
モンテ・ヘルマン版「アメリカの夜」。

映画撮影のプロセスを描いているという意味ではそうかもしれないけど、トリュフォーとモンテ・ヘルマンでは、監督の資質がまったく違うわよ。

だけどこの「果てなき路」のみずみずしさはどうよ。

開巻、女優がベッドの上に座りうつむいているだけのショットが示されるんだけど、それだけなのに、それだけでもう、これを撮影している映画の中の監督が女優に惚れていることがありありと感じられてしまう。

何の変哲もない構図なのに、これだけ心惹かれるのは、どういうわけだろうな。信じられないくらい、魅惑的なショット。

映画の中の監督は、みんなには「監督が女優を好きになるなんて、あり得ない」とかうそぶきながら明らかに女優を愛してしまう。

そんな中で進むサスペンス映画の撮影。

その映画の元となる物語もはさまってきて、話は混乱し始める。

映画製作に混乱はつきものだよ、っていうことかな。

緊張高まるクライマックスでいきなり撮影隊の様子をはさんだりして、やりたい放題。

モンテ・ヘルマン監督、21年ぶりの長編作品だっていう触れ込みだけど、そんなご無沙汰信じられないくらい、手だれの演出。

ロッジのベランダで台本の読み合わせをする主演男女優。

ちょっとずつ調子を変えて読んでみる。それだけの場面になんと引き込まれることか。

この魅力的なヒロインを演じるのは、シャニン・ソサモン。彼女の美しさというより彼女を撮る監督の手腕を讃えるべきでしょうね。

ラストなんて、そこまで純情しなくてもいいじゃないか、と思うほどの幕切れ。

謎がいっぱい残ったままで物語としては消化不良なんだけど、そんなことどうでもよくなるような麻薬的な肌触りの映画だったわ。