
バスだぜ、バス。

なに、感激してるの?いつも乗ってる都バスじゃない。

いや、このバスのことじゃなくて、黄色いフォルクスワーゲンのミニバス。

ああ、「リトル・ミス・サンシャイン」に出てきたバスのことね。

そうそう。9歳の娘が子どものミス・コンに出場するんで、家族みんなでミニバスに乗って海の近くのコンテスト会場まで行くんだけど、そのミニバスがおんぼろで、もう最高。

家族っていったってみんなバラバラなのよね。いい年をしてエッチなおじいちゃんとか、「世の中には勝者と敗者しかいない」とか言いながら自分は敗者になりかけているパパとか、自殺未遂したおじちゃんとか、口を利かないおにいちゃんとか。

そのバラバラな家族がおんぼろバスを一緒に押すことでひとつにまとまらざるを得なくなっていく、これ以上はない映画的シチュエーション。

ああ、あのバスはアクセルがいかれてて、みんなで押さないとエンジンがかからないのよね。走り出すときには必ず家族全員で押して一人ずつ飛び乗るっていうのは、たしかに見てておもしろいわよね。だけど、それって、そんなに映画的?

おんぼろバスをバラバラな家族がみんなで押していくうちにお互いのことを思いやり、理解していくって構図は、せりふのやりとりじゃなくて映像で彼らの状況を実感させて、これ以上ない演出じゃないか。ことばで説明するんじゃなくて、モーションするピクチャーで見せるから映画っていうんだからな。

しかも、あのバスが堂々と画面の真ん中で止まるんじゃなくて、申し訳なさそうに画面の隅で止まったりするのよね。

そうそう。その奥ゆかしさがいじらしいじゃあねえか。

まだ9歳の幼い娘を派手なミスコンに出すなんてどうなのよ、って疑問も頭をもたげるんだけど、実はそんな疑問も吹っ飛ぶどんでん返しがラストに用意されているし。

おじいさんがちょっとエッチだってことが伏線になってて最後で生きてくる。皮肉たっぷりでうまい展開だよな。

口を利かないおにいちゃんもまたひょうひょうといい味を出してるしね。途中で機嫌を損ねて9歳の妹が説得しに行くんだけど、その説得の仕方がまたいいのよね。

どう説得したかなんて言うなよ。これは観てのお楽しみなんだから。

たしかに言わないほうがいいわよね。

そうそう。自殺未遂のおじちゃんがこれまた007みたいに様になった走りを見せるし。もう、みんな最高だよ。

おかしな人ばっかり出てくるんだけど、そのアンサンブルがすばらしいから、見ていてイヤミにならないのよね。

ほのぼのとした語り口で、最後には、人生、勝者だけが偉いんじゃないって自然と納得させてくれる。とにかく、バスが出てくる映画って、やっぱり最高だな。

その映画の話を都バスの中でするっていうのもね。


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ふたりが乗ったのは、都バス<渋88系統>
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