山本藤光の文庫で読む500+α

著書「仕事と日常を磨く人間力マネジメント」の読書ナビ

072cut:家族同伴の表彰式

2019-05-03 | 完全版シナリオ「ビリーの挑戦」
072cut:家族同伴の表彰式
――Scene10:全国営業会議
影野小枝 東京都内のホテルです。入口には「R製薬リボン・アワード」と書かれた看板があります。
映画監督 やっとおれたちの出番がきたな。第1部では出ずっぱりだったのに。あのとき以来だから10年ぶりということになる。
助手 それにしても旦那の表彰式に奥さんや子どもまで招待してしまうんだから、R製薬はユニークな会社ですね。
監督 新谷営業部長からは、家族にフォーカスをあてて映像を作るようにいわれている。カメラマンを2人にしたけど、きみも3台目を持った方がいいな。
助手 さっきベビーシッタのところを見てきました。賑やかなものです。カメラ1台入れて置きました。
監督 さてそろそろはじまるぞ。カメラ1台は家族席へ。もう1台は壇上に。(助手に向かって)おまえはベビーシッタのところとか、臨機応変に動き回れ。
助手 ところでこのビデオ、どうするつもりなのでしょう?
監督 家族へのプレゼントと、参加していない営業マンに見せるためらしい。
助手 了解です。第2部も映画にさせてもらえますかね?
監督 おまえのがんばり次第だな。
影野小枝 MR部門第10位からの、読み上げがはじまりました。壇上には社長と新谷営業部長が、待機しています。「第10位」の声の後に、ファンファーレが鳴りました。

010:にわか受験塾

2019-05-03 | 小説「町おこしの賦」
010:にわか受験塾 
釧路から戻って瀬口恭二、藤野詩織、猪熊勇太、南川理佐の四人は、詩織の家で受験勉強を開始した。受験勉強とは無縁の世界にいた恭二と勇太には、野球の練習よりもつらい時間となった。
藤野温泉ホテルの玄関脇の会議室が、にわかの受験塾である。温泉特有の硫黄の匂いが、室内にも流れこんでくる。
「普通科は、無試験かもしれないって。農業科は試験があるようだけど、普通科は募集人数に満たないようよ」
「ということは、受験勉強はいらないということだ。理佐ちゃん、トランプしよう」
 持っていた鉛筆を放り出し、勇太は笑っている。玄関ホールが騒がしくなった。団体を乗せた、マイクロバスが到着したようだ。
 受験勉強は、あっという間に打ち切られた。トランプが用意され、恭二・詩織対勇太・理佐組の神経衰弱大会になった。恭二組は、あっけなく負けてしまった。

 コーヒーを運んできた詩織の母・菜々子は、トランプを見てあきれたような表情を浮かべた。
「もう休憩しているの。お勉強がすんだら、温泉に入ってから帰りなさいね。タオルはフロントに置いておくから」
「いいな、温泉か。詩織は毎日温泉に入っているから、肌がきれいだよね」
 理佐はうらやましそうに、詩織の顔に視線を向ける。そして続ける。
「詩織のお母さんも、肌がつやつや。そして目が大きくて、詩織とそっくりだね。美人だしとっても若いわ」
 詩織は母がほめられたのを、自分のことのようにうれしく思う。父・敏光と母・菜々子は標茶高校バレーボール部の先輩後輩で、大恋愛のすえ結ばれた。

 恭二と勇太が男湯に入ると、湯船には三人の先客がいた。
「何だい、あれは。お笑いだよ。ガラクタばかり並べて、五百円だぜ。こいつは詐欺だな」
頭にタオルを乗せた男の大声は、浴室に響き渡っている。恭二はすぐに、さっき到着したお客さんだと思った。そして話題は、例の建物に違いないと思う。恭二と勇太は、並んで浴槽に入る。真っ黒な、ぬるぬるした温泉だった。
「ここの水質は、モール温泉っていうんだ。植物性の温泉は、珍しいらしい」
 恭二が勇太に解説していると、頭タオルの男が口をはさんできた。
「きみたち、地元の人? この温泉は入っているときはぬるぬるしているけど、出るとさっぱりしている。いい湯だよ」
 恭二は温泉をほめられ、少し照れながら満足げにほほ笑む。

「細岡展望台からの、釧路湿原は絶景だった。道中、丹頂鶴もキタキツネもエゾシカも見た。それが最後にあの博物館だ。すっかり興ざめしてしまったよ」
 タオル男は、またぐちりはじめた。よほど腹が立ったらしい。体を洗っていたもう一人も、負けないほどの大声でいう。
「三大がっかりスポットは、笑えたよな。あんなばかばかしいものを、いっぺんに拝むことができたんだから」
 今度はもう一つの、観光目玉のことのようだ。恭二は湯のなかに身を沈めたいほど、恥ずかしくなった。

ブログを刷新

2019-05-03 | 妙に知(明日)の日記
ブログを刷新
■令和になったので、ブログを刷新することにしました。「知育タンスの引き出し」と「のほほんのほん」を「妙に知(明日)の日記」にまとめることにしたのです。このほうが多元的な原稿が書けると気づいたからです。■評判がよいので、朱野帰子『わたし定時で帰ります』(新潮文庫電子版)を読み始めました。この人の作品を読むのは、初めてです。企業人時代の晩年の私は、まさに定時帰宅を実践していました。企業人とセミナー講師、文筆家、書評家といくつものワラジをはいていたので、やむをえない選択でした。社長は会社の宣伝になるからと、それを容認してくれていました。したがって本書は、その記憶と重ねて読むことができるわけです。読み始めて、主人公が若い女性であることを知り、実体験との比較は困難だと思いました。■昨日は朝から机廻りの模様替え。「山本藤光の文庫で読む500+α」を600まで伸ばす目標に向けて、書評を書くときの関連資料を近場に並べました。「読書ノート」には、50作品ほどが待機しています。一週間に1作品を発信したいと思っています。
山本藤光2019.05.03