想像を絶する映画だ。開いた口がふさがらん。
七十歳の老婆が全速力で走るんだもんね。
真っ白な雪山を熊に追われて、走る、走る。
しかも、それが正統派映画スターの浅丘ルリ子ときてる。
“MOTION PICTURE”の“MOTION”をいちばん感じさせるのは、人が走る姿だっていうのは俺の持論だけど、まさか七十歳の老婆がこんなに走るとは思わなかった。それだけでも、一見の価値がある。
楢山節考その後というか、生きる力にあふれていて楢山節考で成仏できなかった婆さんたちが立ちあがる物語。
草笛光子とか山本陽子とか倍賞美津子とか、あの年代の映画女優たちがぼろきれまとって勢ぞろいっていうのがなんとも圧巻だ。
ある意味、オールスター映画。
というか、オールドスター映画。昔は美貌を誇っていたスターたちが、スッピンだか老けメイクだかわからないけど、ぐちゃぐちゃの容姿で現れるだけで、スクリーンが異様な磁場を持った空間と化す。
彼女たちが自分たちを捨てた村の衆に復讐しようっていう話。
ところが、いつのまにか熊との対決アクション・ムービーに変わってしまう。
あの真っ黒な熊は、因習とか差別とか、老人たちに襲いかかってくるあらゆる災難の象徴なのよ。
そうかなあ。そんな哲学的な存在なら、もうちょっと神々しく描くとか不気味な存在感を示すとか、もっと気を使った登場のさせ方をしなくちゃいけないのに、ただの熊。相当ぞんざいな扱いだったぜ。
後半は、レンタル専用動物パニック映画の様相。
だろ?もう、ぐちゃぐちゃだ。
でも、そのぐちゃぐちゃさが大事なのよ。老いてなお生きるっていうのは、そういう美醜を超えた闘いに身をさらすってことだからね。
それって、なんか無理やり意味を読み取ろうとしてない?
してる。ほんとは、年取っても丈夫であれば、あれくらいアクションをこなせるんだっていう意味の、老人応援映画だった。
それもなんか無理してない?
じゃあ、どんな映画だったっていうのよ。
ヘミングウェイの「老人と海」ならぬ「老人と熊」。
それこそ、誉め過ぎよ。