吃音の王様なんて、ユニークなところに目をつけるわね。
しかも、実在した国王。
いまのイギリス女王エリザベス2世の父、ジョージ6世。
たしかに、国王っていえば演説をするのが仕事だもんな。吃音じゃ困っちゃう。
まだまだ、映画のテーマはあるってことよね。
そこで言語療法士が登場するんだけど、こいつがいかにもうさんくさい。
かつて大英帝国の一部だったオーストラリアなまりの男が、英国王の吃音を治療するっていう皮肉。
ジェフリー・ラッシュが相変わらずいい味を出してる。
英国王を演じるのは、コリン・ファース。彼がまた、皇室育ちの堅物でひ弱い男を好演している。
彼には兄がいて、その兄が王になるから自分はならなくていいっていう立場だったはずなんだけどね。
そのお兄さんが市井の女と恋に落ちて、あっさり王位を投げ出してしまう。
相手の女が傍目にも魅力的に見えないのがまた、おかしい。
あんな女のために王位を捨てる?って思うんだけど、そこがまた、イギリスらしくておもしろい。
コリン・ファースとジェフリー・ラッシュの掛け合いなんて、ほとんどM-1グランプリだ。
っていっても、コメディじゃなくて、あくまで真面目な映画。
イギリス王室映画らしい格調の高さはさすが。
王座をはさんでコリン・ファースとジェフリー・ラッシュがことばの応酬をするクライマックスなんて、迫力満点。息もできない。
とうとうジェフリー・ラッシュはコリン・ファースがどうしても言えなかった決定的なひとことを引き出す。
作戦勝ちよね。
言語療法士というより、もうほとんど英国王の陰の参謀だ。
ピーター・イェーツのイギリス映画「ドレッサー」を思い出した。あれもわがままな大俳優を御する付き人の話。
そんな紆余曲折の果てだから、国民へ向けて第2次世界大戦開戦のスピーチをするコリン・ファースには、ハラハラしながらも感動してしまう。
ラジオから流れてくる彼の声を聞く民衆の姿がまた絵になっている。細かいカットバックで一瞬、一瞬しか映らないんだけど、彼らの表情が半端じゃなく、王のことばに耳を傾ける英国民そのままになりきっている。
そういうところにまで、まったく手を抜いていない映画だってことだよな。
英国らしい、いい意味でコンサバティブな映画。アカデミー賞が待ち遠しくなってきたわ。