80ばあちゃんの戯言

聞いてほしくて

絵本袋

2009-04-15 17:36:15 | 教育
約40年も前のことである。
私は幼稚園の先生として、4歳児を受け持っていた。
6月の長雨の続いた後の、気持ちよく晴れあがった朝のことであった。
園児たちは、エプロンをつける時間も惜しいような感じでお庭に飛び出していって、お砂遊びに夢中になっていた。
 ところが、一人だけ椅子に坐って外に出ようとしないお子さんがいたのである。私は不思議に思って近づいて行き声を掛けた。
”ねえ、お外へ出て、みんなと一緒にお砂遊びをしましょうよ。”
”僕、行かなーい。” 良く見ると、彼はひざの上に絵本袋を載せて、いかにも大事そうにそれを撫でていたのである。
"夕べ、お母さんが寝ないで、僕のためにこれを作ってくれたんだって”
”あら、よかったわね。可愛い刺繍がついているじゃない。お母さんにありがとうって言えたの?”といいながら、私は胸がいっぱいになって両手で彼を抱きしめたのである。
 幼稚園の方から、絵本袋を手作りしていただくようにお母さん方にお願いをしていたのであるが、彼のお母さんはご商売をして居られたので、中々暇ができなかったのだろう。他のお子さんたちが、絵本袋を持ってきて、可愛い刺繍やアップリケを自慢げにみせあったりしていたので、私はとても気になっていた。

 "お母さんありがとう。彼はとっても喜んでいますよ。ご苦労様”と、私は心のなかで叫んだのである。
 もしかしたら、親子の情ってこんなことから育つのではなかろうか?