なに、ポカンとしてるの?
いや、この駅ビルでみんなと待ち合わせの約束をしてるんだけど、その約束、誰も守ってくれないんだよなあ。
駅ビルのどこで?
いや、駅ビルで・・・。
ずいぶん大雑把な場所指定ね。それじゃあ、誰もわからないんじゃないの?誰も守ってくれないはずよ。
映画の「誰も守ってくれない」みたいだな。
うーん、意味がまったく違うと思うけど。
そう?
映画の「誰も守ってくれない」は、殺人容疑者の妹をマスコミやヤジ馬から守るハメになった刑事の話でしょ。
フジテレビ制作。脚本・監督が「踊る大捜査線」の君塚良一だから、観客の目をそらさせない術は心得ている。
いままでのフジテレビ印の映画のようにテレビドラマを無理やり水増ししたような散漫な映画にならないかなあとちょっと心配していたんだけど。
無意味なお遊びがすぎるとかね。
ところがどっこい、立派に1本の映画になっていた。正直、感心したわ。
刑事の佐藤浩市が抱えている心の傷とか、相棒の松田龍平のちょっと離れた立ち位置から眺めている視線とか、容疑者の妹の志田未来とボーイフレンドの関係とか、みんなうまいことからまって、モントリオール映画祭で脚本賞を受けたのも納得の出来映えだ。
演出もヘンに遊び心を出すことなく、直球で押している。
ラストなんて、もっとジメジメしそうなところをサッと切り上げて、最近の日本映画にないキレの良さだ。
二人と一緒に移動する、物言わぬギフトボックスがまた、絶妙な効果。絵的にも赤いリボンが効いている。
男からすれば、佐藤浩市扮する刑事は、大事な休暇の前にいままで経験したこともないような仕事のために呼び出されて親子ほども年の違う女の子のお守をまかされて、インターネットでは自分の家族までが誹謗中傷に会い、踏んだり蹴ったりの、100年に一度の大恐慌が1000年分一気に降ってきたような気の毒な話で、何の職業でも男が仕事を続けるってたいへんなんだよなあ、と身につまされちゃう映画だった。
えっ、そういう観方してたの?
ああ、ちょっと「クライマーズ・ハイ」の堤真一を思い出した。
でも、この映画って、犯罪容疑者の家族は果たしてどこまで守られるべきかっていう、社会問題提起の映画なんじゃないの?
もちろん、それもあるけど、そこに登場人物の背景や人間的な感情をきちんと入れ込んでいるから、わかりやすくて納得もできる映画になったんだ。
そうね、ここには被害者側も加害者側もなく、いろんな感情が渦巻いているもんね。フジテレビの映画でここまできっちり血の通った人間が登場したところを私は観たことがない。
そんな中、感情が見えないのが、インターネットおたくの連中。
刑事や容疑者の妹のプライバシーを、容赦なくどんどんインターネットで暴いてしまうオソロシイ連中ね。
こういう、感情を表さないのっぺらぼうな連中を登場させるのが君塚良一の特徴で、いまの世の中、こんな連中が密かにのさばっているのはたしかなんだけど、一方でこういう連中だって人間なんだから感情はあるだろう、あそこまで画一的な描き方しなくても、もうちょっと彼らの人間的な面を描いてもいいだろうという気はしたね。みんながみんな、リュック背負って携帯かざしてるだけなんて・・・。
それを掘り下げると、また別の映画になっちゃうんじゃないの?
ああ。次の映画ではそれをテーマにしてもらってもいいくらいだ。
ははあ、あなたがここで待ち合わせをしているのはひょっとしてそういう種類の人たちと?
ど、ど、どうしてわかるんだ?
だってあなた、リュック背負って携帯かざしてる。
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