【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「トロッコ」:木場公園バス停付近の会話

2010-05-29 | ★業10系統(新橋~業平橋)

こんなところにも、緑まぶしい一角があるんだな。
まるで川口浩史監督の映画「トロッコ」に出てきた光景のようね。
川口浩が草深い山奥でトロッコに乗る映画を撮るっていうから、すわ、川口探検隊が亡霊になって帰ってきたかと早合点したけど、“川口浩”じゃなくて“川口浩史”だった。
まったく、人騒がせな名前だけど、それとは裏腹に、この映画はなんとも静謐な情感にあふれている。
十歳にもならない子供たちからすれば、外国の山中に行くっていうのは大探検ではあるけどね。
急死した台湾人の男の遺灰を届けるために日本人の妻と幼い兄弟が台湾にやってくる。
そこで出会う、台湾人の祖父母。
そして、戦争中、日本人のために祖父たち台湾人がつくった手押しトロッコの線路。
異郷の地、山あいの寒村で、母親と長男の気持ちのすれ違いが露わになる一方で、祖父たち台湾人の日本に対する複雑な思いが立ち昇ってくる。
シンプルな物語の中に、祖父母、母、子、それぞれの家族の思いが交錯する。うまい構成よね。
もちろん、題名どおり、兄弟がトロッコに乗るシーンもクライマックスに用意されている。
最初はトロッコに乗れたことで欣喜雀躍していた子どもたちも、山奥へ、山奥へと向かっていく中で次第に心もとなくなってくる。
最後は二人ぼっちで山を降りる羽目になり、トボトボ歩いているうちに疲れと不安からとうとう弟は泣き出してしまう。
兄は、自分も泣きたい思いなのに、長男だからと、弟をなだめすかしながら、ようやく家まで辿り着く。
誰もが幼いころに経験したような懐かしい情景で、心細さがきゅんと胸をしめつける。
家で待っていた母親の、すべてを溶かすようなひとこと。母との絆を取り戻すひとことに、緊張の糸が切れた長男はぼうだの涙を流す。
背景が台湾の濡れたような森林地帯っていうところがミソで、目に飛び込んでくるみずみずしいばかりの緑には、日本人でもしたたるような郷愁をかきたてられる不思議な空気が潜んでいる。
原作は芥川龍之介の短編なんだけど、台湾でロケすることで新しい命が吹き込まれた。
南アメリカでロケすることで宇宙人の話に新しい命が吹き込まれた「第9地区」のようにな。
ずいぶん飛躍した比較だけど、ほんと、映画って、どこでロケするかがつくづく大事なんだなあ、って再認識させられたのは確かね。
川口探検隊の話じゃなかったっていうのは、ちょっと残念だけどな。
ああ、彼ならホラ話感あふれる「第9地区」のほうがふさわしいんじゃない?







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「月に囚われた男」:木場四丁目バス停付近の会話

2010-05-26 | ★業10系統(新橋~業平橋)

ずいぶん大きなアンテナね。
これくらい大きなアンテナなら、遠い月とも交信できるかな。
少なくとも、「月に囚われた男」に出てくるような月面基地とは無理ね。
あの映画に出てくる月面基地は、外部との交信が絶たれちゃってるからな。
ダンカン・ジョーンズ監督のSF映画「月に囚われた男」は、月のエネルギー資源を地球に送るため3年契約で月面基地に派遣された男の物語。
しかも、その基地には彼一人しかいない。
通信機器の故障で外部と連絡も取れない。
もうすぐ期限が来てようやく地球に帰れるっていう頃、自分と全く同じ顔をした人間と遭遇する。
さて、その正体は?
・・・なあんて言うと、タルコフスキー監督の「惑星ソラリス」を思い出したりするけど、あそこまで哲学的な映画じゃない。
月面基地で孤独な男の相手をするスマイルマークのコンピュータもキューブリック監督の「2001年宇宙の旅」を思い出したりするけど、あそこまで怜悧じゃない。
高邁な思想をSFで表現するっていうんじゃなくて、とにかくSF映画を撮ってみたかったっていう、なんとも無邪気な動機が見え隠れして、この映画、ほほえましいこと、この上ない。
特撮も、いまや行くところまでいってしまった感のあるCGじゃなくて、手作りのミニチュア感にあふれていて、ほっとするほど懐かしい。
ああ、ひたすらに懐かしい。
あの、月面車のぎこちない動き!
監督よ、お前は、ダグラス・トランブルか!
うん、この映画の感覚に一番近い映画を挙げるなら、ダグラス・トランブルの「サイレント・ランニング」かもしれないわね。
というより、「サイレント・ランニング」に憧れた映画。
まったく、この映画、70年代SFのチープな部分をいまさら集めたみたいな出来だもんね。
それだけに、観ていてどうにも少年時代に戻ってしまったようなワクワク感を抑えきれない。
自分と全く同じ顔をした人間の存在理由っていうのも、やたらわかりやすくて、21世紀も10年経ってるんだから、もっとなんか深い意味付けをしてよ、って言いたくなるけど、それは野暮っていうもんね。
そう、ただ童心に帰って、この愛すべき映画に囚われればいい。
「月に囚われた男」に囚われた男女・・・。







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「パーマネント野ばら」:木場三丁目バス停付近の会話

2010-05-22 | ★業10系統(新橋~業平橋)

ここから先は、高速道路だ。
世の中、高速をスイスイ走るような人生もあれば、凸凹道をノラクラ歩くような人生もあるのよねえ。
なに、気取ったこと言ってるんだ?
いや、凸凹道をノラクラ歩くような女たちが出てくる「パーマネント野ばら」なんていう映画を観ちゃったもんだからさ。
ああ、あの映画に出てきた女たちはみんな、お世辞にも高速をスイスイ走るような人生は送ってないもんな。
主役の菅野美穂も、小池栄子も池脇千鶴も、みんな男に恵まれない低空飛行の女たち。
身につまされる?
あなたみたいな男の近くにいる身としてはね。
おいおい、いくらなんでも、俺はあそこまでどーしよーもない男じゃないぜ。
男はみんなそう、うそぶくのよ。
そうかなあ。俺はどっちかって言うと、菅野美穂の恋人役の江口洋介にそっくりだなあと思って観てたんだけど。
んなわけないでしょ。それに恋人役とはいえ、結局、彼の存在にもある秘密があったんだから。
ああ、映画ならではのギミックが仕掛けられていて、菅野美穂の深い孤独感が露わになる。
あら、あなたなら「手垢にまみれた手法だ」ってボロクソにこき下ろすかと思ったのに、まんざらでもないのね。
西原理恵子原作だけあって、監督は違うものの「女の子ものがたり」の続編みたいな趣が感じられ、情が沸いちゃったのかもな。
うん、菅野美穂たち三人組のコンビネーションが、あの映画の三人組を思い出させるし、それ以上に、彼女の子ども役とその同級生の三人組が「女の子ものがたり」の少女たちそのものよね。
いちばん貧乏役の女の子がなんとも貧しそうで印象的な顔つきしてるんだよなあ。
そうかと思うと、彼女たちを取り巻く年取ったオバチャンたちのほうが元気というか、奔放というか・・・。
ほんとは逆だろうって言いたいくらいだ。
監督の吉田大八もぶっ壊れた傑作「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」から「クヒオ大佐」で落ち込んだあと、ようやく危なげのない、こなれた演出を見せるようになったわね。
脚本の奥寺佐渡子が影響しているんじゃないか。
あいかわらず、観客を置き去りにしない、わかりやすくてツボを得た脚本だもんね。
高速道路を走るだけが人生じゃないってことだな。
歩くのも人生。
バスに乗るのも人生。
映画がはねたら都バスに乗ろう!・・・って、できすぎよ。







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「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」:木場駅前バス停付近の会話

2010-05-19 | ★業10系統(新橋~業平橋)

