山本藤光の文庫で読む500+α

著書「仕事と日常を磨く人間力マネジメント」の読書ナビ

025:黄色いマフラー

2019-05-18 | 小説「町おこしの賦」
025:黄色いマフラー
午前十時、理佐の祖父母に見送られて、四人はバスに乗る。席が別れたせいで恭二は、勇太に成果を問いかけることができない。バスを待つ間、何度も目で合図をしてみた。伏し目がちの勇太は、何も語ってはくれなかった。
札幌駅に着いてから、帰りの電車の時間までは、二時間ほどの余裕があった。二組は、別行動をとることにした。そのときにも恭二は、勇太に目の信号を送っている。二人は優秀な、バッテリーだったのだ。目だけで十分な、意思疎通ができるはずだった。しかし勇太は、何も返してこなかった。

二人と別れて、恭二と詩織はマフラー売り場へ直行する。売り場はごった返している。詩織は恭二の手を引き、ぐいぐいと進む。つないでいた手が、混雑のなかで離れた。
「恭二、きて!」
詩織の呼ぶ声が聞こえる。詩織の声を追いかける。お目あての、黄色いマフラーがあった。詩織はサイズの違う、二つを選ぶ。
「恭二、これすてき。これにしようよ」
 詩織は愛おしそうに、大きな瞳を恭二に向ける。
そして二つを持ってレジに進み、店員に値札を外
してくれるようにお願いする。店を出た二人は、
さっそくマフラーを首に巻く。
「暖かいね、恭二、似合っているよ」
 詩織は弾んだ声でいい、わざとマフラーを鼻ま
でずり上げてみせる。そして、いたずらっぽく笑った。
「恭二のマフラーの方が高かったんだけど、割り
勘でいいよね」
 恭二は苦笑し、自分の財布から詩織にお金を渡
す。
「ありがとう。このマフラーは、恭二と私の卒業記念。それから……」
「それから、何だい?」
「初キスの記念かな。でも春はそこまできている。だから今日が最初で最後の、マフラー日和になるかもしれないね」

087cut:札幌支店の河野支店長

2019-05-18 | 完全版シナリオ「ビリーの挑戦」
087cut:札幌支店の河野支店長
――Scene13:SSTからアカデミーへ
影野小枝 新谷営業部長から、河野支店長宛てに辞令が届きました。「6月1日付人事公布。札幌支店富樫営業リーダーを7月15日から9月30日まで、SSTアカデミーに出向を命ずる」とありました。さっそく河野さんは、富樫さんを呼びました。
河野 きみに赤紙がきたよ。来月からSSTアカデミーに、出向してもらうことになった。
富樫 SSTアカデミーって、SSTみたいに同行させられるやつですか?
河野 そうだ。2か月間きみは朝から晩まで、どこかのMRと同行することになる。目的はMRのレベルアップ。そのためにきみの力が必要ということだ。
富樫 冗談じゃないですよ、私が2か月もいなくなったら、チームはガタガタになってしまいます。
河野 きみの代役は私がする。だからきみは、安心してSSTアカデミーに専念できる。きみは雑用が多くて満足な同行ができない、といつもぼやいていたじゃないか。2か月間は一切の雑用はない。だからしっかりと、同行に専念できるんだよ。
富樫 たまりませんね。私はもうすぐ50歳ですよ。2か月のフル同行は、厳し過ぎますよ。
河野 断ってもいんんだよ。
富樫 断ったら、どうなりますか?
河野 きみの信用がなくなる、っていうところかな。
富樫 名刺はどうなるんですか?
河野 営業本部付SSTアカデミーとなるようだ。
富樫 タイトルなしですか?
河野 タイトルなしで、その間は営業リーダー手当もカットされる。
富樫 まるで左遷みたいじゃないですか。
河野 きみの実力が試される、研修なんだよ。研修に営業リーダー手当は出せない、というのが本社の見解なんだ。
影野小枝 あらあら、富樫さん膨れてしまいました。すべての雑用を排除して、同行だけに専念させる。漆原爆弾の炸裂ですね。

池上彰『高校生からわかる「資本論」』文庫に

2019-05-18 | 妙に知(明日)の日記
池上彰『高校生からわかる「資本論」』文庫に
■トランプ大統領が、令和最初の国賓として来日します。ニュースでは相撲を枡席で観戦するので、その警備の方法が話題になっていました。貴賓席での観戦なら日本人に迷惑をかけないのですが、どんな警備になるものやら。■池上彰『高校生からわかる「資本論」』(集英社文庫)が文庫になったので購入しました。本家『資本論』は難解で、投げ出していました。どのくらいわかりやすく解説してくれているのか、楽しみです。
山本藤光2019.05.18