就業規則等と職務発明について
前回の職務発明で、就業規則に書いた「発明者及び会社が協議の上定めた額」で会社に譲渡するというくだりの、「協議した額」とは、特許法では「相当の対価」となっており、従来は会社が受けるべき利益と会社の貢献度とを考慮して決めることになっておりました。これでは、発明商品の利益が大きい場合は、びっくりするような額になってしまいます。平成17年4月からは、就業規則のように、原則として会社と従業員との間での自主的な取り決めによって定められることになりました。(特許法35条4項)そこで、会社では、従業員との間との自主的な取り決めとして、いわゆる*「職務発明規定」などを整備するようになりました。就業規則モデル条文(中山慈夫著、日本経団連)では、まず会社と従業員の基本法ともいうべき就業規則に、「従業員が行った発明の取り扱いに関する事項は、職務発明の定めるところによる」として、別規定の職務発明規定に委任しております。そのうえで、詳細な職務発明か否か、承継の対価の算定方法等については、この*「職務発明規定」で定めています。
こうしたことにより、発明した従業員から会社への譲渡の対価の取り決めが不合理と認められるようなものでなければ、それぞれの当事者間の事情に応じて発明を生み出す従業員の研究意欲を高めるような対価を、自由に話し合いによって決めることができることになるわけです。この場合、不合理であるかどうかは、使用者と従業員による話し合いがどう行われるのか等の手続き面を重視して判断するようになっているようです。
結局のところ、新制度では、使用者と従業員の話し合いによる自主的な取り決めにより対価を決めることができますので、使用者の経営環境や従業者の研究開発などのそれぞれの当事者間の事情に応じて対価を決めて支払うことになります。したがって、必ずしも一律利益のなん%といったことにこだわらないとされています。ただし、争いになった場合には、その自主的な取り決めが不合理かどうかが判断され、そうであれば、改めて裁判所の算定した額が、その対価になります。
繰り返しになりますが、いずれにしても、就業規則等に職務発明の場合の、合理的な対価のルールを決めていない限り、譲渡の場合の対価は、「相当の対価」を支払ったとは、認められずに、裁判所の算定した額になり、従来どおりの「発明が生み出す利益」と「会社の貢献率」等により決まることになりかねませんので、高額な額を支払わないとならない羽目になりかねませんので、ご注意を。
思い出されるのは、裁判にもなった、中村修二氏の青色発光ダイオードダイオードの職務発明の件です。今、エコの問題もあり、私たちもおおいに恩恵を受けている発明ですが、会社は、すくなくとも、この「相当の対価」を支払わなければなりません。「相当な対価」の改正法律の経緯は、知りませんが、この裁判訴訟のころに、この改正はなされています。
(参考)就業規則モデル条文(中山慈夫著、日本経団連)
職務発明に関するQ&A(特許庁)
*職務発明規定;就業規則モデル条文(中山慈夫著、日本経団連)では、この職務発明規定のモデル条文を紹介しています。
#####<いつも読んでいただきありがとうございます。>####井