元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

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労基法と労契法の労働者の定義の違いは「事業」の表現のみ=例:個人の事業性の有無

2022-05-07 09:18:23 | 社会保険労務士
 改正前の労基法では17の事業に該当しないと「労働者」の規制が適用なし

労働基準法にも労働契約法の規定にも「労働者」の定義があって、ほとんど内容は一緒なのだが、次のように若干違っている。
 労働基準法9条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
 労働契約法2条1項 この法律で「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。

「使用される」と「賃金を支払われる」というキィーとなるポイントは、両規定も同じあることが分かるだろう。労働基準法では、事業に「使用される」となっているが、事業には使用者がいて、この「使用者の指揮命令により働く」ことになる。労働契約法では、「使用者に使用されて労働」するというそのままの表現になっており、同じく「使用者の指揮命令により働く」ことになり、結局、労働基準法と労働契約法は「使用者に使用される」という意味では全く変わらない。また「賃金を支払われる」の「賃金」は、労働の対象として使用者が支払う報酬をさし、この「賃金」を使用者からもらうことを意味する。すなわち、労働基準法においても労働契約法でも、使用者から労働の指揮監督を受けて働き、賃金をもらっているのが労働者と言うことになり、基本的にはその定義は変わらない。

 労働基準法でこれに追加の表現である「職業の種類を問わず」とあるのは、戦前の工業法などの時代に「職工」を対象とするなどの職業に制限があったことから、戦後に労働基準法が制定されたときに、職業には制限なくその対象とするという意味で設けられた規定である。労働基準法はあまねく全職業を規制する法律であることは、当たり前になっているので、今ではあまり意味を持たない。労働契約法では職業の種類の表現はないが、この表現がないことにより逆に「職業の種類」は限定していないころになる。

 問題は労働基準法の「事業」に使用されるという点である。実は平成10年改正前の労働基準法では、17の事業を掲げそのいずれかに該当する事業のみ適用するとなっていた。ゆえに、これら以外の事業では労基法は適用しないとなっていたのである。しかしながら、ほとんどの事業が列記されており、適用漏れとなったのは、選挙事務所とか個人サービス業(塾、翻訳業等)であったといわれる。

 こういった事業所にも本来は適用すべきであったと思われるが(なぜ適用にならないのか分からない。)、こういった事業列挙方式にしたのは、むしろ事業別に労働時間にばらつきがあったから、こういった事業別の列挙方式にしたからといわれている。しかし、女性の労働時間の保護規定が男女雇用機会均等法改正に伴ってなくなり、この事業別列挙規定の意味が薄れたことを受けて、事業別の規定はなくなり、すべての「事業」に使用されるという労働者という意味から、この「事業」という規定のみが残ったのである。

 そのため、この「事業」という用語は、私はあまり意味はないのではないかと思っていたのであるが、これには若干注意を要するという。まず事業というのは、「業として継続的に行われるもの」とされている。したがって、宗教団体などが行う営利目的ではないものも含まれる。そして、いままでずっと説明してきたが、労働基準法と労働契約法の労働者の定義の違いは、結局、この「事業に使用される」というこの「事業」の表現がないことだけだといえよう。労働契約法には、「事業」の表現がないのである。ゆえに、継続的に行われるものに雇われるのでなくとも、労働契約法は適用になる。たとえば、個人で植木職人に植木の剪定をさせている場合には、その者を使用し賃金を支払っているという実態があれば、労働契約上の労働者ということになる。しかし、一般には、個人での植木の剪定は、せいぜい1か月に1回、出来上がりの結果に対して報酬を支払うような委託契約によることが多く、労働者という認定はまれであろう。

 いずれにしても、現実にはどうであれ、事業の表現のないことにより、すくなくとも「業として継続的に行われる」ものでなくとも、理論的には、労働契約法は適用になるということになる。これは、労働基準法では行政の管理監督のもとに罰則を伴う規制が行われるので、事業継続性のあるものが対象となる。しかし、労働契約法では、契約を結ぶ対象の労働者が全て対象となり、使用する者に事業継続性があるかどうかは関係なく、労働契約のルールとしての「労働契約法」を適用するということなのだろう。

 参考;詳解労働法 水町勇一郎

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