goo blog サービス終了のお知らせ 

元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

還暦をずっと前に迎えた(元)社労士の新たな挑戦!ボチボチとせこせこせず確実に、人生の価値を見出そうとするものです。

労働基本権(三権)は公務員には制限<最高裁は合憲とするがILO条約により違反指摘>

2016-11-05 18:11:49 | 社会保険労務士
 公務員の職員の種類によって労働基本権が認められる範囲が異なっている<特に消防職員はILO条約から問題となっている> 
 
 憲法28条は、「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動する権利は、これを保障する」となっており、労働者の労働基本権が保障されている。地方公務員も労働基本権の保障は、この意味の「勤労者」には変わりはなく、具体的な内容としては、団結権、団体交渉権及び争議権の労働三権が保障されているはずである。しかしながら、現行法においては、その公務ゆえの特殊性から、これら労働三権が認められる範囲は、職員の種類に応じ、それぞれその範囲が異なるとはいえ、制限されているところである。筆者が地方公務員法に関与していた関係から、地方公務員について述べるが、国家公務員についても、職員の種類に応じそそれぞれに制限されており、対象となるのが類似の職員であれば、同様の規制となっている。(下記の<公務員の職員対象別の労働権の態様>を参照のこと)

 1、一般の行政事務に従事する職員及び教育職員
 労働組合法の適用はなく、地方公務員法という地方公務員制度を一般的に規定する法律によって、この「団結権」は規定されており、そこでは名称が「労働組合」ではなく、「職員団体」を組織することができるとされている。なぜ名称が違うかというと、地方公共団体の当局と交渉はできるが、「労働協約」は締結することはできないとされている。労働条件は基本的には地方公務員法によって規定されているところであり、自分たちで(=労働者及び使用者)自分たちの協議により任意に規制することになる「労働協約」を締結することはできないとされている。それゆえに、団結権は保障されているが、労働協約については、締結することはできないのである。さらに、市民生活に支障が生じるだろうところの争議権は禁止されている。
 2、警察職員及び消防職員
 これについては、公共の秩序と安全を維持するという特殊性とこの職務を遂行するためには高度の規律の保持が要請されることから、団結権は認められていないし、団体交渉権を行使することは認められていない。それゆえ、当然争議権は認められていない。
 3、地方公営企業の職員および単純労務職員
 これは、その従事している職務の内容が民間企業の労働者と類似していることから、争議権を除く労働基本権については、民間企業の労働者とほとんど変わらない取り扱いとなっている。すなわち、労働組合法に基づく労働組合を組織することが可能であり、さらに当局と交渉を行い、その結果を労働協約に反映することができるのである。しかし、これらの職員であっても、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務する立場があり、争議権は認められていない。
 
 以上のように、職員の種類に応じて制限の程度はあるが、地方公務員法等の法律によって労働三権が制限されているところであって、これが憲法28条に違反するかについては、最高裁は職務の公共性と代替措置の存在(給与等勤務条件の改定について勧告する人事委員会の設置、同委員会に対する勤務条件に関する措置要求・不利益処分に対する審査請求等)を理由に、違反しないと判断している。(全農林警職法事件・最高裁昭和48.4.25、全逓名古屋中郵事件・最高裁昭和52.5.4) いずれにしても、これは、立法政策上の問題として捉えられるものと考えられる。

 しかし、ILOの条約を批准していることから、特に、消防職員は、条約が明文で労働権の適用除外を認めている警察及び軍隊の構成員とはいえないので、地方公務員法52条5項で消防職員の団結権が否定されているのは、第87号条約(結社の自由及び団結権保護条約)に違反するとILOの監視機構の指摘がある。また、2008年の第97回ILO総会基準適用委員会は「公務員に第87条条約上の権利を確保し、消防職員に当局の干渉なしに団結する権利を保障する必要を想起する。委員会は政府に対し、当面、消防職員組合の事実上の承認を進め、彼らが適切な協議及び交渉に参加できるように督励する」としている。

 そこで、2010年に設置の総務省の「消防職員の団結権のあり方に関する検討会」は、同年12月に報告書で5つの制度案を示したところである。 

 国家公務員の例であるが、公務員の労働基本権については、諸討議の結論として、2008年に「政府は、条約締結権を付与する範囲の拡大に伴う便益及び費用を含む全体像を国民に提示し、その理解の基に、国民に開かれた自律的労使関係制度を措置する」ことといった項目を含んだ「国家公務員法改革基本法」が国会に提出されたが、2012年に審議未了で廃案となった。このように労働基本権の付与に関して、公務員法の改革の基本法案がようやく出されたが、これも廃案となり、以後そのままになっている。

 参考 労働法 第2版 林弘子著 法律文化社                   (引用部分が多くあるが編集省略等の責任は筆者にあるゆえ)
    地方公務員制度(現代地方自治全集7)田中基介 ぎょうせい(昭和53年発行)(引用部分が多くあるが編集省略等の責任は筆者にあるゆえ)

 
<公務員の職員対象別の労働権の態様>
 法律            対象                           団結権 団体交渉権 争議権
 国家公務員法        警察、刑事施設、海上保安庁職員         ×    ×    ×
   〃             非現業一般職員                     ○    △    × 
 特労法*1      林野事業及び特定独立行政法人(印刷局、造幣局等) ○    ○    × 
※地方公務員法        警察、消防職員                     ×    ×    ×
※  〃             非現業一般職員                     ○    △    ×
※地公労法*2        現業職員、単純労務職員               ○    ○    ×
 自衛隊法           防衛省職員                        ×    ×    ×

 ※は地方公務員関係 何もないのは国家公務員関係

 *1=定独立行政法人等の働関係に関する
 *2=営企業等の働関係に関する
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする