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今夜は Let It Go

2014-06-18 17:18:00 | 政治
ひさしぶりに伸晃語録が加わりました。

最後は金目でしょ
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140617/plc14061722590018-n1.htm

私の第二の故郷である神奈川県平塚市には金目(かなめ)という地名があります。白鷺が遊ぶ花水川沿いを東名秦野インターに向かうと金目橋がかかり、橋を渡って大磯方向に向かう途中に我が家の墓所があります。平塚市へ編入される前は金目村、以前は田畑ばかりでしたが、いまでは公民館や中学校のほかに、パチンコホールやヨークマートもあります。


平塚市金目を流れる花水川からダイヤモンド富士を望む


金目(きんめ)というなら金目鯛。平塚周辺の回転寿司では、季節もありますが伊豆で獲とれる金目は欠かせません。白身にほんのりピンクの帯が入って、淡泊ながらもちっとした食感がたまりません。旨い脂が出る煮付けも格別です。新鮮な金目鯛を生姜と鷹の爪を浮かべた煮汁を沸かしてサッと煮ます。

石原環境大臣の「最後は金目でしょ」の金目(かねめ)は初耳でした。会話でも文章でも覚えのない用法です。「何か金目の物を探せ」と泥棒はいいますが、「金目でしょ」という用例を思いつきません。ただ、「金目当て(かねめあて)」と補えば、何の過不足もありません。もしかすると、永田町界隈では、「金目当て」と口にするのを憚って、「金目」と省略して云う慣行でもあるのでしょうか。

そうではなく、石原伸晃環境大臣だけが、たまたま口に出したのだとすれば、なかなかユニークな言語感覚です。かつて、福島第一原発を「サティアン」と称して物議を呼びましたが、父親譲りの身も蓋もないレトリックに、作家の血をみるのは私だけでしょうか。私だけでしょうね。

「最後は金目でしょ」発言は、福島第一原発事故の除染で出た汚染土などを保管する中間貯蔵施設の建設の候補地として、福島県大熊、双葉両町の住民説明会を終えた直後に出たものです。

中間貯蔵施設といいながら、やがて恒久的な貯蔵施設になるのは誰もが予想していることです。その補償額も当然、中間貯蔵施設を建前にしながらも、実質的には恒久的な貯蔵施設として、政治的に算定されるわけです。

「住民説明会ではお金(補償)の話が多く出た」ので、「最終的には補償額」と結論づけたのはわかるのですが、「最後は金目でしょ」と「PC(政治的な公正)」の問題だけでなく、日本語としても奇妙な変換を口にしてしまいました。住民説明会の直後というTPOから考えれば、「(住民側も)最後は金目(当て)でしょ」と補って解釈するのが至って妥当でしょう。

お約束のように、野党や県知事などから、「住民に不快な思いをさせた」「住民の心を傷つける」という批判が出て、石原大臣も「不快な思いをさせたとしたら」と「お詫び」しました。かねてから、この「不快な思い」や「心を傷つける」の乱発が気になってしかたがないのですが、いったい、なんなんですかね、これ。

「不快な思いをさせられた」や「心を傷つけられた」と面と向かって批難する人々が、一方にいなければ成り立ちませんが、そんな人がいるとはとうてい思えません。もしいたとしたら、その救済は、「愉快な思いをさせてもらった」や「心の傷が癒やされた」などであるはずですが、そんな話はついぞ聞いたこともありません。

いや、「不快な思いをさせられた」り「心を傷つけられた」人々は、その声を上げることさえできないのだ、それは想像的に聴くものだ、代わって忖度や配慮しているのだ、というなら、事実報道にはまったくそぐわないし、そんな代弁をいったい誰が認めたのでしょう。いかにも露悪的な「最後は金目でしょ」と、いかがわしく偽善的な「不快な思い」や「心を傷つけ」を、まさに好一対と思えるのは、私だけでしょうか。

些末な言い間違いをとりあげてという向きもありましょうが、国民は記者でも学者でもないのですから、議員や大臣などの些細な言動から、その適否を判断するのはしかたがないことです。また、人物判断としては、あながち的外れではない事例(バンソーコ大臣とか)を私たちは数多く見てきました。

石原伸晃環境大臣にも、そんな些細な場面がありました。石原大臣はお詫び記者会見の間、手元の原稿を読むためにほとんど顔を伏せていました。記者との質疑が終わり、林立するマイクの前を離れ、会見場を後にするとき、その場面が映されました。写真左に映っている、たぶん環境省の秘書官に、読んでいた原稿をサッと手渡し、足も止めずに歩き去ったのです。


石原伸晃環境大臣と秘書官(左)

秘書官は写真の通り、なかなか男らしい渋い風貌で知的な眼光を備えています。誰が見ても、石原伸晃大臣より格上の人物と思うはずですが、たかが数枚のペーパーを持たせて従わせたのです。

なるほど、たかが数枚のペーパーとはいえ、持ち続けるのが負担になるほど重かったんだな。なるほど、たかが数枚のペーパーとはいえ、一秒でも早く手離したいほど忌々しかったんだな。なるほど、記者会見のお詫びペーパーは、この秘書官が一字一句書いたものを渡されて、用済みになったので返したのだな。なるほど、秘書官が書いたにしろ、自分がその作成にほんの少しでも関与していたら、こう突っ返しはしないものだな。以上四つのことがわかるわけです。なるほど、石原伸晃は威張ってるんだな、を入れると五つですが。

自分なりの、自分らしい、ありのままの、石原伸晃が話すと「最後は金目でしょ」になるわけです。「「れでぃっごー」」にうんざりしているのは、私だけでしょうか。

(敬称略)