山本藤光の文庫で読む500+α

著書「仕事と日常を磨く人間力マネジメント」の読書ナビ

016:でめんとり

2019-05-09 | 小説「町おこしの賦」
016:でめんとり
店の配達を手伝った帰路、恭二はばったりと亀井正輝と顔を合わせた。亀井は恭二と同級生で、野球部でいっしょだった。青い厚手のジャンパーを着て、肩からは黒いバッグを提げている。空には福笑いの眉のような、黄色い月があった。
「壮行試合のときは驚いたよ。その後、どうなんだ?」
 あのとき亀井は、セカンドを守っていた。
「もう野球はできない」
「そうか、残念だな。北海道では指折りの大エースだったのに」
「カメはどうするんだ?」
「おれは麻工場へ就職が決まっている。正社員じゃなく、出面とりだけどな」
亀井は口もとをゆがめて、ずり落ちそうになったショルダーバッグを引上げた。
「正社員にはなれるのか? いつまでも日雇いじゃ心もとないよな」
「うちの死んだおやじは、ずっと出面とりのままだった。だからサラリーマンに憧れていたんだけど、役場も消防も落ちちゃった」
「野球はどうするんだ?」
「麻工場にはソフトボール部しかない。それも男女ミックスのチームだ」
「みんなバラバラになっちゃったな」
「おれ、強がりじゃなくて、学校から解放されたのをほっとしている。おまえはあと三年、勉強がんばれよな」

 そういって、亀井は片手を上げた。同級生の四分の一は進学しない。しないというよりは、進学できない。恭二は亀井のいった「でめんとり」という単語を胸のなかで転がす。枯葉を踏んだときのような音が聞こえる。
亀井の鼻の下には、無精ひげがあった。恭二はふだん寡黙な亀井が、饒舌だったことに気がつく。世の中って残酷だな、と思う。中学からの進路は本人の意思ではなく、親の資産で決まってしまう。肩を壊して野球を断たれてしまった自分と、野球ができなくなった亀井を比べて、胸が痛くなった。
もうすぐ卒業旅行だ。恭二は胸のわだかまりに、そっと砂をかける。くすぶった火種は、なかなか消えそうもない。

078cut:ベストプラクティスの有効活用

2019-05-09 | 完全版シナリオ「ビリーの挑戦」
078cut:ベストプラクティスの有効活用
――Scene11:釧路営業所の会議室
影野小枝 すべての支店、営業所の掲示板には、A4サイズの「SSTレポート」が貼られています。その隣には投票箱と投票用紙があります。何だかひどくアナログなのですが、MRはしっかりと読んでいるようです。仕組みについて、発案者の磯貝SST事務局長にうかがってみましょう。
磯貝 当社にはこれまでも、同じようなベストプラクティス(成功例集)というデータベースがありました。MRはいつでも自由に見ることができたのですが、私のMR時代もそうでしたけれど、誰も活用していませんでした。
影野小枝 何故なのですか?
磯貝 量がはんぱではないし、いちいちパソコンを立ち上げてからでなければ、アクセスができません。そんなところへは、誰も訪れようとはしません。
影野小枝「SSTレポート」はA4サイズ1枚だけですね。これならコーヒーを片手に、いつでも見られますね。
磯貝 同じものがデータベースにもあります。掲示板でいいなと思った成功例に、MRは「試してみる」との意志を投票することになっています。これが賛同点として、データベースに棒グラフで表れます。やってみて成功したとの報告があったら、さらに成功点としてグラフが伸びます。
影野小枝 紙とデータベースを連動させているのですね。
磯貝「SSTレポート」は、A4が満杯になった時点で発信します。まあ2週間に1回くらいの割合です。棒グラフが一番だったMRには、社長賞が贈られます。個人知を組織知に。これがSSTの命題ですから、ベストプラクティスの抽出には気合いが入ります。

身に覚えのない注文

2019-05-09 | 妙に知(明日)の日記
身に覚えのない注文
■アップルストアから「ご注文内容をご確認ください。」というメールが届きました。10万円の時計を購入し、2日後に配達可能とありました。配達先の住所は東京都東村山となっていました。ところが支払いは、私のカードからになっているのです。まったく身に覚えがないので、9時になるのを待ってアップルに電話をしました。調べるといっていましたが、3時間たっても連絡がありません。心配になり、カード会社に無効の手続きをとりました。その後、警察に電話をしました。愉快犯の可能性が高い。最近この手の相談が多いといっていました。おそらく被害は発生しないと思います。昨日は午前3時からお昼まで、このメールに振り回されました。■忘れた記憶を取り戻す。未読の本のナビゲーター。そんな意味で活用している一冊があります。毎日新聞社編『感動!日本の名著・近現代編』です。あらすじ本はあまり薦められませんが、本書はツボをおさえた解説がさえています。
山本藤光2019.05.09