339:ショッピングセンター
――『町おこしの賦』第11部・駅前商店街の変身
可武威たちは新婚旅行で、ヨーロッパへと旅たった。明里も家族とともに、東京へ帰った。恭二と詩織の、二人だけの生活が戻ってきた。詩織は藤野温泉ホテルの経営を、可武威に譲ってから暇になっている。
テレビの週間天気予報を見ながら、詩織は梅を干す時期を探っている。梅干しにするためには、最低でも二日間天日干ししなければならない。すでに梅とシソは買い求めてある。
「恭二、明日と明後日、晴れだよ」
詩織はテレビから顔を離し、恭二に告げた。
「つかの間の晴れだから、詩織は梅干し。おれは書斎の大掃除と洗車だな」
突然の来訪者があった。佐々木隆介は鮮魚店を営む、駅前商店街の会長である。手土産に、大きなキンキを二匹持ってきた。詩織は佐々木を、応接間に通した。部屋へ入るなり、恭二は丁重にキンキのお礼を述べた。佐々木は八十歳になろうとしていたが、まだかくしゃくとしている。
「久しぶりにいいのが入ったから、息子に頼んでもらってきた」
佐々木はそういい、快活に笑った。
「ありがとうございます。大好物ですので」
「店に並べておいても、誰も買わない。高過ぎるんだよな」
「お店の方の景気は、どうですか?」
「あかん。うちみたいな小さな店は、問屋のいいなりの品ぞろえしかできない」
「河岸には行かないんですか?」
「ガソリン代を使って往復すると、その分アカになってしまう」
詩織がコーヒーを運んできた。そして恭二の隣りに座る。佐々木は詩織に向かって、しゃべりはじめる。
「亡くなったあんたのご両親は、一番のお客さんだった。ホテルが大きくなっても、魚はうちで仕入れてくださった」
「佐々木さん、駅前商店街の生鮮食料品店で、精肉や鮮魚や青果の共同店は考えられませんか?」
恭二はかねてから頭にあった、ショッピングセンターを提案してみた。標茶町駅前商店街は、縦長で移動がしんどい。それを一箇所にまとめたいと、ずっと考えていたのである。
「共同出資でやろうかという案は、ずっと以前からある。でも最近は、誰もいい出さなくなった」
「お年寄りが肉屋へ行って、佐々木さんの鮮魚店へ行って、吉田さんの青果店を回るのは大変な労力になります。一箇所で済ませたいという声は、たくさんあります。私はショッピングセンターの二階に、映画館を置きたいと思っています。昔はこの町に、映画館もありました。今では映画を観るために、わざわざ釧路へ行かなければなりません」
「映画館ですか? それならショッピングセンターも、賑わうかもしれん」
「商店街で、話し合ってみてください。みんなが前向きだったら、町としても話し合いに応じさせていただきます」