山本藤光の文庫で読む500+α

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森博嗣『すべてがFになる』(講談社文庫)

2018-03-03 | 書評「も」の国内著者
森博嗣『すべてがFになる』(講談社文庫)

孤島のハイテク研究所で、少女時代から完全に隔離された生活を送る天才工学博士・真賀田四季。彼女の部屋からウエディング・ドレスをまとい両手両足を切断された死体が現れた。偶然、島を訪れていたN大助教授・犀川創平と女子学生・西之園萌絵が、この不可思議な密室殺人に挑む。新しい形の本格ミステリィ登場。(「BOOK」データベースより)

◎現役は強い

森博嗣『常識にとらわれない100の講義』『思考を育てる100の講義』(ともにだいわ文庫)を読んで、「山本藤光の文庫で読む500+α」の「知・古典・教養」ジャンルの候補作にしました。哲学的ではなく、ニュートラルな語り口に好感が持てたからです。

そのあと、ずっと気になっていた森博嗣のデビュー作『すべてがFになる』(講談社文庫/kindle)を読んでみました。森博嗣作品は、理系ミステリィと呼ばれています。しかし最近では、恋愛小説や絵本など幅広いジャンルで活躍しています。

『すべてがFになる』は、私には難解でした。いまだに「F」の意味が理解できていません。本書はドラマやアニメにもなっているようです。私が理解不能だった「F」をどのように、可視化しているのか、確認してみたいと思います。

本書のドラマ化にあたって、森博嗣は次のように語っています。

――これまで映像化のオファは10回以上ありました。ぼくは、それらすべてに対して無条件でOKしてきましたし、口出しも一切しません。しかし、いずれも実現しなかったのは、やはり、マスメディアが許容できないタブー的な部分が作品のコアにあったためでしょう。(『IN POCKET』2014年11月号)

しかし不消化のままでも、本書の魅力を堪能できました。人物造形が巧みであり、舞台も鮮明にイメージできました。森博嗣は理系の大学准教授です。海堂尊にも感じることですが、二足のわらじ作家は物語の味つけが安定しています。最新の調味料を加えているのですから、圧倒されまくります。細部はわからなくても、全体の流れは明確に把握できます。現役は強いな、と実感させられました。

◎外部との連絡が遮断され

『すべてがFになる』は、「S&Mシリーズ」全10作品の最初の作品になります。シリーズ全体では380万部の売上があります。理系ミステリーとしては、革命的な売れ行きだと思います。S&Mは2人の主人公・犀川創平(さいかわ・そうへい)と西之園萌絵(にしのその・もえ)の名前の頭文字をとったものです。

犀川創平32歳は、N大学工学部建築学科准教授。西之園萌絵19歳は犀川の教室の1年生。西之園萌絵の父はN大学の元総長であり、犀川はその教え子という関係です。また萌絵の叔父は愛知県警の本部長であり、伯母は愛知県知事夫人です。

S&Mコンビは犀川ゼミのキャンプで、妃真加島を訪れます。ここは孤島で、唯一真賀田研究所の建物があるだけです。そこには天才プログラマ・真賀田四季(まがた・しき)がいます。彼女は14歳のときに両親を殺し、その後15年間真賀田研究所に幽閉されています。

キャンプの夜、S&Mコンビは真賀田博士との面談を求めて、研究所を訪れます。研究所は厳格に電子管理されています。2人は真賀田四季の部屋へ入ると、ウエディングドレスを着た手足のない死体と遭遇します。博士のコンピュータには、「すべてがFになる」とのメッセージが残されています。

突然、外部との連絡がとれなくなります。外部から戻ってくる研究所所長・新藤清二の、ヘリコプターに搭載している無線機だけが頼りです。ところが戻ってきたヘリコプターには無線機がなく、新藤所長の死体が残されているだけでした。

S&Mコンビと真賀田四季の、壮烈な頭脳戦の幕開けです。少し毛色のかわったミステリーとして、推薦させていただきました。

本書については、あまり語らない方がよいと判断しました。「F」とは何か。ぜひ確認してみてください。
(山本藤光:2014.08.11初稿、2018.03.03改稿)

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