131:二日目のコース
七月二日、日曜日。新たな日帰りコースの参加者を迎える。そして昨日宿泊した参加者は、二日目のコースをめぐる。
大型バスが二台、藤野温泉ホテルの駐車場で待機している。恭二と詩織は、ロビーのソファに座り、お客さんの声を収集している。
どさくさに紛れて、恭二は昨夜詩織の部屋に泊まった。てんまつについては、触れないでおこう。二人とも、眠そうな目をしている。
昨夜は夕食後に希望者を、三百六十度の絶景・多和平(たわだいら)の満天の星空へと案内した。お子さま花火大会も、そこで行った。バスは昨夜から、フル稼働している。
ロビーには、二日目の参加者が集ってくる。荷物はフロントで、預かることになっている。宮瀬幸史郎は、マイクロバスでやってきた。彼は一行と、随行することになっている。恭二と詩織も、一緒にコースを回る。
詩織の父は恭二を見つけて、「おはよう。昨日は助かったよ」と頭を下げた。詩織の部屋に、泊まったのは内緒である。恭二は、昨夜と同じ服を着ていることが気になった。
バスは分宿している参加者を拾いながら、標茶町塘路(とうろ)へと向かう。塘路は釧路湿原の玄関口にあたり、自然豊かなところである。標茶町からバスで約三十分。
バスは、塘路の郷土資料館に横づけされる。郷土資料館は以前釧路集治監と呼ばれ、標茶高校の敷地内にあった。集治監は囚人の収容施設の一つで、標茶に設置されたのは明治十八年のことであった。
一行は隣接している、塘路湖エコミュージアムセンターへと移動する。ここは新しい施設で、標茶町の四季折々の自然がビデオで紹介されている。その後サルボ展望台から、雄大な釧路湿原の眺望を楽しむ。
マイクロバスで追いかけている恭二たちは、車中で昨夜の反省会をしている。
「一日の来訪者は、マックス八百人くらいで、想定をし直さなければならないね」
「昨日が六百人ほどだから、そのくらいが妥当かもしれない」
「電車できた人とマイカーできた人は、ほぼ半々だった」
「貸し出し自転車と、ワンちゃんを増やす。物産展の在庫を増やす。あとは入浴客の混雑を避ける。課題は山積みだよな」
「でもみんなが頭をひねって、何とか切り抜けた。合格点です」
一行は「憩いの家・かや沼」で、そろって昼食をとる。昼食後はシラロトロ湖を一望できる、散策コースを一周する。茅沼には丹頂鶴が飛来してくる、有名なスポットがある。絶滅を危惧(きぐ)されていたときは、そこで餌づけがなされていた。たくさんの丹頂鶴がいた。エゾシカもキタキツネも姿を現した。シャッター音が、鳴り響いた。親子の記念写真は、恭二たちがカメラ係になった。
帰路は蝶の森を見学し、早生ジャガイモ掘りを体験し、湿原でのカヌー体験もなされた。川縁で餌をついばむ親子の丹頂鶴を見つけて、子どもたちは歓声を上げていた。
午後四時、一行は最終スタンプ所である藤野温泉ホテルへと再び戻った。
ホテルのロビーには、まだ一日コース参加者の姿はまばらだった。宮瀬哲伸は、ロビーで待機していた。参加者が降りたのを確認して、恭二たちもホテルのロビーに陣取る。最後の感想を、収集するためである。
「終わったね」
小声で、詩織がささやいた。恭二はほほ笑み返して、無言でうなずく。体内には心地よい疲れがあった。宮瀬哲伸が近づいてきて、「ごくろうさま。どうだった?」と尋ねた。
「ばっちりです。みなさん満足してくれました。今日の一日コースは、どのくらいの人出でしたか?」
「五百人ちょっとだった。昨日よりはスムーズに流れていたよ」
大きな破綻もなく、第一回標茶町ウォーキング・ラリーは終了した。恭二は温泉に入り、二日目の参加者の声に耳を傾けている。楽しかった、感動した、との声ばかりだった。以前ここで耳にした、失望の声は皆無だった。恭二は満たされた気持ちで、温泉を出た。
