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著書「仕事と日常を磨く人間力マネジメント」の読書ナビ

031:液状化現象を起こしている

2019-05-24 | 小説「町おこしの賦」
031:液状化現象を起こしている
高校へ入学して最初の日曜日、恭二はプロ野球のデイゲームを観ていた。ファイターズの猛打が爆発し、一方的な展開になっている。店舗から父の大きな声が聞こえた。
「母さん、戸田さんがお立ちになるって」
 鼻眼鏡で新聞を読んでいた母は、立ち上がりざま「戸田さんが引っ越すんだよ」と恭二に告げた。恭二も母のあとを追った。店舗には、戸田さん夫妻がいた。戸田さんは瀬口薬局の隣で、靴店を営んでいた。不景気で閉店するという話は聞いていた。
「寂しくなるわね。お店の借り手は見つかったの?」
 母が尋ねた。
「貼り紙をしてあるので、瀬口さんのところへ問い合わせがくるかもしれません。その際はよろしくお願いします」
 戸田さんはそういって頭を下げた。

 戸田さん夫妻を見送って、居間に戻った母は大きなため息をついた。
「明日は我が身だね。また、シャッターがひとつ降りてしまった」
「戸田さん、どこへ引っ越すの?」
 恭二が聞いた。
「釧路の息子さんのところだって。商いって自己責任でするものだけど、こうも町が寂れると、町の責任にもしたくなるわ」
「地方活性化予算を、あんなばかげたものに投入しちゃうんだから、情けないよ」
 お茶を飲んで、父はそういい捨てて店舗へ消えた。居間には父の残した声が、どんよりとただよっていた。恭二はテレビを消して、父の言葉を胸のなかではんすうしている。この町は液状化現象を起こしている。傾いてゆく、瀬口薬局の映像が浮かんだ。

093cut:鈴木のSSTアカデミー

2019-05-24 | 完全版シナリオ「ビリーの挑戦」
093cut:鈴木のSSTアカデミー
――Scene14:SSTアカデミー
影野小枝 鈴木さんと東出MRの初顔合わせです。高知営業所の片隅で面談をはじめました。
鈴木 1週間きみと同行したら、翌週は長谷部MRと同行する。おれが与えた課題に、きみはその間単独で挑戦しなければならない。合格したら、もう1段高いレベルに引き上げる。そうして20回やったら、おさらばということになる。
東出 よろしくお願いします。これ私の顧客別実績表と月間行動計画書です。大学病院と大病院の担当ですが、あまり成績はかんばしくありません。
鈴木 任せておきなって。おれがバンバン売ってやるから。
影野小枝 あらあら、鈴木さんはとんでもない発言をしています。営業的な同行はタブーなはずですよね。アカデミーの趣旨を理解しているのかしら。

消えゆく「ヴ」

2019-05-24 | 妙に知(明日)の日記
消えゆく「ヴ」
■「ヴ」の文字表記が減っている、とのニュースに触れました。「ヴェトナム」の国名が最近では「ベトナム」と表記されるようになっています。国名についてはあまり違和感はありません。しかし外国人作家となると、「ヴ」でなければしっくりきません。たとえば「ヴォネガット」や「ヴェルヌ」のケースで、「ボネガット」や「ベルヌ」ではずいぶん情けない感じになります。■瀬尾まいこ『ありがとう、さようなら』(角川文庫)は、著者が中学教師時代をつづったエッセイ集です。作品にあらわれる世界の、原点を知るうえで貴重な一冊です。
山本藤光2019.05.24