025:黄色いマフラー
午前十時、理佐の祖父母に見送られて、四人はバスに乗る。席が別れたせいで恭二は、勇太に成果を問いかけることができない。バスを待つ間、何度も目で合図をしてみた。伏し目がちの勇太は、何も語ってはくれなかった。
札幌駅に着いてから、帰りの電車の時間までは、二時間ほどの余裕があった。二組は、別行動をとることにした。そのときにも恭二は、勇太に目の信号を送っている。二人は優秀な、バッテリーだったのだ。目だけで十分な、意思疎通ができるはずだった。しかし勇太は、何も返してこなかった。
二人と別れて、恭二と詩織はマフラー売り場へ直行する。売り場はごった返している。詩織は恭二の手を引き、ぐいぐいと進む。つないでいた手が、混雑のなかで離れた。
「恭二、きて!」
詩織の呼ぶ声が聞こえる。詩織の声を追いかける。お目あての、黄色いマフラーがあった。詩織はサイズの違う、二つを選ぶ。
「恭二、これすてき。これにしようよ」
詩織は愛おしそうに、大きな瞳を恭二に向ける。
そして二つを持ってレジに進み、店員に値札を外
してくれるようにお願いする。店を出た二人は、
さっそくマフラーを首に巻く。
「暖かいね、恭二、似合っているよ」
詩織は弾んだ声でいい、わざとマフラーを鼻ま
でずり上げてみせる。そして、いたずらっぽく笑った。
「恭二のマフラーの方が高かったんだけど、割り
勘でいいよね」
恭二は苦笑し、自分の財布から詩織にお金を渡
す。
「ありがとう。このマフラーは、恭二と私の卒業記念。それから……」
「それから、何だい?」
「初キスの記念かな。でも春はそこまできている。だから今日が最初で最後の、マフラー日和になるかもしれないね」
午前十時、理佐の祖父母に見送られて、四人はバスに乗る。席が別れたせいで恭二は、勇太に成果を問いかけることができない。バスを待つ間、何度も目で合図をしてみた。伏し目がちの勇太は、何も語ってはくれなかった。
札幌駅に着いてから、帰りの電車の時間までは、二時間ほどの余裕があった。二組は、別行動をとることにした。そのときにも恭二は、勇太に目の信号を送っている。二人は優秀な、バッテリーだったのだ。目だけで十分な、意思疎通ができるはずだった。しかし勇太は、何も返してこなかった。
二人と別れて、恭二と詩織はマフラー売り場へ直行する。売り場はごった返している。詩織は恭二の手を引き、ぐいぐいと進む。つないでいた手が、混雑のなかで離れた。
「恭二、きて!」
詩織の呼ぶ声が聞こえる。詩織の声を追いかける。お目あての、黄色いマフラーがあった。詩織はサイズの違う、二つを選ぶ。
「恭二、これすてき。これにしようよ」
詩織は愛おしそうに、大きな瞳を恭二に向ける。
そして二つを持ってレジに進み、店員に値札を外
してくれるようにお願いする。店を出た二人は、
さっそくマフラーを首に巻く。
「暖かいね、恭二、似合っているよ」
詩織は弾んだ声でいい、わざとマフラーを鼻ま
でずり上げてみせる。そして、いたずらっぽく笑った。
「恭二のマフラーの方が高かったんだけど、割り
勘でいいよね」
恭二は苦笑し、自分の財布から詩織にお金を渡
す。
「ありがとう。このマフラーは、恭二と私の卒業記念。それから……」
「それから、何だい?」
「初キスの記念かな。でも春はそこまできている。だから今日が最初で最後の、マフラー日和になるかもしれないね」