七月二日、日曜日。新たな日帰りコースの参加者を迎える。そして昨日宿泊した参加者は、二日目のコースをめぐる。
大型バスが二台、藤野温泉ホテルの駐車場で待機している。恭二と詩織は、ロビーのソファに座り、お客さんの声を収集している。
どさくさに紛れて、恭二は昨夜詩織の部屋に泊まった。てんまつについては、触れないでおこう。二人とも、眠そうな目をしている。
昨夜は夕食後に希望者を、三百六十度の絶景・多和平(たわだいら)の満天の星空へと案内した。お子さま花火大会も、そこで行った。バスは昨夜から、フル稼働している。
ロビーには、二日目の参加者が集ってくる。荷物はフロントで、預かることになっている。宮瀬幸史郎は、マイクロバスでやってきた。彼は一行と、随行することになっている。恭二と詩織も、一緒にコースを回る。
詩織の父は恭二を見つけて、「おはよう。昨日は助かったよ」と頭を下げた。詩織の部屋に、泊まったのは内緒である。恭二は、昨夜と同じ服を着ていることが気になった。
バスは分宿している参加者を拾いながら、標茶町塘路(とうろ)へと向かう。塘路は釧路湿原の玄関口にあたり、自然豊かなところである。標茶町からバスで約三十分。
バスは、塘路の郷土資料館に横づけされる。郷土資料館は以前釧路集治監と呼ばれ、標茶高校の敷地内にあった。集治監は囚人の収容施設の一つで、標茶に設置されたのは明治十八年のことであった。
一行は隣接している、塘路湖エコミュージアムセンターへと移動する。ここは新しい施設で、標茶町の四季折々の自然がビデオで紹介されている。その後サルボ展望台から、雄大な釧路湿原の眺望を楽しむ。
マイクロバスで追いかけている恭二たちは、車中で昨夜の反省会をしている。
「一日の来訪者は、マックス八百人くらいで、想定をし直さなければならないね」
「昨日が六百人ほどだから、そのくらいが妥当かもしれない」
「電車できた人とマイカーできた人は、ほぼ半々だった」
「貸し出し自転車と、ワンちゃんを増やす。物産展の在庫を増やす。あとは入浴客の混雑を避ける。課題は山積みだよな」
「でもみんなが頭をひねって、何とか切り抜けた。合格点です」
一行は「憩いの家・かや沼」で、そろって昼食をとる。昼食後はシラロトロ湖を一望できる、散策コースを一周する。茅沼には丹頂鶴が飛来してくる、有名なスポットがある。絶滅を危惧(きぐ)されていたときは、そこで餌づけがなされていた。たくさんの丹頂鶴がいた。エゾシカもキタキツネも姿を現した。シャッター音が、鳴り響いた。親子の記念写真は、恭二たちがカメラ係になった。
帰路は蝶の森を見学し、早生ジャガイモ掘りを体験し、湿原でのカヌー体験もなされた。川縁で餌をついばむ親子の丹頂鶴を見つけて、子どもたちは歓声を上げていた。
午後四時、一行は最終スタンプ所である藤野温泉ホテルへと再び戻った。
ホテルのロビーには、まだ一日コース参加者の姿はまばらだった。宮瀬哲伸は、ロビーで待機していた。参加者が降りたのを確認して、恭二たちもホテルのロビーに陣取る。最後の感想を、収集するためである。
「終わったね」
小声で、詩織がささやいた。恭二はほほ笑み返して、無言でうなずく。体内には心地よい疲れがあった。宮瀬哲伸が近づいてきて、「ごくろうさま。どうだった?」と尋ねた。
「ばっちりです。みなさん満足してくれました。今日の一日コースは、どのくらいの人出でしたか?」
「五百人ちょっとだった。昨日よりはスムーズに流れていたよ」
大きな破綻もなく、第一回標茶町ウォーキング・ラリーは終了した。恭二は温泉に入り、二日目の参加者の声に耳を傾けている。楽しかった、感動した、との声ばかりだった。以前ここで耳にした、失望の声は皆無だった。恭二は満たされた気持ちで、温泉を出た。