【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「つぐない」:石原一丁目バス停付近の会話

2008-05-07 | ★都02系統(大塚駅~錦糸町駅)

東京都復興記念館?何の復興だ?
関東大震災の資料を展示しているらしいわよ。
震災にしろ、戦争にしろ、心が受けた傷が復興するまでには、長い時間がかかるんだろうな。
「つぐない」の主人公ブライオニーのようにね。
彼女は別に戦争の傷を心に負っているわけじゃないだろう。彼女が負っているのは、自分のやったことに対する自責の念っていうやつだ。
1930年代、戦火が忍び寄るイギリスで、政府官僚の長女セシーリアと使用人の息子ロビーが思いを通わせ合うようになるんだけど、多感な妹ブライオニーのついた嘘が、ロビーに無実の罪を着せ、刑務所から戦争送りにしてしまうっていう話だもんね。
戦争でほんとうに悲惨な目に遭うのは、この長女セシーリアと恋人のロビーのほうで、妹のブライオニーは、悔恨の気持ちを抱きながらも戦後、それを小説にしちゃうんだもんなあ。いい気なもんだ。
そんな気軽なもんじゃないでしょう。思春期の過ちを老人になるまでじっと抱えているんだから、彼女の心の傷も相当なもんよ。
だけど、その小説も自分の都合のいいように真実を曲げちゃうんだぜ。
ノンフィクションじゃないんだからいいじゃない。ほんとうはこうありたかったっていう願望を小説にして何がいけないのよ。
だって、実際は自分のせいでこの二人を引き裂いてしまったのに、罪の気持ちを少しでも軽くしようと、小説は結末をハッピーエンドに変えちゃうなんて、恥知らずだと思わないか。
そんなこと思うの、無神経なあたたぐらいよ。せめて小説家になった自分のできること、フィクションの中だけでもハッピーエンドにしてあげたいっていう真摯な贖罪の気持ちから出たことじゃない。
そんなことで贖罪になるなら、世の中、警察はいらないね。
別にこれですべて許されたとは、誰も思ってないわよ。バネッサ・レッドグレープのしわの数を見ればわかるじゃない。
年取ってからのブライオニーをバネッサ・レッドグレープが演じているんだけど、さすがは大女優、やっぱり彼女の存在感が映画をさらっちゃったな。たいした女優だ。
でも、多感な頃のブライオニーを演じるシアーシャ・ローナンも、いかにも頭でっかちの少女を演じていて印象的だったわよ。
彼女におとしいれられる長女セシーリア役のキーラ・ナイトレイも輝いていた。「シルク」の存在感の薄さが嘘のようだ。
やっぱり、演出力の違いかしら。
川でおぼれるシーンの緑したたる風景、悲惨な戦場のワンカットによる移動シーン。そして、同じ場面を繰り返すことによっていかに事実が捻じ曲げられていくかをじっくりと感じさせる構成。みどころは、たっぷりだ。
なんだ、あなたも結構気に入ってるんじゃないの、この映画。
映画としていいかどうかと、ブライオニーの行動を許せるかどうかは別の問題だろう。
まあ、まあ。そう眉をつりあげないで。あなたの気持ちが復興するのはいつのことかしらね。
それは簡単だ。いちどでいいから、キーラ・ナイトレイに会わせてくれりゃいい。
って、あなたらしい答えね。
いいや、映画ファンらしい答えだ。



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2 コメント

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いろんな意味で余韻が・・・ (ぺろんぱ)
2008-05-10 12:44:03
TBありがとうございました。
本当の意味での「つぐなう」とは何なのか・・・、罪を犯した時点でもう完全な贖罪など存在し得ないのではないかと、鑑賞後もいろいろと考え続けた一作でした。
戦禍を長廻しで撮ったところ、あれはとても不思議な印象を残す名シーンでしたね。
ジョーさんの仰っている通り、「映画として見所たっぷり」な分、ストーリーとして「原作」の意図するところはどうだったのだろうかととても気になっています。
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べろんぱさんへ (ジョー)
2008-05-11 09:36:19
つぐないとは何か。考えさせる問題ですね。戦争の悲惨さを強調しすぎて、この問題とのバランスを欠いているのではないか、とも感じましたが、あれも現実ではなく、創作だとすると、また違った印象になります。気になる映画でした。
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