Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ヴィンタートゥール展

2010年09月29日 | 美術
 世田谷美術館で開かれている「ザ・コレクション・ヴィンタートゥール」展。ヴィンタートゥールはスイスのチューリヒ近郊の街だ。私も列車で通ったことがあるが、下車したことはない。そこの美術館は有名で、機会があれば訪れたいと思っていた。今は改修工事中なので、日本で巡回展が開かれている。

 本展は8月から始まっていて、私もその初日に出かけた。暑い盛りの土曜日だった。小中学生は無料だったので、多くの子供たちが来ていた。それから1か月以上たち、会期も終わりに近づいてきたので、もう一度出かけてみた。日曜日の夕方。どんよりと曇った空からはいつ雨が降り出してもおかしくない様子だった。肌寒い風が吹いていて、8月の暑さが嘘のようだった。

 この展覧会の目玉は、ゴッホの「郵便配達人ジョゼフ・ルーラン」(チラシに使われている↑)とアンリ・ルソーの「赤ん坊のお祝い」だ。前者では鮮やかな青と黄の対比や、彫刻を思わせるごつごつした輪郭線が圧倒的だ。後者では前面の赤ん坊と背景の樹木とのアンバランス感、そして赤ん坊にもかかわらず大人びた顔をしているアンバランス感がたまらない。

 ところで今回足を運んだ目的は、ドイツの画家ロヴィス・コリントの「モデルと一緒の自画像」と、スイスの画家フェルディナント・ホードラーの「自画像」をもう一度みるためだった。

 コリントの「モデルと一緒の自画像」は、骨太の荒々しいタッチが強烈だ。自信にみちた壮年期の画家とそれに寄り添う若いモデル。画家のいかにも得意そうな表情には、自身にたいするユーモアのある視線が感じられる。一方、若いモデルのやさしい表情には、画家の深い愛情が感じられる。モデルは画家が2年後に結婚した22歳年下の弟子シャルロット・ベーレントではないかといわれている。

 ホードラーの「自画像」は死の2年前に描かれた20点ほどの自画像の一つ。薄笑いを浮かべてまっすぐ正面――おそらく自分自身――を見据える表情が、私たちには計り知れない心境を語っている。幼いころに父と2人の弟を亡くし、さらには母も亡くしたホードラーは、以後、死につきまとわれた人生を送った。本作を描く前年には20歳も年下の愛人を亡くしたホードラーは、もう死を恐れなくなったのだろうか。

 コリントもホードラーも、ドイツ表現主義の先駆けといわれている。ドイツ表現主義そのものの作品も展示されている。本展はさまざまなストーリーで観賞することが可能だが、私はドイツ表現主義というストーリーで楽しんだ。
(2010.9.26.世田谷美術館)
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