おや、こんな下町に場違いなフランス料理店が。
ジョニー・トーの映画にフランス人が出演しているようなもんかしらね。
ああ、「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」のことだろ。あくまで香港ローカルの映画監督だと思っていたジョニー・トーがフランス人を主役に持ってくるとは意外だった。
しかも、フランスの国民的歌手、ジョニー・アリディよ。そんなの、ありディ?
うーん、お前も驚きのあまり頭が壊れたか。
でも、ジョニー・アリディだって、昔受けた弾丸の影響で頭が壊れ、記憶が薄れかけている元殺し屋の役よ。
いまは、パリのレストランの店長。
ここのお店みたいなメニューを出すのかしら。
この際、ここも、「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」公開記念メニューでも出せばいいのにな。
冷麺でも出てきそうで、売れないと思うけどね。
時代を先取りしすぎか?
逆よ。時代遅れなのよ、この映画みたいに。
そうだな。こんなに映画らしい映画が、東京でも小さな映画館数館でしか上映されない時代になっちゃったんだもんな。寂しい世の中になったもんだ。
彼のマカオに住む娘一家が惨殺され、ジョニー・アリディは現地の殺し屋と手を組んで復讐をはかる。
この殺し屋たちを演じる俳優は、アンソニー・ウォンをはじめ、ジョニー・トー映画の常連だし、そこから先は、この監督一流の男臭くてスタイリッシュな世界が広がる。
この香港映画独特の世界に、ジョニー・アリディがここまで馴染むとは、正直、予想もしていなかった。
硝煙と風雨にまみれた映画の中で、灰色の瞳が絶大な効果をあげている。
月にむら雲がかかり、あたりが明るくなったり暗くなったりする中に浮かび上がってくる皺だらけの顔。
そして、光と闇を一遍に取り込んだような灰色の瞳。
彼を取り巻くのは、香港きっての男っぽい連中。
その中で繰り広げられる加齢なる銃撃戦。
待って。“加齢なる”じゃなくて“華麗なる”銃撃戦でしょ?
正しくは、加齢なる男たちの華麗なる銃撃戦だ。
とにかく、出てくる男たちに一本芯が通っていて、観ていて懐かしいほど魅力的なのよね。
約束は果たすもんだ、という一徹な思いには不覚の涙がこぼれてきそうなほどだ。
そう。その思いをみんな、愚直なまでに実践する。
女たちだって、出番は少ないけど、この世界にぴったりはまって映画を支えている。
ここまで、監督の趣味と思いが画面の隅々にまで息づいている映画も貴重かもしれないわね。
欲をいえば、ジョニー・アリディの歌う場面が観てみたかったけどな。
彼が料理をつくる場面じゃダメ?
あれも男たちに絆が生まれる意味深いシーンだったけど、料理じゃ観客は食べられないからなあ。
ここのお店で食べたら?
「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」公開記念メニューがあればな。
冷麺でも?







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「グリーン・ゾーン」:木場六丁目ギャザリア前バス停付近の会話

2010-05-15 | ★業10系統(新橋~業平橋)

こういうショッピングモールも、緑が多いとほっとするな。
癒しのグリーン・ゾーンね。
しかし、世の中には癒されないグリーン・ゾーンもあるぞ。
ポール・グリーングラス監督が新作で描いたグリーン・ゾーンとか?
ああ、イラク戦争でアメリカ軍が駐留した地域を“グリーン・ゾーン”と呼ぶなんて知らなかった。
イラク全土の中で、アメリカ軍のいるところだけ、安全地帯風の名前をつけるなんて、現地の人々から見れば無神経そのものだけどね。
その中で大量破壊兵器の在りかを探す兵士の姿を描いたのが、文字通りの映画「グリーン・ゾーン」。
いくら探しても大量破壊兵器なんか見つからない空しい作業に疑問を持つうち、嘘で塗られた戦争の真実を暴いていくことになる。
いまとなっては、ほぼ常識になっていることで、それほど驚くようなことじゃないけどな。
日本だって、核の密約とかいって国民は騙されてきたのに、それを知っても、やっぱりね、という感じで、それほど衝撃じゃなかったもんね。
だから、この映画も、そういう真正面から戦争の真実を告発するっていう映画じゃなくて、それを題材にアクションシーン満載のサスペンス映画を撮ってみましたというつくりになっている。
イラク戦争といえば、どうしてもつい最近の「ハート・ロッカー」と比較したくなっちゃうけど、あちらはリアルな戦争の風景、こちらは「ボーン・アルティメイタム/イラク戦争版」だもんね。
戦闘シーンや追撃シーンの迫真さ、臨場感はさすがだけどな。めまぐるしく動くカメラ、スピーディーなカッティング、キレのある編集、映画の呼吸は「ボーン・アルティメイタム」そのままだ。
監督・ポール・グリーングラス、主演・マット・デイモンのコンビも同じだしね。
イラク戦争がこういう娯楽映画の形で取り上げられるようになってきたっていうのも、ある意味、時の流れかな。
でも、最後を決めたのがイラク人の行動だったっていうところが、ストーリーのミソなんじゃない?
真の主役はイラク人だったってことか。
うん、“グリーン・ゾーン”は、やっぱりイラク人にとっての“グリーン・ゾーン”であってほしいって思ったもの。
たしかに。







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