【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「僕たち急行 A列車で行こう」

2012-05-03 | ★橋63系統(小滝橋車庫前~新橋駅)


森田芳光って、いろいろなタイプの映画を撮っているけど、こういう軽いタッチの映画が本来の彼の持ち味なんじゃないのか。
ひょうひょうとしていて、どこか脱力系の憎めないコメディ。
デビュー作の「の・ようなもの」がすでにそうだったし、最近でいえば「間宮兄弟」がそうだった。
この映画、松山ケンイチと瑛太が女心に疎い鉄道オタク青年を演じる。
オタクって言っても、二人とも爽やかなイケメンだからオタク特有の近寄りがたいオーラはまったく出ない。
男同士で鉄道の話ばかり嬉々として語る図って、客観的に見れば気持ち悪いはずなんだけど、決して嫌味にならない。
森田芳光の映画っていつもどこか乾いているんだけど、今回もその例に漏れない。
谷村志穂の小説が原作の「海猫」みたいな愛憎ドロドロ、湿度100%の映画を撮ると苦しい出来になっちゃうんだけどね。
そういう映画は資質に合わないんだよな。森田芳光はやっぱり深みにはまらない映画がいい。
偶然にも鉄道オタクがご縁で窮地に陥っていた仕事がうまくいくなんていう展開は、ご都合主義にすぎないんだけど、映画自体に何のよこしまなところがないから、まあ世の中っていうのはそうやって回っていくところもあるよね、と快く許しちゃえる。
オタクの描き方がディープすぎず、かといって突き放しもせず、いい距離感。
オタクといえどちゃんと社会の中の一員であることを自覚している青年たち。
そう。二人とも相当な鉄道オタクではあるけれど、自分の仕事にも案外真剣に取り組んでいるからな。
健全すぎない?って思うところもあるけど、やっぱり森田芳光の映画が持つ独特の感覚には抗いきれない。
彼らしいセンスにあふれた遺作になった。
涙より爽やかな笑顔で送ることができる。



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