【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

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「キャタピラー」:戸山町バス停付近の会話

2010-08-18 | ★橋63系統(小滝橋車庫前~新橋駅)

ポツポツとこの窓にくっついている豆粒みたいなのは、何だろうな。
豆電球じゃない?クリスマスとかの時期にはきっときれいに光るんでしょうね。
そんな華美な飾り付け、戦時中だったら非国民ものだ。
でも、いまは戦時中じゃないからね。
そういう、戦争を他人事みたいに醒めた目で見る人間にこそ観てほしいね、若松孝二監督の新作「キャタピラー」は。
これはもう、醒めた目じゃ観れないもんね。
戦争に行った夫が両手も両足もなくし、芋虫みたいな異様な塊になって帰ってくる物語。
有無を言わせぬその姿。しかも、頭にケロイド、ことばも話せない。そんな彼を周囲は「軍神」とあがめたてまつる。
こんな姿になるまで戦い抜いて、軍人の鑑だってわけだ。
実際、戦地でやってたことといえば、現地の女性の凌辱なのにね。
でも、国にすれば戦意を高揚させる、いいプロパガンダになる。ここまで勇敢に戦った男がいるんだから、君たちも頑張れと。勲章まであげちゃって。
でも、彼の介抱をする妻にしてみれば、たまらない。
極端にいえば、帰ってきたのは、一個の肉の塊にすぎないんだからな。
映画は、そんな二人の日々の暮らしをしつこいほど延々と見せつける。
それが戦争なんだから、目をそらすなってことだよ。
両手、両足をなくした軍人の話っていえば、どうしたって「ジョニーは戦場へ行った」を思い出してしまうけれど、あれは二十代の若者が主人公で、彼を戦場に送り出す恋人も初々しく、残酷な中にも何かみずみずしい部分があった。それに対して「キャタピラー」は夫婦の話ということもあるかもしれないけど、とにかく息苦しくて、切羽詰まった描写が続く。
妻を演じるのは、寺島しのぶ。いまや稀な映画女優だ。
愛の流刑地」とか「男たちの大和」とかの腑抜けた演技とは、まったく違って、迫真の姿を晒す。監督や題材によってこうも変わるのかっていう典型よね。
複雑な思いを抱える戦時中の女性を、表情を自在に変え、全身で生々しく演じている。
やがて、夫に仕えるだけの女から、夫を支配する女へ、微妙に言動が変わっていく。
戦争の話が夫婦の話にすり変わりそうになるんだけど、ときおりはさまれる天皇の写真や戦況を報じるニュースがそれを許さない。
個人と時代はつながっているんだという、その信念。図式になっても意にも介さない。
若松孝二監督の映画っていつもそうだけど、今回も怒りや叫びが直截に伝わってくる映画になった。
いい映画だった、なんて単純に感想を言うのを許さないようなね。
逃げ場がない。
私なんて、誰はばかることなくクリスマスに電飾を点けられるような時代って、それだけで幸せなのかもしれないって思ったりするけどね。



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