旅の最終日はチューリッヒに移動してプフィッツナーの「パレストリーナ」を観た。
演出はイェンス・ダニエル・ヘルツォーク。パレストリーナはイタリア・ルネッサンスの大作曲家だが、ヘルツォークはこれを現代の老いた作曲家に置き換えた。第1幕はピアノが1台あるだけの質素な仕事部屋。パレストリーナは妻を亡くし、音楽的にも時代遅れになっている。ボロメーオ枢機卿が訪れてミサ曲の作曲を求める場面からは、リヴィングルームが舞台になる。
面白かったのは第2幕だ。トレント宗教会議の場はなんとこのリヴィングルームがその場だ。回転舞台が使われて、キッチン、トイレ、物置、寝室などが現れる。ヨーロッパ諸国から集まった聖職者たちが我がもの顔で闊歩し、ワインを飲んだり、排便したり、男色にふけったりする。スペイン側の貴族が、対立するイタリア側の司教を買収するなど、芸が細かい。驚いたことには、この幕には登場しないはずのパレストリーナもそこにいて、なすすべもなく呆然と見ている。幕切れではイタリア側の従者とスペイン側の従者が喧嘩を始めて、マドルシュト枢機卿が鎮圧のために発砲するが、こともあろうに銃はパレストリーナに向けられ、撃ち殺される。
第3幕は再びパレストリーナの仕事部屋。パレストリーナは床に倒れている。徹夜でミサ曲を作曲したため、疲れてそのまま眠ってしまったのだ。第2幕はそのとき見た悪夢だ。息子のシッラが男たちを引き連れて現れる。サンタ・マリア・マッジョーレ教会の聖歌隊も、法王ピオ4世も、みんなシッラが雇った男たちの変装だ。人生に悲観した父を励まそうと、シッラが仕組んだ芝居だ。男たちはそれぞれの役を果たし、シッラから小銭をもらって退出する。最後に一人になったパレストリーナは、ピストルで自殺しようとするが、果たせず、力なくうなだれて幕になる。
パレストリーナに勝利は訪れないけれど、シッラの親思いの情が感じられて、温かい幕切れだった。
指揮はインゴ・メッツマッハー。エネルギッシュな指揮は、ますます磨きがかかった感じだ。ドイツ的な骨太の演奏。ティーレマンの華やかさとは異なった、いぶし銀のような個性だ。
パレストリーナ役はロベルト・サッカ。パレストリーナの悲哀を表現して感動的だった。当劇場の顔のアルフレート・ムフも、マドルシュト枢機卿と法王ピオ4世(に扮する男)役で健在だった。
(2011.12.21.チューリッヒ歌劇場)
演出はイェンス・ダニエル・ヘルツォーク。パレストリーナはイタリア・ルネッサンスの大作曲家だが、ヘルツォークはこれを現代の老いた作曲家に置き換えた。第1幕はピアノが1台あるだけの質素な仕事部屋。パレストリーナは妻を亡くし、音楽的にも時代遅れになっている。ボロメーオ枢機卿が訪れてミサ曲の作曲を求める場面からは、リヴィングルームが舞台になる。
面白かったのは第2幕だ。トレント宗教会議の場はなんとこのリヴィングルームがその場だ。回転舞台が使われて、キッチン、トイレ、物置、寝室などが現れる。ヨーロッパ諸国から集まった聖職者たちが我がもの顔で闊歩し、ワインを飲んだり、排便したり、男色にふけったりする。スペイン側の貴族が、対立するイタリア側の司教を買収するなど、芸が細かい。驚いたことには、この幕には登場しないはずのパレストリーナもそこにいて、なすすべもなく呆然と見ている。幕切れではイタリア側の従者とスペイン側の従者が喧嘩を始めて、マドルシュト枢機卿が鎮圧のために発砲するが、こともあろうに銃はパレストリーナに向けられ、撃ち殺される。
第3幕は再びパレストリーナの仕事部屋。パレストリーナは床に倒れている。徹夜でミサ曲を作曲したため、疲れてそのまま眠ってしまったのだ。第2幕はそのとき見た悪夢だ。息子のシッラが男たちを引き連れて現れる。サンタ・マリア・マッジョーレ教会の聖歌隊も、法王ピオ4世も、みんなシッラが雇った男たちの変装だ。人生に悲観した父を励まそうと、シッラが仕組んだ芝居だ。男たちはそれぞれの役を果たし、シッラから小銭をもらって退出する。最後に一人になったパレストリーナは、ピストルで自殺しようとするが、果たせず、力なくうなだれて幕になる。
パレストリーナに勝利は訪れないけれど、シッラの親思いの情が感じられて、温かい幕切れだった。
指揮はインゴ・メッツマッハー。エネルギッシュな指揮は、ますます磨きがかかった感じだ。ドイツ的な骨太の演奏。ティーレマンの華やかさとは異なった、いぶし銀のような個性だ。
パレストリーナ役はロベルト・サッカ。パレストリーナの悲哀を表現して感動的だった。当劇場の顔のアルフレート・ムフも、マドルシュト枢機卿と法王ピオ4世(に扮する男)役で健在だった。
(2011.12.21.チューリッヒ歌劇場)