新宿駅のすぐ近くにも、こんな横丁がまだあるのか。
世間の繁栄から取り残されたような、その名もわびしい、思い出横丁・・・。まるで、あなたみたい存在ね。
どうせ、おいらは世間のつまはじきモンよ・・・って、お前も痛いとこ、つくねえ。
でも、こういうご時世、証券バブルに踊らされるよりましかもね。
テレビドラマの「ハゲタカ」みたいな時代はもう終わったのさ。これからは、つつましく生きる。これに限るね。
そのドラマがテレビで放送されていたのが2007年。満を持して映画化されたのがドラマ版と同じ大友啓史監督の「ハゲタカ」。
満を持しすぎ。
そう?
たった2年で金融の世界もガラッと変わっちゃって、その影響をもろに受けたような映画になってしまった。
あわてて脚本を書き直したようだけど、やっぱり世の中の動きのほうがちょっと早かったかなあ。
苦心の跡はしのばれるんだけど、世の中の動きのほうが早い。
日本の自動車会社を中国の国際ファンドが乗っ取ろうとする話。目のつけどころは悪くなかったんだけど、GMのニュースとか聞いちゃうとねえ。
タイムリーな題材は陳腐化するのも早いってことか。
タイムリーではあるけれど、超タイムリーではなかった。
映画では、日本の自動車会社を守るべく、大森南朋がドラマ版以上の活躍をするんだけど、彼が熱演すればするほど薄ら寒い思いが募ってくる。
もはや、どんな手をつかったところで、金融の世界で勝者はいないことを私たちは感じてしまっている。
しょせん、マネーゲームの世界の話じゃないか、と頭の片隅で気が萎える。
テレビドラマでは、そのマネーゲームに踊らされる一般庶民が出てきて、共感を誘ったんだけど、映画はスケールアップしたぶん、私たちの思いを反映できるような一般庶民が出てこない。
派遣切りに遭う青年も出てくるんだけど、あわてて脚本に付け足したのか、扱いがどうも中途半端に終わっている。
中国のファンドっていうのは、不気味で結構リアリティあるんだけどな。
実際、GMのハマー・ブランドを中国が買うって噂もあるしな。でも、敵役の玉山鉄二があんな形で消えてしまっては、先が続かない。
彼も赤いハゲタカとして熱演してたんだけどねえ。
冒頭、大森南朋の暮らしている場所が、絵に描いたようなリゾートなのも笑っちゃうし。
製作者たちは、貧乏暇なしで、高級リゾートになんか行った経験がないんじゃないの?
俺たちも、ないけどな。
だからいっそう、そう感じる。
ワインをくゆらせりゃあいいってもんじゃない。
せめて007とか観てリゾートのリアリティとは何か、勉強しておかないとね。
ラストがまた冗長。
緊張感をはらんだドラマが決着したあとで、テーマに通じる余韻を残そうとしたんだろうけど。
弛緩した映像で、とってつけたようなオマケになっちゃった。
いっそ、ファーストシーンと同じカットを出して終われば締まったのにね。
あるいは、中国の大地にひざまづいて慟哭するとかね。
自分のやってることの虚しさに嗚咽をあげるってこと?
ああ。大森南朋には、もっと心の空洞を表現してほしかった。かつて、「仁義なき戦い・頂上作戦」の中で菅原文太が小林旭に「俺たち、間尺に合わん仕事したのう」と抗争の虚しさを吐露する名シーンがあったんだけど、あれくらい、主人公の空虚感が表現されていれば、ラストにも味が出てきたかもしれないけど。
そうすれば“いま”の映画になったかしら?
そういう可能性もあったのに、思わせぶりたっぷりな映像を流してもねえ。いつも口がすっぱくなるほど言ってるんだけど、どんな映画でも、話が終わっているのに余韻を残そうとスケベ心を出して尺を伸ばしても、ものほしげで品がなくなるだけ。スパッと切れ味良く終わってこそ、小股の切れ上がったいい映画に仕上がるっていうもんだ。
へんな表現。でも、いまどき貴重な社会派映画の力作なことはたしかよ。純粋にテレビドラマの続きとして観れば十分おもしろいし、10年後くらいにこんな金に狂った映画もあったなあと、思い出すのもいいかもしれない。
思い出横丁あたりでな。
あ、やっぱりリゾートじゃないんだ。
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