元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

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すかいらーくの5分未満の労働時間切捨て<労基法24条の全額払い違反か>(行政通達なし・桑名市事件)・

2022-06-11 09:39:33 | 社会保険労務士
 松野官房長官の記者会見で「一般論としては労働時間の切り捨ては認められない」

 外食大手のすかいらーくホールディングスが、パートやアルバイトの賃金支払いの対象となる労働時間について、5分未満の労働時間は切り捨てていたが、1分単位で計算しなおして、その分の賃金を過去2年分支払うこととしたという。(※注意1) この問題をめぐっては、同社のアルバイトの男性が「全国一般東京東部労働組合」に加入し、切り捨てていた賃金を支払うよう団体交渉で求めたものであるという。(22年6月8日各新聞報道)

 労働基準法の労働時間の「行政」の解釈としては、1分でも残業時間としては計算するという「時間」を端折って計算することは許されていないが、この話の驚くべきことは、大手の会社において、まだまだこんな取り扱いがされていたこと、そして会社側が取材に対し「5分単位の勤務管理自体が違法である認識がない」していた点である。

 この点を重視した結果なのか、政府は(松野博一官房長官)は、9日の記者会見で、すかいらーくホールディングスが切り捨て賃金をさかのぼって支給することについては、「個別の企業の事案」として論評を避けたものの、一般論としては「労働時間の切り捨ては認められていない」として、再度、法令にのっとった対応を各企業に求めたところである。

 労基法24条1項には「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」とあり、「全額を支払わなければならない」ということからくるもので、労働時間を端折って計算することは認められていないとするものである。これは当然の事とするところで、これを前提として、「1か月」における割増賃金の計算においては、1か月の時間外労働の合計したところ、それが30分未満の端数ならば切り捨てることができるという通達(昭和63年3月14日基発第150号)がある。すなわち、1か月の労働時間の総計において、計算の複雑性から端折るのは認めるけど、これ以外の例えば1日の労働時間を端折るのはダメだと言っているのである。しかし、この取り扱いはあまりにも当たり前になっているためか、直接、基本として、労働時間の切り捨てが出来ないとしたことに言及した通達はないように思う。その意味では、確かにすかいらーくホールディングに言い分は、分からなくはない。

 最近になって、名古屋地裁の平成31.2.14判決(桑名市事件)が出された。これは、桑名市が運営する応急診療所に当番医として勤務していた医師に対して、時間外労働(厳密には「法定時間外労働」ではないところの「法定時間外労働」※注意2①)に対して15分未満は切り捨てられていたものである。いわゆる5時定時で5時10分まで働いたとしても、5時に丸められていたのである。

 この裁判の結論としては、前述の労基法24条1項の解釈から、労基法上、労働時間の端数処理を行うことは原則として許されず、労働時間として、労働日ごとに1分単位で把握しなければならないという、行政が当然のように行っている解釈をそのまま認めたものとなっている。したがって、15分の一定単位の端数の切り捨て処理により、実労働時間よりも少ない労働時間を集計することは認められないとしたものである。(※注意2②)
 しかし、ここで端数処理は原則として認められないという、当然としていた行政の解釈を裁判の場で争い結論がでたということは、私としては、はっきりしたという点で胸のつかえが降りた感じではある。(※注意3)

 
 なお、上記の1か月の時間外労働の合計において、30分未満の端数がある場合の「切り捨て可能」というのは、労働者にとって不利な労働条件を強行的に禁止している労基法の性格、および、情報技術の発展により端数処理も事務的に煩雑とはいえなくなっている状況からすれば、現在としては、労基法に違反すると解すべきではないかと、水町勇一郎氏は指摘している。(※注意4) 要するに、労働時間の端数処理は、絶対的に認められないとするものである。私としても、賛成したい。
 

※注意1 賃金請求権の時効は、2020年4月の改正労基法で3年になっているが、施行前は2年の時効となっていた。この事案において、会社側がさかのぼり期間を2年としたのは、この施行前の2年を踏まえての団体交渉の結果であったとみられる。

※注意2①-② この桑名市事件における時間外は、法定時間外労働ではなく法定内時間内労働であり、この法定内残業においては、合意があれば労働時間の切り捨てが労基法24条1項の関係で認めらるのか、いまいちはっきりはしません。(法定時間外労働であれば、切り捨ての合意があっても、労基法37条及び24条から、全く労働時間の切り捨ては認められないところ。労基法37条・24条1項=時間外の割増賃金・全額払い さらに 労基法13条=最低基準) というのも、当該事件は切り捨ての労働時間の合意があったかどうかの証拠はないという前提のもとに、労基法24条1項で労働時間の切り捨ては認められないと判決がなされているからです。

※注意3 元医療事務に携わった私としては、非常に興味深い争点がある。桑名市が「医師の診療行為には裁量がある」とか「診療終了時刻直前に受け付けられた患者の診療は医師の応招義務(診療を医師は正当な理由なく拒否してはならないー医師法19条)に基づくものである」から、時間切り捨てができる旨を主張したが、それだからこそ、医師に重い義務が課せられているからこそ、労働時間はちゃんと計算すべきものであろう。裁判では、市の主張は退けられている。

※注意4 詳解労働法 東京大学出版会 P674

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