シルビアだけに、別れても好きな人を探す映画。
そんなこと言うと、まだ観てない人をミスリードしちゃうわよ。
でも、別れた人と会った映画だったぜ。
渋谷じゃないし。そもそも、おおおげさなところのまったくない映画。
ドイツ国境に近いフランスの町、ストラスブール。オープンカフェにたたずむ青年。
肩を出し、陽光を浴びてくつろぎ、語り合う女性たちの姿を静かに眺め続け、その中のひとりにかつての彼女の面影を見つけると、そっと後を追う。
迷路のような路地を歩き回り、路面電車に彼女の姿を見つける。
…たったそれだけの話。
それだけの話でこれほど目の離せない映画ができあがってしまうんだから、これは驚きだ。
ドラマらしいことはほとんどなんにも起きない映画の中から立ち上がってくるのは、石畳道を歩く人々の靴音、子供たちの嬌声、自転車の通りすぎる音、路上楽団の奏でる音楽・・・。
街を形づくっているのは、音でもあるといまさらに知らされる。
そして、街角のカフェ。青年の視線が次々と女性たちの間を移ろっていき、いったいこの青年はこの中の誰を探しているんだろうと観客が不安になり始める頃、彼の瞳は求めていた女性に止まる。
そのタイミングの絶妙さ。ヒロインの登場のみごとなまでのさりげなさ。
そして、彼女の後を追い、さまよい続ける街並みのなんと平凡、かつ、魅力的なこと。
なにしろ、路面電車が軋むだけで意味もなく何かの予感が胸をよぎる。彼女の後ろ姿がふっと街角を曲がるだけで訳もなく不安が胸に押し寄せる。
語るほどの物語もないのに、これだけサスペンスを醸し出す映画に出会ったのは初めてかもしれないわ。
町の息遣い、空気感をこれほど感じさせる映画もなかったような気がする。
休暇を取って海外へ行き、知らない町をあてもなくさまよってみると、ただそれだけなのに、なぜかとても豊かな時間が過ぎて行くことがあるけど、あのときの気分にも似た充実感を感じる映画だった。
幻のように過ぎていく時間。そもそも映画ってそういうものだったのかもしれないな。