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著書「仕事と日常を磨く人間力マネジメント」の読書ナビ

073cut:MR総合部門第1位

2019-05-04 | 完全版シナリオ「ビリーの挑戦」
073cut:MR総合部門第1位
――Scene10:全国営業会議
影野小枝 表彰式は佳境に入りました。残すところMRの総合1位とチームの総合1位だけです。会場が静まりかえりました。後部座席から「パパがんばれ」という黄色い声が聞こえます。
アナウンス それでは発表します。MR総合部門第1位(間、ファンファーレ)札幌支店3課太田正己くん。
影野小枝 大きな拍手と歓声のなかを、太田さんは壇上に向かっています。磯貝さんの同期で、大の仲良しだった方ですね。太田さん、泣いています。賞状とトロフィーを受け取り、社長と固い握手を交わしました。磯貝さんがマイクを持って駆け寄りました。磯貝さんは、受賞者のインタビュアーをしています。
磯貝 太田さん、おめでとうございます。今日は奥さんとお子さんもきていますね。まずは家族に向かって、喜びの言葉をお願いします。
大田 ジュン坊、アヤカ、お父さんやったよ!
磯貝 奥さんとジュンちゃんは、どちらにいらっしゃいますか。すみません、壇上までお越しいただけませんか。
影野小枝 磯貝さんは泣いています。太田さんも泣いています。そして奥さんも目を真っ赤にして、お子さんの手を引いて壇上に上がりました。社長さんから大きな花束が、奥さんに渡されました。
磯貝 全国トップMRとなった感想を一言。
太田 営業はムリだといった私に、漆原さんが1年だけ一緒にやってみようといってくれました。それでもダメなら責任を持って配置転換してやるって、いってくれました。今日あるのは、その一言のお陰です。
磯貝 飛躍のきっかけになったのは、「朝書き日報」だと聞いています。△活動ばかりしていた反省から、〇か×の面談をしたいと考えたのですね。
太田 あれは磯貝さんからのパクりです。最近では朝思い描いたとおりの、結果が得られる回数が増えています。
磯貝 毎日何勝何敗くらいですか?
太田 2、3勝できたら御の字です。最近は負け数が増えて1日30敗をする日もあります。
磯貝 1日30人以上と面談しているのですか? 驚きました。では最後に奥さんのアヤカさんに、マイクを向けてみます。おめでとうございます。ご主人の晴れ姿をご覧になっての、感想をお願いします。
奥さん 驚いています。帰宅が遅いのを我慢するので、来年も連れてきてもらいたいと思います。 

011:借りていた消しゴム

2019-05-04 | 小説「町おこしの賦」
011:借りていた消しゴム
 温泉から出ると、フロント前のソファに詩織と理佐の姿があった。髪の毛が濡れて黒光りしている。湯上がりの詩織の顔は赤く染まり、いつもより美しく見える。恭二はくるくる回る、詩織の大きな目を見つめる。
「お客さん、ぼやいていたでしょう。女湯まで、大声は筒抜けだった」
「手つかずの自然が一番なのに。変なものを建ててしまって、これでは逆効果だわ」
 理佐は立ち上がり、ポツリといった。
「町おこしのはずのプロジェクトなのに、あんな評価では最悪だよな」
 理佐の言葉を引き取って、勇太が重ねる。町おこし。恭二は勇太の言葉を、胸のなかで転がす。そのとき恭二は、長田・野球部監督の言葉を思い出す。長田は何度も恭二に、標高野球部にきてほしいと懇願している。
――故郷の活性化のために、きみが必要だ。
恭二は標茶町の活性化のために、自分でできることがあるのだろうか、とちょっとだけ考えてみる。

 手を振って帰りかけたとき、詩織に呼ばれた。
「恭二、きて!」
 手のひらを、差し出している。角が欠けた消しゴムだった。
「小学校のときに、恭二から借りたものよ。昨日机の整理をしていたら、出てきたの」
 恭二に記憶はなかった。何だかうれしくなって、恭二は詩織の手にゆっくりと触れてから、消しゴムをつまみ上げた。そしてポケットに入れた。
「確かに貸したものは、返してもらった」
 詩織はクスッと笑った。左頬にえくぼが生まれた。湯上がりの身体は、カイロを抱いているみたいに、ポカポカしていた。詩織が温泉に入っている姿を、想像してみる。湯気のなかから、真っ白な裸体が浮かび上がった。胸の膨らみは、想像できない。恭二は大きく息を吐き出し、勇太たちの後を追った。

橋本治の忖度論

2019-05-04 | 妙に知(明日)の日記
橋本治の忖度論
■『菜根譚』を座右の書にしている経営者はたくさんいます。私は書評欄で、洪自誠(こう・じせい)『菜根譚』(岩波文庫、 今井宇三郎訳)を紹介為ています。『菜根譚』を徹底的に実践した人として有名なのは野村克也氏です。『野村克也の「菜根譚」』(宝島社)は私の愛読書です。特等席に置いて、時々ぱらぱらめくります。ビジネスパースンには、特にお勧めです。■橋本治が出版社情報誌『ちくま』に連載していた文章を、第1回から読み直しています。昨日「忖度(そんたく)について書かれた文章を読みました。お裾分けさせていただきます。/「忖度」――「他人の胸の内を推し量る」が「忖度」なのだから、「忖度」には実態がない。「忖度」自身は曖昧模糊としていて、「忖度して〇〇をする」になって、やっと実態が生まれる。でも、「忖度」は「〇〇をする」になるための媒介だから、実態が生まれてしまった時に、「忖度」はどうでもよくなって消滅してしまう。森友学園への国有地売却問題で、やたらと「忖度の有無」をいわれるけれど、それを立証するのはむずかしい。(橋本治「遠い地平、低い視点47」『ちくま』2018年5月号)
山本藤光2019.05.04