あの人は？

会社帰りの電車の中で、乗り換えなのでドア付近に立っていました。
ドアの左右にはどちらにもスーツ姿のサラリーマンとおぼしき男性が立っており、私はやや右側の男性よりの中央にいたのですが、揺れた拍子に私の鞄が右斜め前に立つスーツ姿の男性の持つバッグに当たってしまったので「ごめんなさい」と謝った時、向こうがチラと顔をこちらに向けて頷く顔を見たのです。
よく日に焼けた男性の顔で、年の頃は50前後とお見受けしましたがスーツの上からでも引き締まった筋肉が窺えるようなカチッとした印象でした。

電車が一度停車して動き出した時にまた大きく揺れ、よろけた右側の男性が咄嗟にドアのガラスにかけた左手の指先は、5指すべてが形よく伸ばした爪に綺麗なピンクのマニキュアが塗られていました。
ネイルサロンで仕上げた印象のその指先を見て綺麗だなぁと思うと同時にえっ？！ と驚き、男性の足元をみると10センチ位のピンヒールのブーティを履いていたのです。

左側の同じくスーツ姿の男性と見比べてみると、どちらも短髪のスーツ姿であるにもかかわらず明らかに印象が違います。
再び男性の顔に目をやった時、ドアが開いて男性は足早にホームへ消えてしまいました。
頭の中に？マークを抱えたまま私も電車を乗り換えたのでしたが、あの人は果たして？

右手は見えなかったのですが、左手の爪は本当にとっても綺麗だったのです。
でもその手はやはり、ゴツゴツした男性特有の手の甲であったのでありました。