して協力的ではありません。しかしメンバーの熱心な仕事を目のあたりにして、少しずつ胸襟を開くようになりました。

ショートストーリーは、実話です。この営業リーダーは、最終日にSSTメンバーに感謝の言葉を述べ、送別会まで開催してくれました。

百田尚樹『日本国紀』がいい

2019-09-23 | 妙に知(明日)の日記
百田尚樹『日本国紀』がいい
■巨人が5年ぶりにリーグ優勝しました。丸選手の加入が大きかったです。さらに原監督の再投入が大きく貢献していると思います。勝ちにこだわる采配は、負けるとぼろくそにいわれかねませんでした。ベンチ入りした選手を適材適所に使いこなす。この手腕は目を見張るものでした。■百田尚樹『日本国紀』(幻冬舎)を毎朝少しずつ読み進めています。これまで読んだどんな歴史書よりもわかりやすく、うんうんうなりながらの読書です。ポストイットが一杯になっています。
山本藤光2019.09.23


142:最後の夜

2019-09-22 | 小説「町おこしの賦」
142:最後の夜
詩織の部屋のドアを、軽くノックする。手が震えた。すぐに扉が開いて、詩織は恭二をなかに招き入れた。詩織は恭二に椅子を勧め、自分はベッドの端に腰を下ろした。
「恭二、ワインを飲もう。一番高級なのを、持ってきちゃった」
 机の上には、二つのグラスと赤ワインが置いてあった。恭二は栓を抜き、グラスに注いだ。それを両手に持って、詩織の隣りに腰を下ろした。
「恭二、何ていって乾杯する?」
「二人の幸せのためにかな」
「うん、それでいい」
 グラスが合わされ、澄んだ高い音が響いた。
「恭二、長い間つき合ってくれてありがとう」
グラスを口から離して、詩織はいった。

「グラス、置くところがないね」
「机を引っ張ってきて」
 グラスを机に置いて、恭二は詩織の肩に手を回した。詩織は引っ張ってきた、机の引き出しを開けた。そしてなかを指差していった。
「これ全部恭二からもらった手紙。ごめんね、ずっと返事も出さないで」
 
引き出しの中は、恭二の手紙でいっぱいだった。詩織はそのなかに手を入れて、小さな消しゴムを取り出す。詩織消しゴムだった。詩織はそれを眺めながら、ぽつりといった。
「私ね、小学校のときから、恭二のこと好きだったみたい。この前、気がついた。中学のときに、もらったラブレターを恭二に見せたよね。あれは恭二の気持ちを、確かめたかったからなんだ」
「あのとき、おれの方が詩織のこと、何倍も好きだっていった」

 展開が悪い、と恭二は思う。詩織ののど元には、別れの言葉が突き上げてきている。恭二はそう直感する。なぜだ、なぜだと思う。別れる理由が見つからないのだ。
 頭のなかをスライドショーみたいに、昔の映像が次々に浮かんでくる。恭二は、覚悟を決めている。何をいわれても動じないでおこうと、固く決意している。
「恭二、私、結婚するかもしれない」
 予想もしていなかった、宣告だった。硬直してしまった思考回路を、力まかせにこじ開ける。言葉が出ない。
「主治医の先生から、プロポーズされているの」
「そうか」と、恭二は応じた。時間が固まってしまった。不安定だった、グラスタワーが倒れた。砕け散ったグラスから、粘液質の水がこぼれた。
「恭二、ずっと私のこと、大切に思ってくれてありがとう」
 詩織の肩が、激しく揺れはじめた。恭二は肩に回していた手を解き、絞り出すようにいった。
「わかった。おれ、消える」
 
恭二は立ち上がり、机を元の位置に押し戻した。詩織は、背後から抱きついてきた。
「恭二、きて!」
強引に、手を引かれた。恭二は手を振りほどき、大きく息を飲んでから、「さよなら」と告げた。すすり泣きが聞こえた。恭二はドアノブに手をかけ、後ろ向きのまま、もう一度「さよなら、詩織」と吐き出した。
ドア越しに、泣き叫ぶ声を聞いた。恭二は空っぽになった胸のなかから、「さよなら」の四文字をつまみ出し、自分の足下に放り投げた。


079:塾の先生になる

2019-09-22 | 新・営業リーダーのための「めんどうかい」
079:塾の先生になる
――第6章:威力ある同行
 SSTプロジェクトでは、メンバーは塾の先生。現地の営業リーダーは、学校の先生と定義しました。学校の先生は、均一に広く浅く教える存在。塾の先生とは、短期間に苦手を克服させ、合格できるまでレベルを上げるのが使命です。必然、SSTメンバーは、営業担当者の難渋先を攻略目標としました。
 
 難渋先とは大きな実績が見こめる、未攻略の顧客のことです。現状の2桁アップを実現させるためには、ポテンシャルのある難渋先の攻略が必要だったのです。ここではSSTメンバーが見本を示しながら、先頭に立ちました。3ヶ月のアクションプランを作成し、徹底的な集中訪問を繰り返しました。

 未攻略先への訪問で営業担当者は、「仕事の手順がわかった」ようです。薬剤部を訪問し、病院での活動ルールを確認します。新薬の採用は、誰が決めるのかを調べます。医師とは、どこで面談可能なのかを調査します。競合品は何が採用になっており、どの医師が処方しているのか。動き出す前に、調査すべきことはたくさんありました。

 営業担当者に仕事を覚えさせたければ、難渋先の同行をメインとすべきです。やがて、それが営業担当者の自信となり、その後の活動に弾みがつきます。SSTメンバーの1人が、こんなことをいっていました。

