Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

フランチェスカ・ダ・リミニ

2010年09月06日 | 音楽
 首都オペラの公演をみた。この団体の存在は知っていたが、実演に接するのは初めてだった。演目はザンドナーイのオペラ「フランチェスカ・ダ・リミニ」。めったにみる機会のない演目だった。
 プログラム誌に会長の佐藤郁夫さんの「ごあいさつ」が載っていた。同団の課題として演奏水準の向上と財政基盤の確立をあげ、現状の苦渋を率直に語っておられた。私はチケットを買うくらいしかできないが、心を動かされた。

 ザンドナーイは1883年生まれのイタリアの作曲家で1944年に亡くなった。「フランチェスカ・ダ・リミニ」はその代表作だ。今シーズンのパリ・オペラ座では新制作の上演が予定されている。原作はダンテの「神曲」の地獄篇にもとづくダヌンツィオの戯曲。初演は1914年で、第一次世界大戦が勃発する直前だった。

 フランチェスカは13世紀に実在した女性。政略結婚でマラテスタ家のジョヴァンニに嫁ぐことになった。ジョヴァンニは醜い男だったので、周囲はその弟で美男のパオロをジョヴァンニだと偽った。騙されたフランチェスカ。運命のいたずらか、フランチェスカとパオロは恋に落ちた。結婚後、密会が発覚して、2人はジョヴァンニに殺された。

 いかにもイタリア・オペラ向きの筋立てだ。ザンドナーイの音楽もイタリア・オペラらしい甘美なメロディーと劇的な展開に欠けていない。その半面、19世紀的な血の気の多さをこえて、近代的な洗練も感じられる。考えてみれば、ザンドナーイはレスピーギと同時代人だ。もはや20世紀の空気を吸っていたのだ。

 主要なソリストはみな頑張った。フランチェスカ役の斉藤紀子さんは大健闘だった。ジョヴァンニ役の飯田裕之さんは第2幕の登場の一声で他を圧した。パオロ役の大間知覚さんはちょっと硬かったが、これは役柄からくるのかもしれない。

 第1幕には放浪楽士がトリスタンとイゾルデの物語をかたる場面があって、その関連だろうか、第3幕のフランチェスカとパオロの愛の二重唱では、昼を厭い夜に憧れる歌詞が出てきた。いかにもワーグナーのパロディーだ。これは原文にあるのだろうか。それとも演出の三浦安浩さんの意訳だろうか。

 オーケストラは岩村力さん指揮の神奈川フィル。先月のバイロイトの蓋つきピットの音が残っている私の耳には、オーケストラから放出される原色の音に目がくらむ思いがした。これが通常のピットの音か。私のなかではバイロイトの音と通常のピットの音の双方が鋭く屹立した。
(2010.9.5.神奈川県民ホール)
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