Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

それをしたらダメ!NG事例から学ぶ臨床研究デザイン

2023年07月12日 | 勝手に紹介
JIPADのデータを使って、自治さいたまの若き研究者と一緒にやっている研究がある。入室24時間以内に行った検査Xは患者予後を改善するかについての検討で、登録症例を検査施行群と非施行群に分け、propensity matchingして予後を比較したところ、検査Xを行った方が予後が良いという結果だった。ちなみに、対象患者を全ICU患者にすると日本のICUの特徴である予定手術の1泊2日がたくさん入ってきて重症度が極端に低くなってしまうので、24時間以内に生存退室した患者は除外した。
この研究は、自治医大から最近東大に移った笹渕くん(自己紹介がまだ自治のままだよ)に統計のサポート(Rの使い方とか)をしてもらっているのだけど、草稿がほぼ完成した段階で読んでもらったところ、「immortal time biasが発生するので24時間で退室した全例(つまり死亡例も)を除外する必要がある」という指摘を受けた。もうほぼ書き終わっているから許してくれとゴネたのだけどダメと言われ、諦めて若者に解析を全部やり直してもらったところ、なんと結果がひっくり返り、検査Xは予後を改善しない、という結論になった。

いやー、ICUの研究でチョロい予定手術を除外するのはありがちだと思うので、自分では気が付かなかった。Immortal time bias、やっぱり怖いね。24時間以内に死亡した人は検査Xをする時間がなかった、もしくはする価値がないと判断されたので、検査非施行群の死亡率を上げてしまう。そしてその差はmatchingしても消えない。
「笹渕くん」なんてもう呼べない。これからは「笹渕大先生」とお呼びすることにする。東大の准教授先生だし。

で、その大先生がお書きになった本が、本日発売されます!

出版社から僕のところに数日前に送られてきた。
大先生からの献本なので、当然のことながら正座して読ませていただき、ここにその感想を述べさせていただきたいと思う所存でございます。

「はじめに」の最初に書いてある通り、この本は研究初心者向け。研究の準備から発表まで、33種類の陥りやすい落とし穴について、分かりやすい例をあげながら説明している。その代わり、難しい統計学とかの情報についての記載はほとんどなく、例えば脱落症例への対応として多重代入法を行うとバイアスを減少させることができる、とは書いてあるけれど、多重代入法についての説明はゼロ。良い意味で徹底しているなーと思った。さすがに僕的に知らないことはほとんど書いてなかったので、1時間強で全部読めたけど、これから研究を始めようと思っている人、トライしたけど挫折してしまった人でもそれほど時間はかからずに読めるのではないか。
どの項目も、「そうそう、こういう間違いするよね」と思うものばかり。ということは、この本は研究初心者が対象の本ではなく、研究初心者は必読の本ということだ!

たった一つ、問題があることに気がついた。
なんでピンク?
とくにコラムなんて全部ピンク。老眼には読みずらい。

あ。
研究初心者に老眼はいないか?

あ。
もう一つ気がついた。
落とし穴の13番目はimmortal time bias。
「そんな初歩的なことを間違えるお前は、この本を読んで勉強しろ」というメッセージか!
ブログで紹介してくれという依頼かと思ったら、違ったか!
むむむ。言い返せない。。。
コメント
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