山本藤光の文庫で読む500+α

著書「仕事と日常を磨く人間力マネジメント」の読書ナビ

128:最終スタンプ所

2019-09-07 | 小説「町おこしの賦」
128:最終スタンプ所
藤野温泉ホテルは、日帰りコースの最後二十七番スタンプ所になっている。一泊二日コースのときには、三十八番としてお客さんの最終ゴールともなる。いずれにせよ、ウォーキング・ラリーを終えたら、一日分の汗をここで流してもらうのである。
詩織と恭二は、ここで参加者の感想を収集している。二人はロビーのソファに座り、周囲の声に耳を傾けている。はんてんは着ていない。

――ママ、すごくおもしろかった(女児)
――魚二匹も釣ったんだよ。魚ぴちぴちはねて怖かった(男児)
――高校であんなにたくさんの体験ができるなんて、信じられない。みんな親切だったね(母親)
――今度またこようね。カヌーにも乗れるみたいだし、キャンプもできるんだって(父親)
 詩織は恭二と話をしているふうを装い、参加者の声を拾って必死でペンを走らせている。新聞部時代の技は、しっかりと身についている。

浴室が混んできているようで、詩織の父は入浴の順番を待っているロビーの人たちに、「ドリンクの無料サービスをしています。冷たいものを飲んで、少しだけお待ちください」と伝え回る。レストランにも、待ちの列ができた。「何やっているんだ」との、怒号も聞こえる。
恭二は詩織に、何かをささやく。うなずいた詩織は、父のもとへと、承認を得るために走る。そして二組のトランプとハンディマイクを持って、戻ってくる。
「お風呂やお食事を、お待ちのお客様。これから、『待っててよかったカード大会』を開催します。賞品は売店で売っているもので、二千円以内のものなら何でも無料でゲットできます」

 参加者はぞろぞろと、ロビーに集ってくる。詩織は一組のカードを伏せて、手に持っている。
「お一人さま一枚、カードを引いてください。あとでもう一組のカードで当たりを決めます。はい、坊やどれでも一枚選んでください」
 次々と詩織の手から、カードが消えてゆく。
「みなさん、カードをお持ちですか? では当たりカードを、選んでもらいます。こっちのカードから一枚ずつ引いてもらいますので、同じカードをお持ちの方は、当たりとなります。二千円券を差し上げますので、それでお好きなものをお求めください」

 恭二と詩織を囲んで、大きな人垣ができている。浴衣姿の人も多い。イベント参加者ではなく、泊り客も含まれているようだ。
「では、当たりカードを選びます。抽選は十人のお子さんに、担当してもらいます。当たりカードを選びたい人は手を上げて」
 何人もの子どもが、手を上げている。詩織はその子の眼前に、伏せたカードを差し出す。一枚が引かれる。
「ハートの七です。どなたかお持ちですか」
 親にうながされて、短パンに半袖の男の子がカードを高く掲げている。
「はい、おめでとうございます」
 大きな歓声に、ため息が混じる。ホテルのパンフレットに、赤のマジックインクで「当たり」と書いただけのものを手渡す。拍手が起きる。

 恭二はできるだけ進行を遅らせるために、当たりの人にマイクを向けてみたりした。そして十枚の当たりが決まったとき、マイクを詩織に渡した。
「これで、待っててよかったカード大会を終わります。たくさんのみなさまに標茶町ウォーキング・ラリーに参加していただき、ありがとうございます。予想外の人数の参加で、受け入れ側に混乱がありましたことを、深くお詫び申し上げます」
 マイクを持った詩織は、深々と頭を下げる。拍手が起こり、「いいってことよ」という声が飛んだ。

宮瀬哲伸は、一部始終を見ていた。恭二と詩織の機転に、感動すら覚えていた。二人には、おもてなしの心がある。観光客を包みこむ、暖かな気持ちがある。
 

066:上司と部下へのアンケート

2019-09-07 | 新・営業リーダーのための「めんどうかい」
066:上司と部下へのアンケート
――第6章:威力ある同行
 私は同行の質を測るための「物差し」を、3年がかりで開発しました。「同行力」の検証は可能なのです。簡単に説明するなら、同行は部下のレベルアップが目的です。つまりモチベーションが上がると、営業担当者の「意識・行動」に変化が生まれます。その変化を、何度もアンケート調査を繰り返して、確認することにしたのです。

 意識・行動に関する質問項目を、50ほど用意しました。そのなかには、上司と部下への裏腹な質問が入っています。こんな具合です。

【営業リーダーへの質問】
①将来は支店長になりたい
②新しい販促資材をていねいに読むよう指導している
③部下を十分に支援している

【営業担当者への質問】
①将来は営業リーダーになりたい
②新しい販促資材をていねいに読んでいる
③上司の支援は十分である

 強いチームは、上司と部下の回答にギャップが少ない傾向にありました。弱いチームは、大きなギャップが生まれていました。人事異動で営業リーダーが交代します。半年後くらいに、もう1度同様の「意識・行動のアンケート」を実施します。大きな変化があれば、定期人事異動は大成功といえます。

角田光代の『平凡』がいい

2019-09-07 | 妙に知(明日)の日記
角田光代の『平凡』がいい
■韓国の「玉ネギ男」こと文大統領の側近チヨ・グクの聴聞会のニュースを見ました。焦点は娘の大学不正入学だとばかり思っていました。ところが本人の修士論文が、日本の論文からの盗用だとの疑惑が浮上しました。コピペ箇所はなんと33。反日の騎手が日本の論文からの盗用。この疑惑が本当なら、この人物の反日はなんなのでしょうか。そういえば記者会見のときに使っていたボールペンも日本製だったことが判明して、大いに話題になっていました。■「あのときああしていれば」ということは、誰もが思ってみたことがある現実の巻き戻し行為です。角田光代の『平凡』(新潮文庫)は、そんなことを描いた小説です。6話が所収されています。まだ2話だけしか読んでいません。角田光代の筆裁きが見事です。
山本藤光2019.09.07