Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

バイロイト音楽祭:ジークフリート

2010年09月01日 | 音楽
 1日置いて「ジークフリート」。ティーレマンの指揮は乗りに乗って、もうどうにも止まらない勢いだ。

 第1幕は、速いところはだれよりも速く、テンポを上げる箇所では目もくらむような勢いで、また遅いところはだれよりも遅く演奏された。ジークフリートが名剣ノートゥングを鋳造する場面での「ノートゥング!ノートゥング!羨むべき剣よ!Notung! Notung! Neidliches Schwert!」は、今まできいたこともない遅いテンポで演奏された。まるで巨艦が荒波にもまれて揺れているようだった。

 緩急自在で大胆な演奏だ。ドラマはティーレマンの指揮棒に存在するといったらよいだろうか。聴衆はティーレマンに首根っこをつかまれて、右に左に翻弄される。

 ジークフリート役のランス・ライアンが素晴らしかった。硬めで、強く、まっすぐ出る声。舞台姿が若々しい。コミカルな演技がつけられていたが、この人がやると品を失わない。

 舞台は乱雑に散らかった実験室のような室内。幕切れに現代人の少年が窓からのぞきこんで、ジークフリートをまねて木の棒を振り回す。

 第2幕は自動車道路の橋げたの下。木々がうっそうと生えている。上の道路では2人の男がテントを張っていて、その明りがもれている。下ではヴォータン、ファフナー、ミーメ、ジークフリートなどの闘いが展開する。幕切れでは何人もの子供たちが駆け込んできて、一人の少年をいじめて去る。その少年はファフナーの死骸を見つけてギョッとする。

 第3幕冒頭のさすらい人とエルダ、さすらい人とジークフリートの場面では、紗幕が下りて、青い照明が当てられていた。エルダ役の歌手は、「ラインの黄金」でもそうだったが、さすらい人(つまりヴォータン)と拮抗するには非力だった。

 ジークフリートが魔の炎を乗り越える場面では、緞帳が下りてしまった。これにはガッカリした。緞帳が上がると「ヴァルキューレ」第3幕と同じ石切り場。リンダ・ワトソンのブリュンヒルデは、今度はよかった。まだ神性を備えていたころのブリュンヒルデとしては初々しさに欠けていたが、神性を奪われた今となっては、包み込むような声や重めの歌唱がイメージを壊すことはなかった。

 ジークフリートがブリュンヒルデの気をひこうとして、まず黒い羽根を取りだしてヒラヒラさせる。これはカラスか。そうだとするとヴォータンにたいする揶揄だ。次に青いリンゴを差し出す。禁断の木の実、アダムとイヴの暗示か。最後はパチンコ。これは?

 「ジークフリート牧歌」では真綿のように柔らかい音が流れてきた。これにはこの劇場の特殊な構造も与っているのだろう。独特な音だった。
(2010.8.23.バイロイト祝祭劇場)
コメント (2)
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