「仕事を覚えてもらうためには、手つかずのいちばん大きな顧客をターゲットとすべきです。ひとつの成功体験で、完璧な基礎ができます」

 一度成功を体験した営業担当者は、驚くほどレベルアップします。同行の目的は、次の2点です。

・営業担当者のレベルアップ
・難渋先の攻略

 SSTメンバーは、難渋先の攻略を通じて、営業担当者のレベルアップを図りました。そのために毎日夜遅くまで、営業担当者とともに現場を駆け回りました。自らの「名人芸の移植」。簡単なことではありません。SSTメンバーは、当たり前のことを当たり前にできる、営業担当者を育てることをゴールとしていました。

瀬戸内寂聴『求愛』文庫に

2019-09-22 | 妙に知(明日)の日記
瀬戸内寂聴『求愛』文庫に
■動画「朝鮮半島の今を知る第32回」(日本記者クラブ主催)は、阿部浩己氏の講義が実にわかりやすいものでした。日本と韓国の主張について深掘りしたもので、多くのことを学びました。視聴をお勧めします。■瀬戸内寂聴『求愛』(集英社文庫)が出ました。珠玉の掌(てのひら)恋愛小説集とコピーにあります。いずれも短い作品ですので、楽しみながら読むことができます。
山本藤光2019.09.22


141:フォークの柄

2019-09-21 | 小説「町おこしの賦」
141:フォークの柄
 帰りかけた恭二の耳元で、詩織がささやいた。
「一度家へ帰って、すぐに私の部屋にきて」
 後ろ向きに手を上げて了解を示し、恭二は幸史郎たちとともに、藤野温泉ホテルを辞した。胸のなかで二種類の玉が、ぶつかり合っている。詩織の用件が、想像できない。よい話ではない、との思いが強い。

「札幌へはいつ発つんだ?」
「三日後。コウちゃんは?」
「おれは四月一日。学生寮はそれまで、空かないんだ」
 幸史郎と可穂を宮瀬家の前で見送り、恭二は勇太に「駅まで送るよ」といった。二人で並んで歩くのは、久しぶりだった。
「恭二、おれな、株式会社・酪農猪熊を目指すことにした。近所の酪農家なんだけど、後継者がいないんで廃業するって、あいさつにきたんだ。おれ、そこを買うことにした。でっかい牧場になるんで、冬場は野菜のビニールハウスを経営しようと思っている。コウちゃんに相談したら、親父に格安で建設するように、頼んでくれるって」
「そりゃいいな。勇太はちゃんと、未来のことを考えているんだ」
「いつまでもひっそりと、酪農家を続ける気はないな。夏場は外国の研修生も受け入れるように、申請もしてある」
「勇太、おまえは力強いよ。感心した」
「おまえも、しっかりと勉強しな。帰ってきたときは、電話くれよ。今日みたいに会える友だちが、誰もいなくなるのが一番寂しい」

 二人は標茶駅で、固い握手を交わす。お別れだ、と恭二は思う。ずっと以前に理佐とお別れをし、幸史郎と可穂にもお休みをいった。そして今勇太とも握手をした。一本のフォークの柄の部分だった関係が、先端部分に移行してしまった。恭二は勇太を見送り、最後の別れになるだろう、詩織の元へと足を運んだ。
 胸のなかを、重い鉛の球が転がった。足取りが重い。恭二は力いっぱい息を吐き出し、みぞおちに力をこめた。

078:暗黙知は色あせない

2019-09-21 | 新・営業リーダーのための「めんどうかい」
078:暗黙知は色あせない
――第6章:威力ある同行
 SSTプロジェクトの詳細については、拙著『暗黙知の共有化が売る力を伸ばす・日本ロシュのSSTプロジェクト』(プレジデント社・第4回日本ナレッジマネジメント学会研究奨励賞受賞)、『SSTプロジェクトの奇跡・営業ドキュメント同行指導の現場』(プレジデント社)をお読みいただきたいと思います。
それらを普遍化して営業リーダーに向けた『なぜ部下は伸びないのか・リーダーが変わるべきこと』(かんき出版)も、併せてお読みいただきたいと思います。

「暗黙知」とは、スキルやノウハウのことです。一度身につくと、暗黙知は色あせることがありません。名人の暗黙知が移植された営業担当者は、その後も業績を伸ばし続けました。

 SSTプロジェクトは、的確な育成同行の威力を実証しました。その後、私は「SSTアカデミー」を立ち上げ、70名の営業リーダーのレベルアップに取り組みました。

最近、元SSTメンバーにインタビューしています。そのときのやりとりを紹介したいと思います。
「営業担当者の成長が目に見えるので、毎日の同行は楽しいものでした」
「多くの営業担当者は、当たり前のことができていなかった。当たり前のことを教えるのだから、難しい話ではありません」
「身体で覚えてもらう。体育会系みたいですけど、現場での指導に勝るものはありません」

鹿島茂『悪知恵のすすめ』注文

2019-09-21 | 妙に知(明日)の日記
鹿島茂『悪知恵のすすめ』注文
■肌寒く感じるほどの朝でした。昨夜から毛布を蒲団に変えて寝ました。あの猛烈に暑かった夏は遠ざかったようです。ただ今室温は27度。これを肌寒く感じるのですから、体内温度計は完全に真夏仕様になっていたようです。■鹿島茂『悪知恵のすすめ』(清流社)を「日本の古書店」で注文。「アマゾン」の最低価格は3千円ほどでしたが、こちらのサイトでは千円でした。このサイトは高価な本を探すのに便利です。本書は先日書評を発信した、ラ・フォンテーヌ『ラ・フォンテーヌ寓話』(洋洋社、大澤千加訳)を取り上げたものです。
山本藤光2019.09.21