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著書「仕事と日常を磨く人間力マネジメント」の読書ナビ

015:お祝いのホットケーキ

2019-05-08 | 小説「町おこしの賦」
015:お祝いのホットケーキ
 ちょっと身構えて、恭二は喫茶「むらさき」のドアを開けた。前島たちの姿はない。安堵の息が白く染まった。店内は暖かかった。すでに三人はテーブルについていた。
「ごめん、一番乗りのつもりだったのに」
 弁解した恭二に、詩織は隣の椅子を指差した。
「モーニングセット四つお願いします」
 勇太が大きな声で注文した。厨房から「はい」という声が響いた。コップが触れ合う音がして、秋山可穂が姿を見せた。喫茶むらさきの一人娘で、四人とは同級生である。
「みんな合格おめでとう。今朝の道新に名前が載っていたね」
「可穂も合格おめでとう」
 詩織は笑いながら、受け取ったコップを掲げてみせる。
「無試験だったから、うれしさも半分だな」
 勇太がいった。
「母さんがね、今日は合格のお祝いだからサービスするって。お金はいらない」

 そのときドアが開いて、大柄な中年の男が入ってきた。
「昭子さん、おはよう。いつものやつ、お願い」
姿の見えない主に向かって声をかけると、男はおもむろに持参してきた新聞を開いた。
「おじさん、地方欄に私たちの名前が出ているの」
 可穂は、おじさんと呼んだ宮瀬哲伸の席に水を置いて、照れくさそうに告げた。
「そうか、可穂ちゃんの高校合格発表の日だったのか……えーと、秋山可穂。あった。可穂ちゃん、合格おめでとう」
 宮瀬は鼻眼鏡を指先で上げて、厨房に向かって大声を発した。

「誰? あの人?」
 理佐は小声で、詩織にたずねる。
「宮瀬建設の社長で、観光協会の会長さんよ」
 詩織はさらに声を低くして、理佐に説明した。
「例の評判の悪い建物の責任者でもある」
 恭二も声を抑えて、続けた。
「あの博物館の、館長でもあるの」
 詩織は内緒話をするように、声をくぐもらせた。厨房から昭子が、ホットケーキを運んできた。
「今日は特別サービス。だからトーストではないの。みんな合格おめでとう」
「ありがとうございます」

「おー、ホットケーキか、楽しみだな」
 奥の席から声が上がった。
「あなたはおめでたくないんだから、いつものトーストだよ」
 昭子は笑いながら、奥の席に声を放った。

喫茶「むらさき」で、話がまとまった。四人で卒業旅行に、行こうというのである。北海道の二月は、真冬のど真ん中である。春の気配は、みじんも感じられない。
「暖かいところに行きたいね」
 詩織のひょんな一言が、みんなの気持ちに火をつけた格好である。
「暖かいところっていうと、沖縄とかグアムになるよ。そんなのムリ」 
理佐は自らの提案を否定し、「札幌におじいちゃんとおばあちゃんがいるんだけど、札幌なんてどうかしら。地下街なら暖かいし、泊まり賃がいらない。卒業旅行と説明したら、うちの親は許してくれると思う」といった。
「卒業旅行か。何とか実現したいな」
 恭二の言葉を受けて、勇太はつないだ。
「うちは固いから、恭二と二人で卒業旅行に行くということにする。それならオーケーだと思う」
「おれのところは大丈夫だ。四人で行くって、ちゃんとお願いするよ」
 恭二の話を聞いて、詩織は考えこんでいる。大きな瞳が、宙を見上げている。上向きの長いまつげが揺れた。
「私は理佐と旅行に行く、っていう。恭二の名前を出すと、反対されそうな気がするの」
「おい、おい。おれはそんなに危険人物かよ」
「そうじゃないけど、思春期の男女って、親の心配の種なんだから」
 理佐は深い二重の瞳を詩織に向けて、「私はどうせばれちゃうんだから、正攻法でお願いするわ」といった。いいな、このグループは。恭二はそう思ってから、このカップルは、と頭のなかで訂正を加える。

077cut:SSTレポート

2019-05-08 | 完全版シナリオ「ビリーの挑戦」
077cut:SSTレポート
――Scene11:釧路営業所の会議室
影野小枝 釧路営業所の掲示板には、全国のMRの成功例が張ってあります。ちょっと読んでみましょうか。

#124:この問いかけは医師の逆鱗に触れるか
Aさんは1年間、毎月1回の訪問を欠かしていません。狙いは重点品Bを、競合品Cから切り替えてもらうことです。私(SST)は前回訪問時に、Aさんにこんな問いかけをしています。
SST:ドクターがなぜ競合品Cを使っているのか、その理由を聞いたことがあるかい?
A:聞いてみたことがありません。
SST:次回、直接ドクターに質問してみたらどうだろう?
A:先生、怒りませんか?
SST:私はこれまで何10回も質問しているけれど、1度も叱られたことはないよ。
Aさんは本日、ドクターにその質問を試みました。ドクターは笑いながら、「何となくだよ」と答えました。Aさんはすかさず「先生、うちのBも、何となくの仲間に入れてください」と一押ししました。ドクターから「使ってあげる」との返事がありました。
影野小枝 2人のMRが「SSTレポート」を読んで、何やらメモ用紙に書いて、隣にある投票箱に入れました。「何をなさったのですか?」
鶴見 #124をやってみようと思ったので、「賛同」の意志表示をしました。
早田 この投票箱に賛同した番号を入れると、データベースの方で集計されます。「SSTレポート」の#124が、どのくらいの支持があったのか、わかるようになっています。
鶴見 成功したり失敗したりした全国のレポートが、データベースに反映されるので、すごく刺激になります。
早田 私はSSTの山口さんから現場指導を受けていますが、山口さんは「きみにMVPを取ってもらいたい」といってくれています。このレポートに掲載され、賛同ポイントと成功ポイントがいちばん多かったら、社長賞がもらえます。
鶴見 ときどき「ヒヤリ・ドキット」と「ニヤリ・ホット」も特集されます。ヒヤッとしたこと、ドキットしたこと、ニヤリとしたこと、ホッとしたことが掲載されます。笑いながら読んでいますが、参考になることばかりです。
影野小枝 ああ、それは磯貝さんがMR時代に、「PDCAノート」に書いていらっしゃったことですね。

銀行前やATMでの大渋滞

2019-05-08 | 妙に知(明日)の日記
銀行前やATMでの大渋滞
■たった一着しかない晴れ着を「一張羅」といいます。この語源はロウソクからきていました。替えのないたった一本のロウソクを「一丁蝋燭(ロウソク)」といい、それを略した「一丁蝋」の転じたものか。(日本語語源辞典)ちなみに「一丁蝋燭」は、「一挺蝋燭(いっちょうろうそく)」と表記されている辞書もあります。■大型連休明けの近所のショッピングセンターのATMまえに驚くほどの行列がありました。休日は休みの銀行が多く、休日のATMは手数料が必要なところがあります。そんなことで行列ができたのですね。道路の渋滞が終わったら、銀行とATMは手数料で大渋滞が起こったということになります。
山本藤光2019.05.08