元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

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有期労働の無期転換申込権の背景を考える<従来法理論から逸脱だが安定雇用シナリオ政策としては必要か>

2017-08-04 18:41:02 | 社会保険労務士
 改正労働契約法成立の上は施行通達の指摘のように「派遣形態や請負形態に偽装」はしないこと
   概略的にいうと、同一の使用者の下で有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合に、その有期契約労働者に有期労働契約を無期契約に転換させる権利(無期転換申込権)を付与し、その権利が具体的に実際に発生するのが2018年4月以降からである。
 ※無期転換ルールに関する労働契約法18条は、施行日(2013年4月1日)以降の日を初日とする有期労働契約について適用。したがって、5年後の2018年4月1日以降に実際には無転換申し込み権は発生する。

  同一の使用者との間で締結された 2以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間(通算契約期間
  別の使用者との契約はカウントしない。・契約更新が少くとも1回以上された場合・その契約を通算した期間
  が5年を超える有期契約労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間
  が5年を超えるとき・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5年超となった契約を開始した時点から満了するまでの間
  が満了するまでの間に、無期労働契約の申し込みをしたときは、使用者は当該申し込みを承諾した
  (この間行使せず再度契約後も行使可能)・・・無期契約の申込をしたら使用者は承諾しようと否と契約成立 
   ものとみなされる。 (労働契約法18条1項前段)
   あくまでも承諾したもの(すなわち契約成立)とみなされるのである。
   この場合において、無期労働契約に転換された場合の労働条件は、別段の定めがない限り、従前の
    転換後の契約は無期になるので、契約期間を除かれるが、それ以外は、別段の定めがない限り、
   有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く)と同一の労働条件とする。(同条後段)
    従前の有期労働契約と全く同じとなる。ただし、この機会に「別段の定め」の労働条件で無期契約の
    新しい制度として活用することも可能。

 さて、この労働者の無期転換申込権は、形式上は、申込みと承諾という形をとっており契約の体裁を整えているが、労働者に有期から無期契約に転換させる転換権という形成権であって、民法上の申し込み・承諾の契約理論を壊すものであるということで法律家間で議論された。すなわち、契約は申し込み・承諾という意思の合致により成立するものであるが、使用者が承諾をしたものとみなすことにより、一方的な労働者の意思表示により法律行為(この場合契約)が成立することとなり、この無期転換ルールにおける無期転換申込権は、形成権そのものである。

 しかし、そこまで踏み切った背景には、次のような問題があるとされる。有期労働契約は、期間満了により雇用契約が終了し生活上の資金が途絶えるという雇止めの問題にとどまらない。有期契約の労働者は、雇用継続の保障がなく、有期契約が更新されるかどうかは使用者の意向次第であるということから、法律で保障された権利行使、労働条件改善の要求、セクハラ等の苦情申し出といった当然の雇用関係の権利・要求を、将来の契約更新の拒絶をおそれるあまり、これらの主張を差し控える傾向にあるということである。言い換えると、有期労働者は常に雇止めを意識して、労働契約存続中も使用者に比して著しく交渉力に劣ることになる。正規労働者の比ではないというわけである。

 初めは、私個人としても「契約理論を壊す」という主張をなるほどフムフムと聞いていたのであるが、そこまでしなければならない上のような背景を聞いた上で、荒木労働法の次の説明を聞き、十分ではないがこれも納得した次第である。(どちらの意見も納得できる。)

 いわく『今回採用された5年無期転換ルールは、使用者が、有期契約労働者に対して圧倒的に優越的な地位に立つ契約関係を5年を超えて継続利用することを、有期契約の濫用的な利用と評価し、安定的な無期契約への転換を図らせるべきであるという趣旨に出たものであるということができる。』 2012年改正のこの条項は、立法者として、有期労働契約の実態を踏まえ、契約原則からというよりも、やむにやまれず新たな立法措置をとったものということができる。
 
 さらに、この前提として、有期労働契約を法としては禁止せず、『無業・失業状態から有期労働契約を活用し雇用へと誘導し、従来は有期契約労働に留め置かれがちであった状況を無期転換ルールで打開し、助成金支給というソフトロー(無期転換ルール自体は無期契約以外の処遇改善はないが、基本給与のアップ等を目的としたキャリアアップ助成金制度により他の処遇改善をも図られるようになっている。)も併用して安定雇用たる無期労働契約へ誘導しようとするものである。』 ここで、安定雇用への物語・シナリオを用意しているものである。

 さて、契約理論からは外れているとはいえ、そこまで踏み切ることが分かった上で、法律として成立した以上、使用者もこれに的確に対応しなければならない。
 施行通達は考えられるよくあるケースなのか、法の逸脱例として、次のような場合を想定し先んじて指摘している。
 『使用者が、就業実態が変わらないにもかかわらず、無期転換申込権の発生を免れる意図をもって、派遣形態や請負形態を偽装して、労働契約の当事者を形式的に切り替えた場合は、法を潜脱するものとして、通算契約期間の計算上「同一の使用者」との労働契約が継続していると解される』としている。(施行通達平成24年8月10日基発0810第2号)
 就業実態が変わらないのに、無期転換申し込み権の発生を免れる目的から、苦し紛れなのか、派遣形態や請負形態に偽装することは、事業者としてありそうなことであるが、施行通達でこれは法の潜脱であるとしている。国としても十分お見通しのようである。事業者としては、十分検討の上、十二分に考えて適法な措置(逆によい機会ととらえ事業場内で「無期契約労働者」の処遇改善の新しい制度として利用も検討)をとって欲しい。

 参考 労働法 荒木尚志著 有斐閣

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